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◇◇◇


白く、果てしなく続くかのような空間。

床も壁も天井も、継ぎ目ひとつない無機質な部屋。


(これは…夢…?)


しかし、いつもと様子が違う。部屋の外からは怒号が鳴り響き、銃声が鳴り響く。


「大丈夫…大丈夫だよ…」

部屋の隅でサヤが、震える幼い俺を抱き締めている。


部屋のドアが蹴破られる。

防護服を着た大人たち複数が流れ込んでくる。


「要保護対象発見」

大人たちのやり取りが聞こえる。


「ハルト!逃げて!司祭様のところへ」

そう言うと、サヤは幼い俺を部屋から逃し、大人たちと対峙する。


「…私が必ずハルトを守ってみせる」


外では銃声が鳴り止まない。



◇◇◇


数日後、トガビトによる一斉攻撃が始まった。

外壁を打ち破る轟音と、街路を埋める悲鳴。血の匂いが鼻腔を突く。

逃げ惑う住民たちを押しのけ、黒い影が街を蹂躙していく。


「……ついに来たか」

愛用の刀を握りしめ、俺は中央施設から街を見据える。ここが司祭を守る最後の砦だ。


だが、外の惨状を目の当たりにすると、胸が締めつけられる。

「くそ……!何てことを――!」

俺は咄嗟に外に飛び出そうとした。


「ハルト、待て!」

ケイの声が耳に届く。振り返ると、彼は全力で俺の腕を掴む。

「俺たちの任務は中央施設防衛だ。優先順位を間違えるな!」


街の惨状に心が揺れる。だが、ケイの言葉を反芻し、俺はぎりぎりの判断で足を踏みとどめる。


三方向から押し寄せるトガビト。数自体は少ないが一体一体が強力な個体であるようだ。

…まるで俺たち能力者のように…


俺の刀が、光を反射する。その手に力が籠る――これから始まる防衛戦、失敗は許されない。



◇◇◇


トガビトの侵攻からどれだけ時間が経ったのだろう。


周囲には、人間とトガビトの死体の山が築かれている。

立っているのは、俺だけ。

ケイは負傷した同胞を治療するため、一旦後方に下がった。


中央施設への侵入を試みたトガビトのうち生き残ってる個体は、たった一体。

黒い影に覆われたその姿は、これまでの個体よりも明らかに鋭く、危険な気配を放っていた。


「……これで最後か」

激戦で半ばから折れた刀を握り直す。血躯活性の限界はとうに超え、意識は朦朧としている。


影が僅かに動く。低く、唸るような声。

その圧力が、俺の背筋を凍らせる。


「#@!~%^…」


トガビトが何かを訴えてる。

…あの時と同じように。

しかし、隙を晒せば、殺られる。

それほどの威圧感を目の前の敵は放っている。


折れた刀を握り直し、血躯活性を重ね掛けする。

身体能力を強化する代償として、身体中の傷口から血が流れ出す。長期戦になると、間違いなく失血死する状況。

しかし、それでも目の前の敵を屠るには足りない。そう直感が告げる。


(勝つには、一撃で勝負をきめるしかない)


「血器錬成」

俺の能力は、血を操るもの。…夢の中で少女に、サヤに、渡す指輪を錬成していた。同じことができるはず。

傷口から溢れ出る血を集め、それでも足りない血を身体中から補い、刀を生成。おそらく、この刀は数秒しかもたない。


「#@!~%^…」

トガビトが何かを叫んでいるが、意識を割く余裕はない。


「いくぞ!」

「#@!~%^…」


…決着は一瞬だった。

音を置き去りにした突き。生成した刀がトガビトの胸を貫き、確実に致命傷を与えた。





(勝った!これで皆を守れた…)





安堵し、能力を解除した瞬間、トガビトの手が動く。


(しまった…仕留め損なった…殺られる…)


しかし、攻撃は来ない。その代わり、トガビトは俺の手に何かを押し付ける。


…不格好で歪な指輪。

…それは、まるで、夢の中で少女に贈った指輪のような…


その瞬間、黒い影を纏っていた異形は少女姿に変わった。

…いや、違う。姿が変わったんじゃない。俺の目が、初めて正しいトガビトの姿を映したのだ。



「サヤ…サヤ!」

言葉が震える。胸の奥で、悔しさと怒り、それ以外にも表現できない様々な感情がぐちゃぐちゃに絡み合う。


「嫌だ!死なないでくれ!やっと、やっと再会できたのに!」

「サヤ!返事をしてくれ!サヤ!

俺は胸から血を流す少女に必死に呼びかける。


「ハル…ト…」

少女がかすかに目を開ける。


「サヤ!」


「良かった…今度こそ…守れた、かな…」

その言葉を最期に、少女が目を開けることはなかった。



「サヤ!何で!何で!こんな事に!

一体どうして!お願いだ!もう一度目を開けてくれ!お願いだから…神様…」



どんなに懇願しても、神に縋っても奇跡は起こらない。サヤをこの手で殺したという事実は覆らない。


憎い。

何が?

自分自身が。

どうして?

サヤを殺したから。

何で殺したの?

知らなかったんだ!サヤだと!

どうして?

サヤに見えなかった。ずっと、異形の!

どうして?

どうしてだ?

いつから記憶が混濁してる?

施設が襲撃された時から。

サヤと離れ離れになった時から。

司祭に保護された時から。

憎い…憎い…

全てが、この街全てが。

憎い…



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