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目隠し皇女は、許嫁の愛が重すぎることにまだ気づいていない。アナスタシア皇女伝  作者: 佐藤みさき
第一部 第三章

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寝ろ

 ユリウスから仕返しとばかりに、こういうちょっとした悪戯(いたずら)もされるようになった。しかし、悪戯(いたずら)自体への不満より、()()()()()()くらい(かれ)の精神が回復したことを、喜ぶ気持ちの方が大きかった。


 (わらわ)の友人たちは、きちんと話を聞ける人間ばかりだ。(うわさ)(へん)(けん)、身分ばかりに(まど)わされず、(おのれ)の目と耳で真実を()(きわ)める。(ゆえ)に、あの程度のことで絶交されはしない。もし本当に(わらわ)()(ちが)ったことをしていたら、(わらわ)(さと)してくれていただろう。

 ユリウスもきっと、本気で(わらわ)と友人たちとの仲を()こうとしたわけではない(はず)

 ――きっと。たぶん。


 そんな現在とは大きく異なり、()(ほう)暴走事故の直後ときたら、ユリウスはひどい状態であった。とてもじゃないが、(そば)(づか)えや身内以外、人前に出せる状態ではなかったのである。


***


「アナスタシア様、」

「うん」

「好きです。大好きです。好きで好きで大好きであなた様がいてくれないと私をあいしてくださらないと私は生きられなくて存在価値がなくてそれで、大好きで好きであなた様のことばかり考えているんですあなた様が(はな)れてしまったらと考えると気が(くる)いそうでいえきっと(くる)ってしまうのです」

「うん……」

「だからどうかどうか行かないでください私の視界から消えないでください声を声をください名前を呼んでくださいそれだけで息ができるのです、私の世界はあなた様でできているのですから朝も昼も夜も(まばた)きの裏側にもあなた様がいて考えないようにしようとすればするほど思考があなた様の(りん)(かく)(しば)りつけられて()(みち)がなくて、でもそれが幸せで(いと)しくて私はあなた様のために在りたいあなた様の(かげ)になりたい足元に落ちる(かげ)でいい」

「うん……」

「あなた様が笑えばそれで(むく)われるもし(だれ)かがあなた様を見るなら私が先に見ますもし(だれ)かがあなた様を呼ぶなら私が先に応えます順番は(ゆず)れません(ゆず)れないのです、ただただ私の心があなた様から(はな)れないだけです私が勝手に(こわ)れていくだけですあなた様は何も悪くない悪いのは私で、あなた様が歩くなら私も歩きます止まるなら止まります背を向けられたらその背中を(いの)るように見つめます、視界の(はし)にいられれば存在を感じられれば私の()(どう)は正しいリズムを()(もど)しますですからお願いです私を(こば)まないでください(きら)わないでください(おそ)れないでくださいただあなた様を愛しているだけなのです愛して愛して愛し続けて――」


「そなたを(きら)ったりしない。(わらわ)も大好きだよ、愛しているよユリウス」


 (わらわ)をガッチリと()きしめてソファに(すわ)り、ユリウスの(ひざ)(うえ)(よこ)(ずわ)りした(わらわ)の背中に向かって、(じゆ)()のような…愛…? (こん)(がん)…? の言葉を延々と話しているユリウスの頭を、(くろ)(かみ)()()けるようにして、よしよしと()でる。


 このようなループが、かれこれ47回()(かえ)されている。


 助けてくれェーーーーッ!!!! (だれ)かァーーーーッ!!!!


 心の中で(さけ)んでも、応える者は当然いない。


 こんなに進退(きわ)まるのも、これほど(しん)(けん)(だれ)かの助けを(ほつ)したのも、16年の()(しよう)(がい)で初めてのことであった。


***


 ――ユリウスから、思いのほか様々な要求を()きつけられた後のこと。


「必ずユリウスと(けつ)(こん)すること」「側室や愛人を(いつ)(さい)持たないこと」「((こい)(びと)ないし(ふう)()として)ユリウスとずっと(いつ)(しよ)に居ること」「(異性として)ユリウスだけを愛すること」。このあたりは当然のことで、なんてことはない。問題は、その後だ。

 ユリウス以外の人間には()れさせないこと、ユリウス以外の人間に姿を見せないこと、ユリウス以外の(だれ)にも(ほほ)()まないこと、ユリウス以外の名前を呼ばないこと、その他(もろ)(もろ)……。


 ()(ちや)を言うなッ!! 公務(すい)(こう)どころか、生活すらおぼつかなくなるわッ!!

 (かく)()(かん)(じや)か何かか? どうやって仕事をしろと!?

 (わらわ)がただ生活するだけでも、いったい何人の()(じよ)・使用人・女官が関わっていると思っている? 貴族女性のドレスは基本的に一人で(ちやく)(だつ)できないのだぞ?

 服すら7割がた着られなくなるわ! もう下着で過ごすしかなくなっちゃうぞ!


 無論、そのように口に出した訳はないが、内心ではそう(さけ)んだ。


『一体どうしたものか』と考えながら条件(こう)(しよう)したところ、意外にもユリウスは要求を完全に(かな)えることには(こだわ)っておらず、あっさり()んでくれた。


 (わらわ)が提示した条件は、「皇女・皇族としての職務を果たすにあたって障害となる制限は除外する」「トイレ・()()()(しよう)()()えなど()(づくろ)い・(しん)(じよ)は共にしない」「職務・生活上(ひつ)()(せつ)(しよく)、特に同性からの(せつ)(しよく)を許可すること」「他人に姿を見せること、他人の名前を呼ぶこと、(ほほ)()みなどについて制限しないこと」「その他、職務(すい)(こう)や生活に(いちじる)しく不便をもたらす制限は認められない」といったものだ。

 あと、「夢についてはお(たが)いどうにもならんだろう、()(ちや)を言うな」とか。


 ――とまあ、書面に起こしたわけではないが約束を()わし、(よる)(おそ)かったので「おやすみ」を伝え、ユリウスを()めている客室を後にした。


***


 それから数日後、()(ほう)暴走の(えい)(きよう)や再発可能性を(かく)(にん)するための、ユリウスの経過観察が(かん)(りよう)し、()(ほう)検査官らから(かれ)の外出許可が下りた。


 (わらわ)は、しばらくユリウスのケアを最優先にしようと考え、皇女補佐官たちに(れん)(らく)を入れ、仕事を休むことにした。ユリウス自身には、少なくとも回復するまで(こう)(きゆう)(たい)(ざい)してもらう。


(ぎん)(ろう)(てい)》へは、欠勤のお()びと、『急なことだが、以降はもう出勤できなくなった』という(むね)をエルザ夫人とレオン()ての手紙にまとめ、()(じゆう)に持たせて送っておいた。

 理由は、『家族が急病で(たお)れ、その看病をしなければならなくなった』こと。正確には許婚(いいなずけ)だが、当たらずとも遠からずである。


 ()(じよ)たちの手で()()(たく)を済ませ、さて朝食に行くかと思ったとき、自室の(とびら)がノックされた。(すい)()すると、ユリウスが(むか)えに来ているという。


 ()(じよ)コルネリアが(とびら)を開くと、その向こうでは、すっかり()()(たく)を済ませた姿のユリウスが立っていた。

 その(ほほ)()みからは(つか)れを感じるが、顔色は悪くない。


「おはよう、ユリウス。早いな、よく(ねむ)れたか?」

「おはようございます、アナスタシア様。…ええ、問題ありません」

「わざわざ(むか)えに? 食堂で待っていてもよかったのに」

「少しでも長く、アナスタシア様と(いつ)(しよ)に居たかったもので」

「ふふ、うれしいことを言う」


 ユリウスが右手を差し出し、(わらわ)は、その手の上に自分の手を重ねた。

 (かれ)にエスコートされ、(わらわ)たちは皇族用の食堂へと向かう。


 今朝も母上は朝食をご(いつ)(しよ)できないとのことだったので、(わらわ)(さい)(おう)の上座に着席し、ユリウスは(わらわ)の右手に(すわ)った。


 皇族用食堂のテーブルは、短辺が1席・長辺が8席ほどの細長い長方形型であり、最大18人程度が着席できる。皇室が子宝に(めぐ)まれた時代には、このテーブルいっぱいに食事が並ぶこともあったらしい。

 今代は子が(わらわ)一人で、父上は病気に、母上は子を産めぬ体になってしまったので、客人が無ければ2席しか使われない。そのうえ、(こう)(てい)代理を務める母上は()(ぼう)なので、たいていは(わらわ)一人で使っていた。


 二人分の温かい食事が運ばれ、毒味係の(かく)(にん)が済むと、(わらわ)たちの朝食が始まる。


 昔は、毒味が必要な関係で、皇族は冷めた食事ばかり食べていたという。今は、食事を温める機能つきの()(どう)()皿が発達し、(わらわ)たちも温かい食事にありつけるようになった。

 ()(どう)()を日夜発展させてくれている、()(どう)()たちへの感謝を忘れないようにしたい。


 ()(どう)()たちだけではない。この食事を用意してくれた料理人たち、運んでくれるメイドたち、安全を確保してくれる毒味係、食材を育て(こう)(きゆう)に納めてくれる農民や商人たち、我々人類に(めぐ)みを(あた)えてくださった神々にも、感謝を忘れないようにしなくては。


 あらゆる全てに感謝の(いの)りを(ささ)げ、(わらわ)たちは朝食を食べ始めた。

 本日のメニューは、白身魚の(こう)(そう)()し、温野菜と半熟ゆで卵のサラダ、白パンと(ぜん)(りゆう)(ふん)パン。デザートには、ヨーグルト。


 余談だが、(わらわ)はかなりよく食べるほうだ。貴族女性には(めずら)しく、(けん)(じゆつ)(たしな)むうえ、(げん)(えき)()()並みのトレーニングを欠かさないからだろう。友人たちと食事するとき、(わらわ)はいつも、(だれ)より多く食べる。

 そのせいか、一度でも食事を共にした相手からは、茶会ですら「足りますか?」「お代わりを用意しましょうか?」と心配そうに聞かれるようになってしまう。

 いいって。常に空腹みたいな(あつか)いをするな。足りなかったら帰ってから(きゆう)殿(でん)で食べるから。もう(だれ)も食べなさそうな、残ったものがあれば食べているだけだ。


 そんな(わらわ)でも、男性のうえ、筋肉質でガタイのいいユリウスには(およ)ばぬらしい。(かれ)の皿に()った料理の量は、あきらかに(わらわ)より多い。(はい)(ぜん)量は、ヴァイセンドルフ(てい)の使用人に問い合わせたのだろう。


「久々に一人ではない朝食をとれてうれしいよ。母上がご()(ぼう)ゆえ、いつもは食堂を一人で使っている」

「そうでしたか。…私も、(だれ)かと食事をするのは()()()()…ですね。それも、アナスタシア様とお食事ができるだなんて、幸せです」

「ふふ」


 色々あったが、ユリウスと仲直りができてよかった。

 これから皇位を()(わらわ)()(ぼう)になってゆくのだろうが、せめて食事の時間だけは、こうして家族で共にできるようにしたい。


「先日の()びに、といってはなんだが、今日から(さつ)(そく)そなたの要望を(かな)えていこうと思う。今日は仕事を休んで、そなたのために時間をとるぞ。平民を学ぶ活動も、少し早いが中止とした。(ほつ)(たん)(ほつ)(たん)であるし、これ以上、そなたに負担をかけたくないのでな」

「アナスタシア様っ…。ありがとうございます…!」


 目を(かがや)かせたユリウスに、(わらわ)は思わず()みをこぼす。


「そなたはまだ全快していないであろう。今日は、ゆっくり過ごそうな。そなたは、どう過ごしたい?」

「私は…、そうですね。アナスタシア様と二人、暖かいお部屋でゆっくりできれば、何よりに存じます」

「ふむ。では、(わらわ)の居室で過ごすのはどうだ?」

「! あ、ありがとうございます! ぜひ…!」


 (わらわ)の居室には、(しん)(しつ)だけでなく、一通りの居住スペースが備わっている。(しん)(しつ)と居間は別であり、居間にはソファとローテーブルが備わっていた。

 同性の親しい友人を1人2人呼ぶときは、この居間に通すことがある。男性を入れたことはないが、(こん)(やく)(しや)なのだから許されるであろう。


 食事のあとは、毎朝のトレーニングに向かった。ユリウスには安静にするよう命じたところ、「トレーニングを拝見したいです」と言われたので、()(じゆう)に命じて()()を用意させた。ユリウスに、そこへ(すわ)って見るよう伝える。

 運動着姿の(わらわ)が重りをつけて走る姿を、ユリウスは、()きもせずただじっと(なが)めていた。


 トレーニング後、シャワーと()()えのために自室に(もど)る。

 2年前の(うい)(じん)後に()(かん)した際、(わらわ)がユリウスに(あま)えたときのように、ソファの上で(わらわ)()きしめて過ごしたい。という、ユリウスの要望があったので、楽に過ごせて()()重ね少なめのモーニングドレスを着ることにした。


 ()(たく)が済み、ユリウスを部屋に呼ぶ。(かれ)に割り当てた客室で待つよう言ったのに、(ろう)()でずっと待っていたらしい。


 紅茶と(ちや)()()を用意させ、先にソファに(すわ)ったユリウスの(ひざ)(こし)()けて、(かれ)の厚い(むな)(いた)に身を預ける。

 (かれ)の力強い(りよう)(うで)が、ぎゅっと(わらわ)(つつ)()んだ。


 悪くない。非常に悪くない気分だ。むしろ、すごくいい。


 部屋に(ひか)えた()(じよ)らやメイドたちが、(ほほ)()ましいものを見る目で(わらわ)たちを見つめている。


 ()(がお)でユリウスに目線を合わせれば、ユリウスもまた、(ほほ)()んで(わらわ)を見つめ返す。

 やはりどこか(つか)れて見えて、(ひとみ)(くら)(うつ)ろに感じる。今日この時間を経て、(かれ)の心が()やされるといいのだが。


 それから(わらわ)たちは、()(あい)のない話をして、お()()をつまんだり紅茶を飲んだりして、夕食までゆっくりと幸せな時間を過ごす――――


 ――ものと思っていたら、(ぼう)(とう)の事態となったのである。


***


 ユリウスが(わらわ)(れん)(あい)感情を持っていないだなんて、そんな(けん)(とう)(ちが)いの誤解をしていた、(どん)(かん)すぎる過去の(わらわ)(なぐ)りたい。


 すっかり(きん)(ぱく)した空気の居室で、(わらわ)はそんな非現実的な願いすら考え始めていた。


 今朝までの(あま)い空気、どこにいった。帰ってきてくれ。(しん)(けん)にそう願うが、帰ってくるはずもなく。

 ただただ、ユリウスの(きよう)()と、『これ…どうしたらいいんだ…?』という(わらわ)()(じよ)らと使用人たちの(きん)(ちよう)だけが、(わらわ)の部屋を満たしている。


「ユリウス、ごめんな。本当に悪かったよ…」


 泣きそうな声で何度となく()(かえ)した謝罪を口にするが、ユリウスは頭を左右に()る。


「アナスタシア様は、なんにも悪くございません」

「いや、けっこう大分、かなり悪かったと思う。先日思っていたよりもずっと、今すごくそう思っている」

「いいえ、アナスタシア様は悪くありません。アナスタシア様が()(ちが)っている(はず)がございません。私が悪いんです」


 このやり取りもまた、ずっとループしている。


 助けてくれ。どうしたらいいのだ。何を言っても()()なのだが。

 もう戦略的(てつ)退(たい)を選びたいところだが、ユリウスを否定したり(いや)がったりする()()りを見せれば、さらに(じよう)(きよう)が悪化するだろうことは火を見るより明らかだ。


 あきらめるな。冷静になれ、アナスタシア。

 とりあえず、この事態の原因を考えてみよう。(わらわ)(うわ)()()(すい)はもちろん原因としても、ここまで(かれ)の思考がネガティブに(おちい)っているのには、もっと直接的な原因があるはずだ。


 どうあがいても思考がネガティブになってしまう原因――まず考えられるのは、極度の()(ろう)()()(そく)

 ()(ほう)暴走の直後なら、極度の()(ろう)があってもおかしくない。だが、あれから数日が()っている。

 あとは、()()(そく)。考えてみれば、今朝からユリウスの顔つきが気になっているのだ。顔色じたいはいいので「問題ない」という(かれ)の言葉を信じたが、今の(じよう)(きよう)(ふく)めて(かんが)みると、やはりおかしい…。


「ユリウス。ちゃんと(ねむ)れているか?」

「……はい。何も問題ございません」


 問題あるから聞いているのだが。


 どうしたものか、と思いつつ、(かれ)から少し身を(はな)そうと動く。(きた)()げられた(かれ)(うで)(はば)まれ、最初は動かないが、(わらわ)の動きに応じて力が(ゆる)む。

 わずかに身を(はな)すと、(かれ)の顔と向かい合えるようになる。(わらわ)が目を向けるのに合わせ、(かれ)(わらわ)と目を合わせた。

 やはり、顔色は悪くない。ただ、目がよくない。(つか)れて見えるのに、(どう)(こう)が不自然にかっぴらいている…と言うべきか…。


 (わらわ)は、下ろしていた手を持ち上げ、(かれ)(ほお)()でるようにして()わせた。すると、ざらりと粉っぽい(かん)(しよく)がする。


「? そなた、()(しよう)をしているのだな」


 意外に思いつつ、(わらわ)(げん)(きゆう)した。


 貴族女性であれば()(しよう)をしていて当たり前だが、()(しよう)をしている男性はそう多くない。特別、美容に気を(つか)っている者のみがしている。

 ユリウスのように()()として(せん)(とう)訓練をする者の場合、(あせ)をかいて運動することが多いこともあって、()(しよう)をする者はほぼいないイメージだった。


 何の気なしに言ったその言葉を聞いて、ユリウスの体にビクリと(きん)(ちよう)を走ったのを感じる。(かれ)の両耳だけが、サッと白くなった気がした。


 ……もしや。


「レオノーラ! (わらわ)()(しよう)落としを()て!」

「…え? あ、はい!」

「ま、待ってください」


 ユリウスが(ろう)(ばい)した声をあげる。

 (ゆう)(しゆう)()(じよ)長レオノーラは、()(しよう)落としを()()ませた布をすぐさま持ってきた。


 それを受け取り、(わらわ)が構える。ユリウスは、(わらわ)から手を(はな)し、自身の顔をかばうように上げた。


「ユリウス、()(がお)を見せてくれ」

「だ、だめです。見ないでください」

「後で(わらわ)のノーメイク(がお)も見せてやるから。(ちよう)レアだ、いいだろう? ほら」

「う、だ、()()です、アナスタシア様…!」


 ユリウスは(てい)(こう)したが、(わらわ)を強く(はら)いのけることはしない。少々(ごう)(いん)に、(わらわ)はユリウスの顔を()き、()(しよう)を取り去った。


 まず見えたのは、左目を大きく縦断する(きず)(あと)。それから、病的に青ざめた白い(はだ)(いろ)。そして、両目の下に大きくできた、(いろ)()く青黒い(くま)


「見ないで、ください……」


 ユリウスが泣きそうな声で言い、まだ顔を(かく)そうとする。


「ユリウス……」


 (わらわ)は、大きく息を()()んだ。


()ろ!!!!!!!!」

化粧する余裕がなかった日の出勤時、「なんだか今日顔色悪いですね」と職場で言われたことがあります。

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