神と取引
あたいがちょうの国に住むって宣言するとエルタは困った顔をした。
「妖精界は妖精しか住めないよ。そういう決まりなんだ」
あたいは手を合わせて拝み倒す。
「そこをなんとか!一生のお願いだよ!」
エルタはあぐらをかき逆さになって腕組みしてあごに手を置く。
「う〜ん、神様に頼めば妖精にしてくれるかも」
「神様っ!?会いたいっ!」
「厳しい試練が与えられるよ。奇跡を起こすんだ。奇跡と釣り合う試練だよ」
「どんな厳しい試練でも乗り越えてみせるさ!」
あたいは拳を振り上げた。ついでにおねだりする。
「ねぇ、エルタ〜。あたいが妖精になったら結婚して〜ん♡」
両手を組み猫撫で声でくねくねしながら上目遣いでお願いする。生まれて初めて男にマウント取らせてみた。効果はどうだ?
「いいよ」
あっさりすぎてとまどう。
「まじで?身分の差とか人種の違いは?」
「身分なんて気にしないよ。きみは面白いし正義感が強い。地上のちょうにきみの情報収集させたんだ。ガッツがあって素敵な女の子だって知ってる。妖精になればぜひ結婚したいな」
「親とか兄弟はいいの?」
「王子の地位を失ってもきみとなら楽しい人生を送れそうだ」
「エルタ〜ん♡」
あたいはおもわず両手で抱きしめた。ぜったいにものにする!エルタの小さい小指と指切りして嘘ついたら針千本飲ませる約束もしといた。エルタは王族特権で神世界への扉を召喚しあたいたちは神の国を訪れる。
神の国は古事記に出てくる豊葦原の瑞穂の国のイメージにそっくりだった。
「葦が豊かに生い茂り、みずみずしい稲穂が実る国」だ。
豊穣な国土が広がっている。鮮やかな田園風景に川もすごいきれいって感じ。あゆが泳いでそうな清流だ。
あたいは山の上にある神社に連れて行かれる。
「神さま〜ごめんくださ〜い!」
エルタが社殿に声をかけると中から神主姿のシロクマがヌッと現れた。白衣に紫色の袴をはいている。
「よっ!どないしてん?」
関西弁だ!親しみやすい人柄だな。神だから神柄か?神様って動物だったんだな。動物は神の使いとはよく聞く。奈良の鹿とか岩国の白ヘビとか。
「神様、お願いします。あたいをちょうの妖精にしてくだせえ!」
人生いち深くお辞儀した。
「う〜ん,そやなぁ。全人類の魂のレベルを100にしたら叶えたる」
「それはなんの意味が?」
「魂が合体して新しい神が生まれるんや。人類が何万年かけても到達できんかもしれん境地で、神様が力を使って実現するのは反則やから人間のきみに実現してもらいたいねん。地球を任されてるのはわいやから、わいの手柄になって神位あがんねん。そしたらちょうの妖精にしたる」
あたいは考えた。いまのあたいのスペックでは到底不可能だ。
「ムリゲーです。なにか能力ください。催眠系がいいです」
「そんなんあかんよ。チートやん。だれでもクリアできる」
そりゃそうだ。虫が良すぎたか。ちょっとした能力ならくれそう。めっちゃ考える。頭が煮えるほど考えた。そして閃く。
「あたいと地上のすべての虫に人間の魂のレベルが見えるようにしてくれませんか?」
「そんぐらいならええで。確認できんときついわなぁ。虫にまでつける意味はわからんけど、ちょっと待っとき」
シロクマはおおぬさを社殿からとってきた。白い紙がわさわさついている棒だ。あたいの頭の上で振るう。
「これでOKや。ほながんばり」
「ありがとうございます!必ずやご希望に応えて見せます!」
あたいとエルタは頭を下げて社殿をあとにした。階段を降りながらエルタに問う。
「賽銭いれてお参りしたほうが良かったんじゃないか?ご利益すごいありそう」
運気が上がって試練もうまくいきそうだ。
「神の国のお金は持ってないよ。神様の仕事を何か手伝わないともらえない。いまそんな余裕ないでしょ?」
「ないね。またの機会だ」
残念賞無念また来週だ。妖精界に戻ってエルタに手を合わせる。
「エルタお願いがあるんだけど、地上の虫たちにあたいのいうことを聞いてくれるようにお願いしてくれないか?一生のお願い!」
「一生のお願い多いな。きみは命の恩人だからできるだけ協力するよ。ちょうは大丈夫だけど、ほかの虫はどうかな」
「あたいはゴキブリも外に逃がせる時は逃がしてきたし、カメムシも手で優しくとって外に逃がしてきた。セミの死体もアスファルトから土の上に移動させてあげたよ。無益な殺生は極力控えて生きてきた。人間より虫や動物が好きなんだ。花もね」
「それなら、それぞれの妖精たちの王に会いに行こう」
あたいはゴキブリやカメムシ、セミ、ハチ、ハエの王に会いに行った。みんな女王だった。妖精界は女性が王になることが多いらしい。ゴキブリは忍者みたいな装束でカメムシは防毒マスクをつけててセミはヘッドフォンを首にかけてて、ハチはパンクな衣装でハエはパーカーを着てた。みんな個性的だ。
「地球から人類が消えれば虫の天国だよ?協力しておくれ!」
必死に頭を下げてお願いするとみんなOKしてくれた。あたいの今までの素行を地上の虫にチェックさせて虫を無駄に殺してないことが判明したのが好印象だったようだ。花を愛でる心もほめられた。粗末な家だがいつも玄関に野に咲く花を飾っていた。妖精は花が大好きで花好きという共通点に強い親近感を持ってくれたみたいだ。
あちこち行ったので夢の中でも疲れた。いつのまにか花畑のベッドで寝落ちしていた。目覚めると夢が覚めて現実に戻る。
手札はそろった。ゲーム開始だ。あたいは悪魔のような顔でニヤリと笑った。




