飛んでったナカガワ
「火事だ」人々が凍りついた。しかしナカガワはさすが元エリート特務員、ぱっと出口に駆け出した。上背のある男だが、かなり身が軽い。
「彼、どこに?」カンナに聞く。
「部長? 非常時にはフロアに戻って部内確認、それから担当部署チェックじゃない?」
非常ベルは鳴ったのと同じくらい突然に止んだ。耳鳴りがするほどの静寂。
すぐに、ざわめきが戻る。
「何だったんだ?」館内放送が入る。
「全館連絡。非常ベルの誤作動と思われます。担当部署チェックお願いします」
カンナの通信機が鳴った。
「作戦課第三班カンナ。コード一〇六七。十二階大会議室にいます、異状なし」
抜き打ち訓練じゃないの? としごくあっさり言っている。
シヴァが近づいてきた。
「ねえ、ハルさんは?」そう言えば、ここに来てから春日をずっと見ていない。
何となくこの場では黙っていた方がいいような気がして、シヴァの方を見ずに
「カスガが来たことは、ちょっと黙ってろ」そう小声で伝えた。シヴァは少しだけ眉を上げただけで、また展示物を見に戻っていった。
それからしばらくしてから、コーヒーを飲みに行くふりをして会議室入り口の受付をのぞいた。誰もいない。名簿だけが置きっぱなしになっているのを、知らん顔しながらめくって確認。
やはり春日の名は入っていなかった。
アイツ、最初からここが目的ではなかったんだ。
それでも一通り中を見学してから、まだ後ろ髪をひかれたようなシヴァを引きずるように、彼は支部へ帰っていった。
「なあなあ、あれ見たか?」
ローズマリーがやってきた。本部に出張してから数日後の朝。
顔が笑っている。「あの写真」
「何の写真?」
彼は胸のポケットから、上質紙にプリントアウトしたL判くらいの写真を引っぱり出した。
「削除される前に急いで印刷したんだ」




