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輸送用ヘリの機内。
ローターの轟音が重苦しく響くなか、1人の青年が端末の映像に目を凝らしていた。血走った瞳は異様な光を帯び、食い入るように画面を追っている。
そこに映るのは――巨大な赤い異形が「ラース」中央施設を蹂躙し、宗教者たちを次々と虐殺する光景だった。
「……ハハッ!凄まじいな!」
青年の口から熱に浮かされたような声が漏れる。
「足りない血を殺した相手から補給して、拒絶反応を能力で強引に抑え込む……その結果、身体が肥大化していく。理屈は単純だが、ここまで昇華させるとは。まるで化け物そのものじゃないか」
画面の中で、異形が腕を振るった瞬間、周囲の人間の体内から血が噴き出した。
青年の表情がさらに歪む。
「おいおい……他人の血を直接操作しているのか?触れただけで血管を破裂させる?……血液を沸騰させている……そうとしか思えん! ハハハッ!」
隣に控えていた男が、恐る恐る口を開く。
「ケイ様……司祭様を、お助けにならなくてよろしいのでしょうか?」
ケイは一瞬だけ男に視線を向け、冷ややかに笑った。
「司祭? あんなものはただの飾りだ。価値があるのは研究データと――これだ」
彼は隣の座席を指差した。そこには、10歳前後の少女が無表情のまま座っている。死人のように白い肌、血のように赤い瞳。動きはほとんどなく、生きているのかすら判別できない。
「し、失礼しました!」
男は慌てて頭を下げ、冷や汗を流した。
ケイは端末を見つめ直し、独り言のように呟く。
「まさか、あの凡庸な能力がここまで進化するとは……。使い道のない実験体だと思って、警備要員に回したが……いや、認識阻害薬が作用したのかもしれないな。ならば本部に戻ったら、同系統の能力者で試してみるか」
画面の中で赤い異形が最後の力を振り絞り、周囲を血で染め上げる様子を見て、ケイの口元が狂気に歪む。
「ククク……進化の可能性を見せてくれてありがとう、被験体86号。くだらない女の話ばかりしていたお前が……最期の最期に、俺の研究に寄与した。誇れよ」
◇◇◇
「ラース」中央施設。
異形の巨体が崩れ落ちる。周囲の人間を皆殺しにし、血液を吸収することで成り立っていたその力は、餌が尽きたことで維持できなくなったのだ。
残されたのは、血に塗れ、原形を留めぬほど変わり果てた青年の骸。
その手には――歪んだ指輪が、砕けそうなほど強く握り締められていた。
ここで一旦の区切りとして完結済みとさせていただきます。ある程度話のストックが溜まりましたら、連載を再開しようと思います。