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怒りのハルさん

 春日はサンライズに怒っているわけではなさそうだ。

 サンライズ、少しだけ肩の力を抜いた。

「はあ? 誰が?」

「上の指示に決まってんだろ?」

 春日はまだ鼻から煙を出している。

「帰って来てシゴトしてて、電話したらさ、外に、したら」


―― 最初は耳鳴りかと思った。しかし、電話が済んで受話器を置いた時、音が止んだ。


「何考えてやがるんだ? オレが昔『特務のカメちゃん』と恐れられていたのも知らねえのか?」

「歌にもなったよな……もしもしカメよカメさんよ」

 春日がサンライズの背中に肘を落とした。

 思わずくわえていたタバコを落とす。

「もったいねえ、三秒ルールだ、拾え」

「なんで皆さんすぐボウリョクに訴えるんですかねえ」

 まだ火をつけてなくてよかった。拾い上げて、少し曲がったのを丁寧に直してからまた口にくわえる。


「本部の技術部臭え」

 春日はいっきに煙草を灰にして、灰皿にねじ込んだ。まだサンライズは火も点けていないのに。

「かなり最新のヤツだった……あんなの買えるのは本部しかねえ」

「開けてみたのか?」

「あったぼうよ」


 それでも、取り外さずに様子をみているのだという。


 本部と支部とは、微妙に仲がよろしくない。

 特に本部と東日本支部との相性はその頃最悪だった。本部はトウキョウに、東日本はシンヨコハマに拠点を構えていたが、この距離の中途半端な近さで同じような仕事をしている、というところがお互いに気になるのだろう。


 その中でも特に双方の技術部、しかも特務課がどうも宿命の仇どうしといった雰囲気をもっていた。


 トウキョウもんは支部のヤツらを「シュウマイ」呼ばわりし、支部は支部で本部のヤツらを「ひよこ、つまりチキン以下」と称していた。


 お互い人事異動などもあるので、もう少し仲よくすればいいのだが。郷に入っては郷に従ってしまう、シゴトニンたちの哀しいさがだった。


 その中でも格段に嫌われているのが、

「あの部長……」

 春日、次の煙草に火をつけた。「ぜってえ、許せねえ」


 噂にはよく聞く。

 本部技術部のオニ部長、ナカガワのことらしい。


 かつては特務課の中でも冷静沈着、切れ者のエージェントだったという話だった。のっぺりした弁当箱みたいな顔に銀縁のメガネを光らせ、その奥の切れ長の目も鋭く、一度睨まれると夢にまでうなされるという伝説の『イヤなヤツ』だった。


「アイツ、東の支部長にもよく噛み付きに来やがるし。あのホトケのチュウさんにだぜ」


 東日本支部のやり方が手ぬるい、社内風紀が乱れている、といちいち支部長に食ってかかるのだそうだ。


 東日本支社に対し、社内機密についても管理がなってないのではないか(それはサンライズも、身内ながら時々感じることがあった)、特に総務から外部にかける電話で、大事な作戦機密が漏れたのではないか、とも疑っていたらしい。


「それで、オレのデスクにいきなり盗聴器かよ」

 春日はまた、鼻の穴から勢いよく黄色い煙を噴きだす。

 煙は絵のようにまっすぐふた手に分れた。


 ナミちゃんのデスクの方には付いてなかったらしいので、電話はそちらからかけるようにしているのだと言う。


「今にナミちゃんに怒られるぞ、来ないでスケベジジイ~ってさ」

「もう言われた」

 それについては、ケロリとしている。


 すでに二本目も吸い終わろうとしている春日、サンライズに向き直った。

「ヤツに目にモノみせてやる、復讐だ、リベンジ・マッチだ」

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