Ep1 第1話 Town(雪藤詩歌)
先ほどの林はほとんど視界から消えうせ、代わりに小さい建物がたくさん増えてきた。
どれも平屋か2階建てで、アメリカならではの近代的なビルなどは一切姿が見えない。
本当に相当のド田舎らしい。
その一群の向こうに霞がかかった大きな山が頭をひょっこり見せている。
「ばかでかい山ね。アレなんて名前?」
「Mount Pineだ。人気のない登山スポット、まあロープウェイどころか売店すらないようじゃな。それにしてもそんなことも知らずによく取材なんていえるな」
「ホントは3日前まで違う人が行く予定だったの。でもその人、今日本で流行りの新型インフルかなんかにかかっちゃってさ。急遽取材を任されたのよ」
運転手はお気の毒にと呟いた。
「いや、こっちはむしろ大歓迎。仕事が少ないこのご時勢にホントありがたい話。おまけにアメリカに行けるんだから一石二鳥よ」
詩歌は歯切れのいい声を上げた。
「しかしその取材先がアメリカ屈指の発展途上都市ってんじゃ浮かばれねぇな」
運転手はケラケラ笑った。
「それにしてもアンタ、取材ってのはやっぱりアレのことかい」
「えっアレ?」
詩歌は自分でも驚くほど素っ頓狂な声を上げた。
運転手はそう、アレだよと少し苦い表情で繰り返してきた。
「アレってなに?」
「決まってんじゃねぇか。ほら、4ヶ月前の……」
「4ヶ月前に何か起きたの?」
運転手は呆れた顔をした。
そんなこともしらねぇのかって、そんな顔。
「おいおいアンタ、アレが目的じゃなかったら何のためにココに来たんだよ」
「え? その、小さい町の自然スポットの紹介のためだけど」
「じゃああの事件が目的でここまで来たんじゃねぇのか?」
「あの事件?」
詩歌は胸を躍らせた。
最近サスペンスドラマにはまっているのでなおさらだ。
丁度自然探索だけじゃ物足りないなぁとさっきまで愚痴ってたところだ。
「それ、詳しく教えてよ」
「うーん、アンタみてぇな若い子に喋って良いものかどうか……」
「私は新聞記者! 若いとかそんなのゼンゼン関係ないから!!」
「……そうか」
丁度フロントガラスからよく見える古臭い信号が赤になった。
運転手は仕方ないといった表情で車をゆっくりと止めた。
「胸糞悪ィ話だからな、聞いてソンすんなよ」
「むしろ私の収入にしてやんよ」