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Prologue プロローグ(雪藤詩歌)

 ここは少し人里から離れた町――

 少し人気が少ないけど――

 それでも活気はある――


 10月12日 午前10時20分 ラストエイム国際空港 タクシー広場


 不思議な夢の途中で、雪藤詩歌(ゆきとうしいか)は眠りから覚めた。

 詩歌の携帯の着信音がかぶさり、一気に覚醒へと持っていかれた。

 編集長かもしれない――

 詩歌は手に携帯をとった。


「もしもし……」


 携帯はうんともすんとも言わない。


「もしもし」


 詩歌は語尾を上げて相手の返事を促した。

 だがそれでも一向に返事がくる様子はない。

 携帯の向こうは無音――本当に何も耳にはいってこなかった。

 番号を見ると、それは今まで見たこともないものだった。

 詩歌はすぐに携帯をきった。

 携帯に無言電話は初めてのことだった。


「……気味悪い」


 詩歌は座っているベンチからさっさと立ち上がり、一台の黄色いタクシーを拾った。


「すいません、ちょっと遠いんですが――ウエストストーンまで」


 運転手の男はどうぞと軽く言い、ドアを開けた。

 男はきっとまだ30代後半ぐらいだろうが、結構髪の毛が後退している。

 対照的に髭は耳たぶ辺りまで伸びていてひょろい体型、そしてタクシー業のわりには健康な感じに見えた。

 緑のチャック柄の上着にどうということもない普通のジーパン。

 日本のタクシー運転手は皆制服がある。

 これがアメリカへ来た、という詩歌にとっては深い実感になっていた。


 ブルルルルル……


 エンジンが空回りしてるのかと思いきやそうではなく、タクシーはキチンとタイヤを回しはじめた。


「ウエストストーンねぇ、古い名前だ。アンタあの辺境の出身だったりするのかい」


 詩歌はえっと思った。

 小さい国の日本人の自分がこの広大なアメリカの出身だなんて。

 まあ研修留学で滞在してたこともあったから、立ち振る舞いとかはそう見えなくもないかもしれない。


「なんでそーなるんですか」

「見たとこ若いし、故郷へ久々に帰ってきたーなんて感じがするしね」

「ざーんねん、それ大間違い。あっ若いってのはあってるよ」


 詩歌はそこだけは否定しなかった。

 詩歌はまだ19なのだ。


「それじゃーなんだ? 友人でもいんのかい」

「違いまーす。取材だよ、取材」

「しゅざいいぃい?」


 詩歌はよく小学生と間違われるが、小学校なんかとっくの昔に卒業している。

 この140cmくらいしかない哀れな身長のせいで詩歌は人生の半分は無駄にしていると思った。

 よくそのままの方がかわいいともいわれるが、不便さを考えたら――


「え、なんだい。じゃあそんなに小せェのに、マスコミなのかい」

「小さいって失敬ね。私は日本の新聞記者よ。ちょっとした企画でね、取材先がウェストストーンってとこなの」


 やっぱり背が小さいとこに突っ込んできたか。詩歌はやっぱりという顔をした。

 ははぁ~と運転手の見る目が変わった。

 ふっと詩歌が眺めていると、ある看板が目に入った。

 信号待ちだったのが幸いしてその看板をゆっくり読むことが出来た。


 『Mon Fierro』

 『West Stone』

 『Mount Pine』

 『Extreme Place』


 緑色の少し小汚い看板に、白い文字で4つの地名が書かれていた。

 ウエストストーンは上からふたつ目だ。


「にしても取材場所がウェストストーンとはねー。随分と奇特な企画をお立てになったな」


 詩歌は運転手のよそよそしい言い方が気になった。


「……そんなに風変わりな場所なの?」

「ツイン・ビークスみてェに田舎臭さ丸出しでよ、まあファーストフード店ぐれェはあるが信じられねぇことにヤツら――」


 運転手は大きく息を吸い込んだ。


「『ピクルスを入れないハンバーガー』を『ピクルスを入れるハンバーガー』として売ってやがる、今世紀最悪のクソさ」


 それが本当なら詩歌がこれから向かう先は恐ろしくド田舎ってことになる。

 せっかく久しぶりのアメリカなのに……


「まあ、とにかく生水だけは絶対に避けるようにするけどね」

「ナイスな判断だ、そうするといい。おっとそろそろ到着だ。ようこそ、ウエストストーンへ」

異国の村で少女が恐ろしい目にあっていくサスペンスです。

視点も少女ひとりから少しずつ広げていって、謎が解明できるようにします。

伏線もたくさん張ってますんで、楽しんでいただければなって思っております。

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