メリーとクリスマス
『第1回短編小説コンテスト』という企画用のクリスマス短編です。処女作につき色々と至らない部分もありますが・・・読んでいただければ幸いです。
「……寒」
バイトを終え、店を出て俺が抱いた感情は寒いということだけだった。今日は12月25日。俗に言うクリスマスというやつだ。
街は電飾で彩られ、見渡せば周りはカップルで溢れかえっている。
「はぁ……」
思わずため息が漏れる。こんな日にバイトを入れている理由など想像に難くないと思うが、俺には彼女がいない。
そしてそんな俺を嘲笑うかのように街はリア充で溢れている。そんな中を一人とぼとぼと帰路に就く。
10分も歩けば自宅であるマンションに到着するので、10分余りの辛抱だと自分に言い聞かせながら歩みを進めるとゴミ捨て場が目に入った。
何の気なしに視線を向けると人形が捨ててある。何もこんな日に人形を捨てなくてもいいだろうと思いながら気付けば俺はその人形を手に持っていた。
手に取ったそれは女の子の人形で別段壊れているわけでも汚れているわけでもない。
しばらく眺めていたが、別に欲しいというわけでも持って帰ろうと思っているわけでもなかったのでおいてあった場所に戻すと、再び帰路に就く。
そこからは特に変わったこともなくマンションに着き、電子ロックの玄関を抜けてエレベーターで5階に向かう。
503号室、ここが俺の住まいである。
「ただいま……」
鍵を開け誰に言うでもなく呟く。
家に上がりレトルトのカレーと冷や飯で夕飯を済ませるとテレビをつけて年末の特番を視聴する。
そろそろ風呂にでも入ろうかと思い始めた頃、唐突に電話が鳴り響いた。
こんな時間に誰だろうと電話に出ると幼い少女の声が耳に響いた。
『あたし、メリーさん。今ゴミ捨て場にいるの』
一瞬耳を疑った。そして俺が何かを言う前に相手は電話を切ってしまう。
「……悪い冗談だよな?」
俺は立ち尽くして自分にそう言い聞かせることしか出来なかった。
そのまま電話機の前で立ち尽くしていると再び電話がかかってくる。
恐る恐る再び受話器を取ると先ほどと同じ少女の声が耳に届く。
『あたし、メリーさん。今マンションの前にいるの』
それを聞いた俺は思わず受話器を落としてしまった。
まだ悪戯であるという線は消えていないが恐らく間違いない。この電話はかの有名な都市伝説、メリーさんの電話だ……。
確かあの都市伝説では最後メリーさんに……。
しかしさっきマンションの前にいるって電話があったし逃げるのは不可能……か。
俺が色々と考えに耽っているとまたしても電話が鳴り響く。
無視しても無駄であろうことを覚悟し俺は恐る恐る電話に出る。と、受話器の向こうの少女はとんでもないことを俺に求めてきた。
『あ、あたし、メリーさん。電子ロックが解除できないから開けて欲しいんだけど……』
……今から俺を殺しに来るような奴を自分から招き入れろと?
『……お願い……だからグスッ。開けてよぅ……』
しばらく反応がなかったからだろうか次に聞こえてきた少女の声は震えていて電話越しにも泣いているであろうことが理解できた。
それを聞いた俺は気付けばロックを解除していた。
そして解除してから思う。って、何をやってんだ、俺は!?
今から俺を殺しに来るんだぞ!?そんな奴を自分で招き入れるなんて愚の骨頂だろ!
俺は自分の行動を後悔しつつ、相手が何であれ女の子に弱いという一面を俺が持っていたなんてことを認識させられて自分の馬鹿さ加減を笑えてくる。
「あははは……」
思わず口から笑いが零れる。
それから数分後、我が家のインターフォンが鳴り響いた。
って、え?インターフォン?電話じゃなくて?
俺は慌てて玄関に向かいチェーンをしたまま扉を開いた。
そこには先ほどゴミ捨て場に放置してあった人形がこちらを見上げていた。
どうでもいいがどうやってインターフォンを押したのか……。
なんて頭の中で考えを巡らせていると人形が口を開いた。
「あ、あの……お邪魔させてもらってもいいでしょうか……?」
人形が口を開いて話したということだけでも驚きだが今までの電話でその辺りの事はスルーすることにする。
問題は今、この娘が言った言葉だ。
お邪魔させてもらってもいいでしょうか?俺の聞き間違いでなければ確かにそう言ったはずである。
「あ、あの……」
俺の無言を否定と受け取ったのか、人形は悲しそうに俺を見上げる。
「ああ、すまない。少し考え事をしていた」
言いながらチェーンを外し俺は人形を家の中に招き入れた。
もう殺されるかもしれないという懸念も恐怖もなくなっていた。
俺は人形を部屋に案内し椅子に座らせると向かい合うようにして席に着いた。そして人形が口を開くのを待つ。
「……あたしはメリーっていうの」
人形――メリー――はそう切り出した。
うん、それは知ってる。
「うん、それは知ってる」
っと心の中にとどめておくつもりがうっかり声に出してしまった。
まあずっと電話で「あたしメリーさん」なんて言われ続けたら相当鈍くなければこの人形がメリーだとわかるはずだ。
「あ、そ、そうだよね!あはは……」
メリーは恥ずかしそうに笑いながらうつむく。
「それで?俺に何か用があるんだよな?」
でなければさっき会った――あれを会った、と言えるかどうかは定かではないが――ばかりの人間の家をわざわざ訪ねるだろうか。
「あ……えっとね」
俺の問いに対しメリーの言葉は歯切れが悪い。
「……もしかして用、なかった……とか……?」
「そ、そうじゃないの!ただ……」
俺の独り言のような呟きをメリーは頭を振って否定する。
しかし、やはりどこか煮え切らない様子でもある。
メリーは何度か口を開きかけてはやめるということを繰り返し、小さく独り言のように言葉を紡いだ。
「貴方がなんだか……寂しそうだったから……」
それを聞いて俺は口から声が出なかった。
そんなことのために……?
そんな俺にメリーはさらに続ける。
「なんだか……似てるのかなって……。それで気になってついてきて……。ほら、私も……一人だし……。……一人同士が揃えば一人じゃなくなるでしょ……?」
俺はようやく合点がいった。
つまりこの娘は、俺と出会ったときに俺から何かを感じ取った。
そしてその何かを確かめる為にここにきて、自分と同じ境遇にある俺と共にいたいと、そう感じたわけか。
「……ありがとう」
気付けば口から洩れていた。
「……最高の、クリスマスプレゼントだよ」
それは心からの言葉だった。
俺が告げるとメリーは嬉しそうに微笑んでこう返した。
「……MerryChristmas」
えーと・・・これ、ファンタジーでいいんですよね・・・?
とりあえずメリーさんにメリークリスマスといわせようと思い立ちそれに向かってただ突っ走りましたw
またメリーさんも都市伝説とは違ってなるべく可愛くそして怖くないようにということを目標に書きました。
正直落ちとかタイトルとか安直過ぎて終盤書いてるときはずっと顔真っ赤でした・・・w
まぁ何はともあれこうして完成させることができてよかったと感じております。
最後になろうに登録されてない企画参加者の皆様、設定変更を忘れて感想が書けない状態が続いてしまいすいませんでした。