第2話:動き出す噂
お久しぶりです。龍河です。
第2話となります。ちゃんと水曜日に更新できてよかったです。
今回からこの物語の主人公が登場します。
いつもは3000文字と決めているのですが、少しオーバーしてしまいました・・・。
よろしくです。
――「ねぇ聞いた? 山田先輩、亡くなったらしいよ?」
都内のとある大学。日の光が差し込むにぎやかな学生食堂。定食をつつきながら、女子大学生が二人、噂話に興じていた。
――仮に「A」と「B」としておこう。だって名前知らないし。
二人の声が大きかったのか、それとも私が無意識に耳を傾けてしまったのか。理由は分からないが、その会話は妙に気になった。
女子大生B「聞いた聞いた! グチャグチャの状態で見つかったって」
女子大生A「そうそう。うちの大学の近くに警察署あるでしょ? あそこの横断歩道で見つかったらしいよ」
女子大生B「え、マジで? 横断歩道ってことは……車に轢かれたとか?」
女子大生A「いや、それがね……別の先輩に聞いたんだけど、山田先輩、ここ最近変なことしてたらしいの」
女子大生B「変なこと?」
――そこで、私は耳を傾けるのをやめた。
女子大生AとBの隣テーブルで、昨日買ったバイク雑誌を読むふりをしながら盗み聞きしていた私。
犬飼詩音は、小さく息をつく。
――案外、どうでもいい話だったな。
そう思いながら視線を雑誌へ戻し、プラチナブロンドのショートヘアをかき上げる。
その拍子に、親友からもらった小さな青い宝石のピアスが、窓から差し込む日差しを受けてきらりと光った。
その時、ポケットのスマートフォンが震える。画面を確認すると、「3限」というカレンダーアプリの通知。
――そういえば、取っていた気がする。
必修でもないし。このままサボってもいいか――そんな考えが一瞬よぎる。だが、単位は取っておいて損はない。結局、予定通り出席することにした。
私は雑誌を黒のリュックにしまい、肩に掛ける。昼食に食べ終えた焼き魚定食のトレイを持って、返却口へ向かった。
「ごちそうさまでした」
食堂で働くパートのおば様に声をかけると、明るい返事が返ってくる。
「はーい、ありがとねぇ~」
「おいしかったです」
軽く会釈して、私は食堂を後にした。
――――――――――――――――
「あら、凄いわね」
詩音の皿を受け取ったパートのおば様は、思わず感心の声を漏らした。
焼き魚は、骨だけが綺麗に残されている。身はほとんど残っていない。
「人は見た目によらないわね……」
ぽつりと呟きながら、おば様は皿を流しへと運ぶ。
「今どきの若い子にしては、食事のマナーもしっかりしてるし……英才教育でも受けてたのかしら?」
小さく首をかしげつつ、彼女はまた仕事へ戻っていった。
――――――――――――――――
「――であるして、この理論は……」
大学の講義室。大きな黒板の前で、教授がマイク越しに、どこか独り言のような調子で聞き慣れない理論を語っている。
周囲を見渡せば、堂々と眠っている者。教授の話など意にも介さず、スマホでショート動画をスワイプしている者。数人で固まって雑談に興じる者――挙げればきりがないほど、さまざまな人間がこの場に集まっていた。
その中で私は、いつも講義室の中ほど、窓際の席に一人で座っている。なぜ1人なのか?
――理由は、この見た目だ。
大学入学時、両親への反抗心もあって、黒髪を思い切ってプラチナブロンドに染め、髪も短く切った。もともと目つきも良いほうではないため、昔から同級生とは距離があった。
でも、 ”あの子” は別だったな……。
大学生活が始まって、数か月あまり。周囲ではそれぞれのグループができあがり、関係も固定化しつつある。
――出遅れたな、詩音。
私は心の中で密かにつぶやいた。
そんなことを思いながら、教授の独り言を聞いていると、ふと、数席後ろの会話が耳に引っかかる。仮に「C」と「D」とでもしておこう。――だって知らないし。
女子大生C「ねえ、“山田”って先輩が亡くなったの知ってる?」
女子大生D「ああ、あの人? ……ひどい状態で見つかったってやつでしょ」
女子大生C「事故とかかな? 車に轢かれたとか」
女子大生D「いや、それがさ……普通の事故じゃないっぽいんだよね」
――またその話か。昼にも食堂で聞いたな。だが聞く気はなかったのに、意識だけが勝手に後ろへ向く。
女子大生D「……C、“名無し”って聞いたことない?」
女子大生C「なにそれ?」
女子大生D「SNSのDMにさ、いきなり来るらしいの。“調査してほしい”って」
女子大生C「調査?」
女子大生D「都市伝説とか、事件の真相とかの。解決したら――『願いが1つ叶うんだって』 」
女子大生C「え、なにそれ……怪しすぎ」
女子大生D「でしょ。でも受けた人、結構いるらしいの」
一瞬、間が空いた。
女子大生C「……じゃあ、受けなかったら?」
女子大生D「別に何も起きない」
女子大生C「え?」
女子大生D「でも途中で投げた人とか、真相に辿り着けなかった人……、“変な死に方”してるらしいよ?」
女子大生C「なにそれ? そんなの来ても無視すればいいじゃん」
――それは私も聞いていて思った。そもそも人間はリスクを嫌う生き物だ。いくら報酬が良くても、そんな死と隣合わせのギャンブル……。
女子大生D「……来る人、選ばれてるらしいよ」
女子大生C「選ばれる?」
女子大生D「追い詰められてる人。逃げ場がない人、なにか強い願望がある人」
少しだけ声が落ちる。
女子大生D「山田先輩、借金やばかったらしいし。友達だけじゃなくて、危ないところからも借りて……もうどうにもならなかったって」
女子大生C「……藁にも縋る思いでとか?」
女子大生D「かもね、山田先輩さ、ここ数日ずっと何か調べてたらしいよ。探偵ごっこみたいなことしてたって」
女子大生C「じゃあ、依頼を受けて……失敗した?」
女子大生D「“ゲームオーバー”だったのかもね」
ふと二人の会話に耳を傾けていると、いつの間にか講義は終わっていた。教授や周囲の学生たちは、次々と筆記用具やノートを片付け、教室を後にしていく。私も私物をリュックにしまい、退室する途中で考えていた。
――『名無し』の噂か……。
話が人づてに広がるうち、内容はずいぶん奇想天外なものへと変わっている。もはや都市伝説に近い。私も以前はよく、“あの子”から聞かされたっけ……。
少し興味が湧いた私は、先ほど話していた二人組を勇気を出して呼び止め、もう少し詳しく話を聞いてみることにした。
――――――――――――――――
「びっくりしたね、まさか犬飼さんに声かけられるなんてね!」
講義室で雑談していた「C」が「D」にこやかに語り掛ける。
「本当、私も驚いちゃった、それにしても……」
――『犬飼さんって、王子様みたいだよね~♡♡』
犬飼詩音――身長170cm、プラチナブロンドのショートヘア、細身、女性でありながら中性顔と立ち振る舞いで大学内では「王子様」と言われている。
詩音に誰も声を掛けないのは、 ”怖いから” ではなく ”尊い” が強くて声を掛けることすら恐れ多いとのこと。
――だが、犬飼詩音はこのことを知る由はなかった……。
――――――――――――――――
講義を終え、私は愛車のバイクで自宅へ帰ってきた。
大学進学を機に、大嫌いだった田舎の実家を飛び出し、大学からバイクで通える場所に部屋を借りて暮らしている。
アパートの階段を上り、部屋の鍵を開け、鞄を適当に放り投げ、そのままベッドに倒れ込んだ。飾り気のない静かな部屋。天井を見上げながら、大学で耳にした噂のことを思い返す。
「どんな願いでも叶う、か――もしそれが本当なら……」
私なら――目を閉じ、”あの子”のことを思い浮かべる。
――「寂しいよ、”優”」
ぽつりと呟いたその言葉を最後に、私は夢の底へと沈んでいった。
――ピコン。
私はスマホの通知音で、夢の世界から覚醒した。外はすでに暗く見慣れた道路には街灯の明かりが灯っていた。
「ふわぁ……。 寝ちゃったか……。なんの通知だ?」
私は眠い目を擦りながら、スマホで通知を確認しようとした時――心臓がドクッと波打った。
――――「名無し」さんからDMが届きました。
いかがでしたでしょうか?
この物語の主人公「犬飼詩音」に届く『名無し』からのDM
果たして、詩音はどうするのか? お楽しみに。
次回はGW真っ盛りですね、5月6日(水)20時に公開予定です。




