ちょう使いの少女
ぼくの名前は一文字憲章15才の中学3年生だ。
家は大金持ちの財閥で長男である。下に小学生の妹と幼稚園児の弟がいる。名門中学に通うエリートであり将来を約束された存在だ。頭脳明晰、運動神経抜群、いずれ総理大臣になりこの国を支配して龍の国を世界一の経済大国に導き世界の王を冠する男である。
小学生の頃も生徒会長だったが今も生徒会長を務めている。
昼休み、スクールカーストの上層部に所属する3人の学友たちと中庭の憩いの場でお茶をしていると、いつものメンバーの1人である黒松アゲハくんが少し遅れて姿を現した。
くせ毛のそばかす少女はスッと空いてる席に座る。
「ごきげんよう。みなさま、楽しそうですわね。わたくしも混ぜてくださる?」
天使のような微笑みと上品な言葉遣いにみんながざわつく。
「どうしたの?アゲハさん?頭でも打った?いつもとキャラがずいぶん違うようだけど?」
メガネ女子の黄町くんがメガネの端を軽く持ち上げ怪訝そうな表情を浮かべる。
「そうだよ。アゲハちゃんいつもそんなんじゃないじゃん?それにそのちょうちょさんはなに?」
大きなリボンをつけている少女紋白くんが人差し指をあごにそえる。驚いたことにアゲハくんの周囲には色とりどりのちょうちょが飛んでいた。10匹はいる。まるで彼女を恋慕うように舞っていた。
「なんだそれ?ちょうかっこいいじゃん!」
髪をツンツンに立てている少年、赤立羽くんは目を丸くしている。
「ペットです。あなたたちも欲しいですか?」
アゲハくんは首を傾げて見せる。
「欲しい!」
「欲しいぜ!」
「欲しいわ」
みんな興奮している。アゲハくんは腕組みしあごに手を置きじーっと3人を見つめた。肩をすくめる。
「いまのあなたたちではムリですわ」
「えっ?なんでだよ?」
「理由を説明なさい」
「なんでもするからちょーだい!」
アゲハくんは人差し指を立てる。モンシロチョウが止まった。
「魂の輝きが足りませんわ。善行なさい」
意外な条件にみんなびっくりする。
「オレはみんなからいいやつってよく言われるぜ?」
「わたし近所で評判のいい子ちゃんだよ?」
「私は休日に捨て猫の保護活動してるけど?」
3人とも日頃の行いの良さに自信があるようだ。善行とは道徳や倫理、または仏教の戒律に基づいた「良いおこない」や「正しい行為」のことだ。見返りを求めない親切や、人知れず良いことをする「陰徳」も含まれる。具体的な例として、寄付、募金、ボランティア、道を譲る、困っている人を助けるなどが挙げられる。 ぼくも生徒会長として勉強が遅れている子やいじめられっ子を助けているので徳は積んでいるほうだ。
「まだまだ足りませんわ。もっとはげみなさい。魂のレベルがMAXになれば1匹差し上げましょう。好きな色を選んでいいですわ」
「まじか!?何色にしよっかなぁ」
「めっちゃがんばる!」
「おもしろいゲームね」
3人とも蝶が欲しくてやる気まんまんだ。アゲハくんはぼくをみやる。
「一文字くんは欲しくないのですか?」
「いーや。欲しいね。ちょうをペットにできるなんて素敵じゃないか。絵本の世界みたいだ。でも、きみのことだからタダでゆずってくれるとは思えない」
「タダではありませんわ。わたくしが目を見張るほど魂を輝かせることが条件です」
「実質、タダみたいなもんだろ。いいことすればくれるなんてへんだ。きみはお金が大好きでお金のことしか考えてなくて落語のしわい屋に出てくる吝嗇家そっくりなのに」
「そういうのは卒業したんです。お金より愛のほうが大切だと気づきました」
アゲハくんは手でハートマークを作る。
「ふーん、愛に目覚めたというわけか?守銭奴のきみが?何か裏がありそうだね」
ぼくはうろんな眼差しを向けた。アゲハくんはニコニコ笑っている。愛想が良すぎて気持ち悪いな。いつも無愛想なくせに。演技だとしてもちょっとだけ可愛い。
「アゲハちゃんは生まれ変わったんだよ!」
「オレは知ってたぜ。世の中、愛がすべてだってな。気づくのが1000年遅い」
「お金なんていくらあってもあの世に持っていけないのよ」
先祖代々、大金持ちの家に生まれお金の苦労など一切してこなかった3人は簡単にアゲハくんを信用する。ばかな!彼女は極貧の家庭で育ち、彼女が小1の時に父親は借金のせいで自殺し、病弱な母親と幼い妹を養うために新聞配達のアルバイトと犬の散歩のアルバイトをかけもちしていた超絶苦労人だぞ?新聞を配りながら犬の散歩をしてたところを目撃した時はほんとにたまげた。
小学生の頃は自販機の下もよくあさっていたし空き缶も集めてお金にかえていた。
アゲハくんは貧困から脱出するために塾にも通わず自力で中学受験に合格している。東大に行き大企業に入り政治家となり総理となるっていう夢を持つぼくのライバルだ。彼女のお金への執着心は尋常ではない。お金になりそうな話を聞いてる時は、いつもよだれをたらし目がお金になっている。
彼女はぼくほどではないが勉強も運動神経も良い。学友にテスト勉強を教えたり、部活の助っ人を頼まれた時もぜんぶお金をもらって引き受けている。
クセのある歌声をしているので軽音部のボーカルの助っ人も引き受けていた。大企業の株もいくらか購入しているとウワサだし抜け目がない。中学生の身で年間、数100万は稼いでいるのではないか?彼女は新聞配達、犬の散歩と家庭教師のアルバイトとさまざまな助っ人で得たお金で母親と妹の生活を面倒見ているのだ。根性がある。
うちは将来のエリートを集めた名門中学なのでお金持ちの子供が多い。みんな多額のお小遣いを持っているので金払いはいい。アゲハくんいがいお金持ちの名家の家系なのだ。
厳しい環境を己の才覚のみで生き抜いてきたせいか雰囲気も野生味があり、体育では肉食獣を思わせるような動きを披露している。一人称は「あたい」で、ぶっきらぼうにしゃべる野生児で温室育ちのみんなから珍獣として面白がられていた。
歯がギザギザなのは川で釣った魚と沼地に生息するのザリガニを食べているうちに進化したからで寝不足で目の下にクマがあり、世の中がぜんぶ敵に見えているのか目つきは鋭い。
ぼくも彼女がユニークだと思い自分の派閥に招いた。仲の良い学友は多いが深く心を許しているのはこの4人だけで彼らは生徒会長を支える四天王と呼ばれている。
正直、ぼくは彼女が大好きだ。これほどアゲハくんについて詳しいのは探偵まで使って情報収集したからである。しかし家の事情で結婚はできない。家格の釣り合いが取れないからだ。正直、ルックスも世間一般ウケする感じではない。ぼくをはじめコアなファンは多いがね。ぼくには許嫁がいる。他県のお嬢様学校に通うお金持ちの美人令嬢だ。年上である。
身分の差がなければ絶対にアゲハくんを嫁にしていた。女はメイクで化けるし。
アゲハくんには幸せになって欲しいと思い、彼女の交際相手もふさわしくない相手はお金の力で排除しようと考えていた。悪い虫がつかないように守るのはぼくなりの愛である。
「裏なんてありませんわ。でも、そう思われても仕方ないですね。これから無償で人助けをしてみなさまから信用してもらえるようにがんばりマウス!」
アゲハくんは頭の上に手を置きネズミの耳を作る。普段こんなことするキャラではない。
「精進したまえ」
ぼくは銀縁メガネのブリッジを中指で持ち上げながら激励した。アゲハくんめ可愛い真似をする。
「ありがとウサギ!」
アゲハくんは手を立ててうさぎの耳を作る。仲間は絶賛した。
「イメチェン成功じゃん!」
「そっちのほうが絶対いいよ!」
「清楚だわ」
ぼくは心の中で「まえのきみのほうが好きだ」とつぶやいた。




