第13話 期限のない招待
その封筒は、前回のものよりも薄かった。
色も、飾りも控えめで、
宛名の文字だけが丁寧に整えられている。
管理人は、少しだけ視線を落としてから差し出した。
「……王都からです」
「ありがとうございます」
受け取った手触りは、軽い。
それだけで、内容が想像できた。
部屋に戻り、机に腰を下ろす。
窓の外では、風が木々を揺らしていた。
封を切る。
文章は短い。
近況報告も、長い前置きもない。
近く、王都で小さな催しがあります。
もし都合が合えば、顔を見せてもらえると嬉しいです。
無理はしないでください。
日時は、はっきり書かれていない。
期限もない。
私は、そこに視線を留めた。
「……招待、ね」
呼び出しではない。
命令でも、要請でもない。
来てもいい。
来なくてもいい。
その選択を、こちらに預けている。
読み終えた手紙を、静かに畳む。
胸が騒ぐことはなかった。
王都は、遠い場所になった。
けれど、閉じた場所ではない。
私は、答えを急がない。
昼前、庭に出ると、
管理人が剪定をしていた。
「……王都からでしたか」
「ええ」
それだけで、話は終わる。
「行かれますか」
問いではなく、確認でもない。
ただの、言葉。
「まだ、決めていません」
「そうですか」
彼は、それ以上何も言わなかった。
午後、川のそばで、
あの青年とすれ違う。
「こんにちは、リリアさん」
「こんにちは」
彼は、私の手に持っている封筒に目を留め、
すぐに視線を戻した。
「……用事、ですか」
「少し」
「そうですか」
聞きすぎない。
答えを急がせない。
それが、彼の距離だった。
「……行くとしても、
戻る必要はありませんよね」
彼が、ぽつりと言う。
私は足を止める。
「どういう意味ですか」
「王都に行くことと、
ここを離れることは、同じじゃない」
彼は、そう言ってから、
少し照れたように視線を逸らした。
「……ただ、それだけです」
私は、しばらく黙って考えた。
「ええ」
やがて、そう答える。
「同じではありません」
彼は、安心したように微笑んだ。
それ以上、話は続かない。
夕方、部屋に戻り、
手紙を机の上に置く。
返事を書くには、まだ早い。
書かなくても、問題はない。
私は今、
選ばれる側ではない。
招かれているだけだ。
「……行くかどうか、じゃないのね」
小さく呟く。
いつ行くか。
どんな距離で行くか。
そして、戻ってくる場所があるか。
考えるのは、そこだ。
窓の外で、灯りが一つ、また一つと点る。
静養地は、変わらない。
私は、ここにいる。
それだけで、
選択肢は、奪われていない。
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