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目隠し皇女は、許嫁の愛が重すぎることにまだ気づいていない。アナスタシア皇女伝  作者: 佐藤みさき
第一部 第三章

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めでたいということにしておこうか

 ユリウスの顔色が発覚した後すぐ、(わらわ)()(かく)しを装着し、ユリウスを(かれ)の客室に連れて行くことにした。同時に、()(じゆう)に医務官を呼びに行かせる。


 (わらわ)たちは先に客室に着き、(わらわ)は、ユリウスを客用(しん)(しつ)のソファに(すわ)らせた。(わらわ)(となり)(すわ)り、医務官たちの(とう)(ちやく)を待つ。

 それから(いく)(ばく)も無い内に、医務官と()(じゆう)がやってきた。(かれ)にユリウスの顔を指し示すと、医務官は、ぎょっと目を見開いて真っ青になり、その場で両手と(ひざ)をついて謝罪してきた。


「よい。よいから、ユリウスの容態を今一度()よ。どうも、本当はよく(ねむ)れていなかったらしい」

「はっ! 承知いたしましたっ!」


 (となり)のユリウスに目をやると、(かれ)は、少し()()が悪そうにして医務官から目をそらしていた。


「ユリウス。そなたも、正直に答えるのだぞ。正しい情報が得られねば、医者とて正しく()(りよう)できぬ」

「……そう、ですよね。すみません」

(わらわ)たちは外した方がよいな?」


 (わらわ)の私室からついてきた()(じよ)らも示しつつ(たず)ねると、ユリウスは目を(いつ)(しゆん)カッと見開き、(わらわ)の手を強く(にぎ)った。


(いや)です。アナスタシア様のお(そば)に居させてください」

「そ、そうか。わかった。なら、(わらわ)は残ろう。……医務官以外の者は、一時退出せよ」


 (わらわ)の指示に従い、()(じゆう)()(じよ)らが退室して、部屋には(わらわ)とユリウス・医務官のみとなった。

 余計な耳が無くなったことを(かく)(にん)したあと、医務官が口火を切る。


「よく(ねむ)れていらっしゃらない、とのことで。いつからのことですか?」

「……例の()(ほう)暴走のあと、目覚めてから」

「一週間ですね。夜、まったく(ねむ)れない(じよう)(きよう)ですか?」

「さあ。……横になったままでいて、気づけば時間が()っているから、(ねむ)ってはいると思う」

「それは、おつらいですね。わかりました、お薬を処方いたします。他には何か、体調がいつもと(ちが)うところはございませんか?」

「……いや。いつも通りだ。問題ない」


 問題ありそうなのだよな、と、(となり)でやり取りを聞きながら思う。

 ユリウスが他にも実は問題を感じているとして、(すい)(みん)不足を(ふく)め、(かたく)なに(かく)そうとするのは何故(なぜ)だろうか。


 本人が言いたくない以上、無理に聞き出すのは良くないな。


 それに、空腹・()(ろう)(すい)(みん)不足は、どれもが重大な不調につながり、人間の思考を(くる)わせる。なんにせよ、まずは(すい)(みん)をとらせることが先決だろう。


 薬を取りに、医務官が退室する。


「アナスタシア様、」


 二人きりになると、ユリウスが話しかけてきた。目を向けると、ユリウスは、(くま)()()(もと)を不安げに(ゆが)め、(わらわ)を見つめ返していた。


「申し訳ありません」

「うん? なにについての謝罪だろうか」

「……ご(めい)(わく)を、おかけして。(いや)ですよね。(いや)なのは分かっているんです。(きら)われても仕方のないことをしていると自分でも分かっている」


 ユリウスが両手で自身の顔を(おお)い、うなだれる。


「でも(おさ)えられない。どうしてか分からないんです、前はできたのにできない。自分の(いや)なところ悪いところを(おさ)える自制が効かない。ちゃんとしなくちゃいけないのに、どうして、あなた様の前なのに、こんな――」


(ねむ)れていないときは、あまり物事を深く考えないほうがよいぞ?」


 そう(わらわ)は言い、ユリウスの(かた)をポンポンと(たた)いた。


 ユリウスが顔から手を(はな)し、こちらに目線を向ける。()(はく)(いろ)(ひとみ)が、不安を(たた)えて()れていて、()(くま)と同じくらい暗く見えた。


「ひどく不安なのだな。そなたの不安が(やわ)らぐなら、謝罪を受けよう。必要はないがね」


 そう話したタイミングで、医務官が(もど)ってきた。


 ユリウスに処方されたものは、二種類の(じよう)(ざい)だった。刻まれた薬名を読み、昔学んだ主要薬効能の()(おく)と照合したところ、1つは(すい)(みん)導入(ざい)、1つは(こう)()(あん)(ざい)であった。数は、一週間分。

 ()(とう)な処方である。


「さあ、ユリウス。今日はこれを飲んで、もう(ねむ)ってしまえ。夜中に空腹で目が覚めるかもしれんな。部屋に軽食を用意させておこう」


「…はい…」


 ユリウスは大人しく薬を1回分()()んだ。

 それから、(かれ)が夜着に()()えるので一度退室する。(ねむ)りにつくまでの間も(そば)にいてほしいと言うので、ユリウスの()()えが済んでから、また部屋に入る。


 ユリウスが(ねむ)れるよう、()(じゆう)がカーテンを引き、まだ明るい外の景色を(かく)す。明かりも(しぼ)られ、部屋は(うす)(ぐら)くなった。


 ……()かしつけはどうなのだ? ギリギリセーフか?

 頭によぎるのは、ベルンシュタイン夫人が(くち)()っぱく『()(こん)の男女が(しん)(じよ)を共にしてはならない』『(しん)(らい)できる女性が(そば)にいない状態で男性と同じ部屋に入ってはならない』と(わらわ)(おし)()む姿だ。


 ()(じよ)を同席させようとしたが、ベッドに入ったユリウスの目がチラチラと()(じよ)らの方に向かう。まあ、気になるよな…(わらわ)とて、(ねむ)るときは(しん)(しつ)に人を入れていない。

 それに、(わらわ)にとっては信を置ける忠臣でも、ユリウスにとってはそうではないし。


 いたしかたない。(わらわ)は、残っていた()(じよ)らに「先に(もど)ってくれ」と命じた。

 ()(じよ)たちは目に見えて(どう)(よう)し、ためらう様子を見せる。


「ですが…」

「言いたいことはわかる。だが、()(のが)せ。(わらわ)も、ユリウスを()かしつけたらすぐ行くから」

「…わかりました。(おお)せの通りに」


 スカートを(ひろ)げて()(じよ)たちが一礼し、指示通りに部屋を出て行く。


 かくして我々は、(うす)(ぐら)(しん)(じよ)に二人きりとなった。

 (わらわ)は、ベッドの右脇に()()を置いて(すわ)り、ユリウスの手を(にぎ)ってやった。(あお)()けになっていたユリウスが、体を左横に向け、(わらわ)と向かい合う。


「アナスタシア様」

「なんだ?」

「……(となり)にいらしてくださいませんか? (ねむ)りにつくまでで構いません。どうか」


 そう言って、ユリウスが空いた手でポンポンとベッドの上を(たた)く。


 それはもう言い訳できなくないか?


 いやまあ、ダメかどうかで言えば「別にいいのでは?」なのだが。(こん)(やく)(しや)なのだし。(けつ)(こん)したら、その晩にはそういうことをするわけで…。

 とはいえ…ううむ…。


 (わらわ)(かつ)(とう)していると、ユリウスは悲しげに目を()せた。(かれ)の声が(ふる)える。


「ごめんなさい。やっぱり、(いや)ですよね。私なんかと…」


 ああ、もう! しょうがないなーー!!


「わかった、わかった! もう、どうにでもなれだ」


 (わらわ)は、()るように(くつ)()()て、ブランケットを持ち上げたあと、ユリウスの(となり)(すべ)()んだ。

 ユリウスは、すかさず(りよう)(うで)を回して(わらわ)をとらえ、強く()きしめる。


「ああ、温かい…。ありがとうございます、アナスタシア様。(ちか)(ごろ)はずっと…あなた様がいないと、寒くて…とても、寒くて、(ねむ)れなくて……」


 寒い? 初夏のこの季節に?

 だが確かに、言われてみれば、ユリウスの身体が(みよう)に冷たい…。夜着が冷たいだけか? しかし、手も冷たかった…。


 気になって、片手を(すべ)らせて持ち上げ、ユリウスの()(しゆつ)した首のあたりに()れてみた。太い血管が通る場所なので、内部の体温に近いはず…。


「冷たっ!」


 冷たい。冷たすぎる。まるで死体だ。


「そなた生きてるか?」

「ふふっ……ええ…多分……」


 いや、(じよう)(だん)ではなくてだな。


 おもわず(かれ)の顔を(ぎよう)()するが、目視するかぎりでは生者である。

 (どう)(よう)する(わらわ)をよそに、薬が効いてきたのか、ユリウスはうとうとと目を(まばた)かせはじめた。


 これ、(ねむ)らせて平気か? (えい)(みん)しないよな?


 起こすべきか()かせるべきか判断に迷っていると、ふと、ユリウスの身体が温かくなってきていることに気付く。変化に集中してみれば、三分と()たないうちに、その温度は、生きた人間に()(さわ)しいぬくもりまで引き上げられていった。


 そうこうしている内に、ユリウスはすやすやと()(いき)を立てている。


 ……ずっと寒くて、(わらわ)(そば)に居れば温かい。そして、(かれ)の固有()(ほう)は、氷雪を生じるもの。

 なるほど、一種の軽い()(ほう)暴走か。死体の温度でも生きているのは、低体温に対する(たい)(せい)も同時に持つためだろう。


 ()(ほう)検査官どもめ、なにが問題なしだ。問題大ありではないか。後で(かれ)らにも土下座してもらおう。

 とはいえ、医務官に対する態度と同様、ユリウスが()()()した可能性も……。


 ……なんだか(わらわ)まで(ねむ)くなってきたな。早く起きないと、(わらわ)まで()そうだ。

 だが…まだだ……ユリウスの(ねむ)りが深くなるまでは、じっとしていないと。(かれ)が目覚め…………


 ……すやぁ……。


***


 目覚めると、部屋は真っ暗になっていた。

 (あせ)って時計を見やると、たっぷり四時間ほど経過している。


 ……終わった……。


 (わらわ)(てい)(そう)(しゆう)(りよう)のお知らせ。

 なにもなくとも関係ない。社会的には、(うわ)()()(すい)(こん)(ぜん)(こう)(しよう)

 まったく、どうしようもない皇女だな……。


 (わらわ)の心情をよそに、(わらわ)()きしめたまま(ねむ)るユリウスは、(おだ)やかな顔つきをして、すやすやと()(いき)をたてていた。


***


 そっとユリウスの(うで)から(だつ)(しゆつ)し、静かに(くつ)()いて、静かに(とびら)を開閉して部屋を出る。

 (とびら)の両側に立つ護衛()()たちは、()(しつけ)に皇女を(ぎよう)()しはしない。しないが、ものすごく、物言いたげなオーラが()さってくる。


 (わらわ)は何も言わず、静かに通路を歩き、居室に向かった。()()の一人も、何も聞かずに静かに(わらわ)のあとにつづき、(わらわ)の帰路の護衛を(にな)った。


 そして、(わらわ)は自分の部屋に辿(たど)()いた。()(じよ)たちが中で待っていた。


(ひめ)(さま)、おかえりなさいませ」

「ああ」

「アーデルシュタイン(こう)は、おやすみになりましたか?」

「うむ」

「そうですか……」


 ()(みよう)な空気が流れた。()(じよ)たちが(たが)いに目配せを()わす。


 もういい、もういいからいっそ聞け。


「『おめでとうございます』……で、よろしいのでしょうか?」


 ユリエッタがそう(たず)ねた。(わらわ)(かた)をすくめる。


「まあ……。めでたいということに、して、おこう…か…?」


 箱入り(れい)(じよう)(+夫人)ぞろいの(わらわ)たちは、(たが)いに目配せし合い……それから、(たが)いに小さく(うなず)き合うのだった。

R15ってどこからですかね?

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