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近寄るなハルさん

「へええ」

 サンライズはすでに屋上から立ち去ろうとしている。

「いいじゃん、がんばれよ」

 個人的には本部技術部の部長に特にうらみもない、しごくあっさりそう答えた。

「おい」腕をつかまれた。

「年末に手伝ってやったじゃん、今度はオマエが手伝えよ」

「何言ってんだ?」


 サンライズがひいきにしていたおむすび屋のオジサンが、近所の悪ガキどもに襲われた時、ちょっとした縁でおじさんを助けたことがあった。

 春日と言えば、確かに現場には一緒に駆けつけたものの、悪ガキと乱闘になった時には高見のケンブツを決め込んでいたのでは?


「しかもアレ、御礼におむすびもらってるじゃん」

 悪ガキを追い払った後、ふたりは御礼だということで、おむすびをいただいていたのだった。

「でもさ、あん時オレ一回分しかもらってねえ」

「あの後すぐに入院なんかするからだ」

 少し口調を落として、サンライズは春日をみた。

「復讐なんて考えるなよ、それよか支部長に相談してみたらどうなの? それか本部長」

「本部長? ドルーピー? ダメダメ」

 春日が嘲笑った。

「アイツはぜんぜんナカガワの敵じゃない。むしろけしかける側だろうな」

「支部長は?」

 春日、腕を組む。

「それが不思議なんだが……本来なら支部長は技術部長より全然格上なのにさ。いくら仏のチュウさんと言われていてもよ、遠慮しすぎに見える。いつもヤツがガミガミ言いに来ても、あまり反論せずにおとなしく聞いてるんだ」

 時には、ナカガワが来た、と聞くと裏口からこっそり逃げてしまうこともあるのだとか。

 何でも泰然と受け止めるように見えていた支部長の、意外な一面を垣間見た気がする。

「しかし証拠がないよね……」

 社内の個人デスクに盗聴器となれば、まず内部の仕業に百パー間違いはないが、それでも、それをすぐナカガワに結びつけることはできまい。

「だから本人に確認するんだよ、まず」

 春日が肩を寄せてきた。

「オマエさ、今度本部に打合せに行くだろ?」

「えっ、そんな予定聞いてないけど」

「特務装備品の説明会だよ、回覧まわったろ?」

「それって普通、作戦課が行くんだろ? 回覧見た記憶もねえ」

「特務のリーダーだって、よく見に行くぞ。オマエもぐりだなあ……まあいい、もう出席で出しといたから」

「えっ」やることが早すぎる。

「オレも予算組のカンケイで見たいから、って出した」


「それいつ?」

 次のミッションが入っているかも、いや、入っているといいなあ。


「明後日、午後一時から」

 がーん、何も予定がない。


「オマエも特務で一人じゃ寂しいから、部下のシヴァくんを連れて行ってよろしいよ」

 偉そうに春日は胸を反らせた。

「昼一緒に食おうぜ、新橋ならいい所知ってるぞ。また出る時間決めたら教えて」


 すっきりした顔をして、春日はひとり、さっさと行ってしまった。


 後にはぽつんと残されたオッサン一人。

―― もらい事故にあったような顔してるだろうな、オレ。


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