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婚約破棄されたので、距離を取ったら溺愛されました  作者: 月岡紬


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2/12

第2話 思っていた反応と、違う反応

婚約破棄の翌朝、私はいつもより少し早く目を覚ました。

眠れなかったわけではない。

ただ、目が覚めたら起きようと思っただけだ。


カーテンの隙間から差し込む光は、昨日と変わらない。

世界は、何事もなかったように続いている。


着替えを終え、廊下に出た瞬間、違和感に気づいた。


――静かすぎる。


王宮の朝は、もう少し慌ただしいはずだった。

使用人たちの足音や、控えめな声が交差する時間帯。

それが今日は、妙に整っている。


「……おはようございます」


声をかけると、近くにいた侍女がびくりと肩を跳ねさせた。


「お、おはようございます!

あの、その……今日はお部屋でお休みになると伺っていましたので……!」


休む予定はない。

けれど、訂正する前に別の声が重なる。


「無理をなさらないでくださいね」

「朝食はお部屋にお持ちしますから」

「歩かれます? それとも馬車を……?」


私は一瞬、立ち止まった。


「……何か、あったのですか?」


そう尋ねると、三人ほどが一斉に首を横に振る。


「い、いいえ!」

「何も!」

「本当に、何も!」


揃いすぎていて、少し可笑しい。


「朝食は、食堂でいただきます」

「いつも通りで大丈夫です」


そう告げても、侍女たちは納得していない顔だった。

まるで、壊れ物を扱うような目で私を見る。


――噂は、もう広まっているのだろう。


それ自体は、想定内だ。

同情され、距離を取られ、

少しずつ、王宮から存在を消されていく。


そうなるはずだった。


食堂に入ると、さらに違和感は強まった。


席が、空いている。

いつもは避けられがちな、私の周囲だけが。


それだけなら、まだ理解できる。

けれど――


「こちら、どうぞ」


年配の給仕が、私の椅子を引いた。

それも、必要以上に丁寧に。


「……ありがとうございます」


座ると、すぐに紅茶が置かれる。

私が頼む前に。


「温度、少し下げてあります」

「胃に負担がかからないように」


私はカップを手に取りながら、内心で首を傾げた。


(……そこまで、落ち込んでいるように見えるのだろうか)


食事中も、視線を感じる。

好奇でも、蔑みでもない。

心配と、遠慮が混じった視線。


居心地が悪い、というより――落ち着かない。


食堂を出ようとしたところで、声をかけられた。


「少し、お時間よろしいですか」


王宮の文官だった。

厳格な人で、私には必要最低限しか話しかけなかったはずの人物。


「書類の件で……というより」

彼は一瞬、言葉を探すように間を置いた。

「無理をされていないかと」


私は、思わず微笑んでしまった。


「ご心配ありがとうございます。

ですが、本当に大丈夫です」


それでも彼は引かない。


「でしたら……今日は業務を減らします。

明日も、その次も」


「……減らさなくても」


「減らします」


即答だった。


私は、それ以上何も言えなかった。


部屋に戻る途中、廊下の窓から庭が見えた。

白薔薇が、昨日と同じように咲いている。


私は歩きながら考える。


――思っていた反応と、違う。


もっと冷たくなると思っていた。

もっと、距離を取られると。


けれど現実は、

距離を取ろうとする私に、

周囲がそっと近づいてくる。


理由は、分からない。


ただ一つ言えるのは、

誰も私に「説明」を求めてこないこと。


なぜ反論しなかったのか。

なぜ怒らないのか。

なぜ、あんなに静かだったのか。


誰も、聞かない。


それが、少しだけ――救いだった。


部屋の扉を閉め、私は椅子に腰を下ろす。

深く息を吐くと、肩の力が抜けた。


「……距離を取るつもりだったのだけれど」


小さく呟く。


どうやら、この王宮は、

私を簡単には放してくれないらしい。


その事実を、まだ重くは感じなかった。


むしろ、

――少しだけ、困った。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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