転生先が農村でしたが、何だかんだで幸せです〜温泉が沸いた!?編〜
「リュートさーん、畑の奥から、なんか湧いてきてます!」
早朝、畑でトマトに追肥していると、ミーナが息を切らして駆けてきた。
「湧いてきたって、何が?」
「……お湯、です!」
「お湯?」
急いで畑の端に行くと、小さな水たまりができていた。そこから、ぽこぽこと湯気が立っている。
「……まさか、温泉?」
『あちぃよ! 地中熱で根っこが茹でられる〜!』
近くのニンジンが苦情を叫んでいた。どうやら、畑の下に温泉が湧いたらしい。
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村の長老に相談すると、彼は目を輝かせた。
「昔、このあたりに“熱水の神”がいたという伝説がある。温泉が本当に湧いたのなら、村の運命が変わるぞ!」
「農業じゃなくて、観光ですか?」
「両立すればよいではないか。おぬし、植物と話せるのだろう。ならば温泉の“害”が作物に及ばぬよう調整できるはずじゃ」
「……なるほど」
畑と温泉。まさか交わる日が来るとは。
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俺はスキルを使って地下の植物たちの声を拾い、温泉のルートを探った。地中に広がる岩盤の隙間、その熱の流れ。
『あー、ここらは熱が強すぎて根が焼けるよ』
『ちょっと南にずらしてくれたら快適!』
そんな声をもとに、温泉の湧出口を数メートルずらし、畑への影響を最小限にした。
さらに、余ったお湯をためる湯船を作り、周囲を石で囲った。
「見てくださいリュートさん! 湯気がふわふわしてて……気持ちよさそう!」
「実際、源泉かけ流し。ミネラルも豊富。葉っぱが言ってた」
『この湯、マジでいい成分入ってる。人間も入れ』
お前らほんと多才だな。
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数日後、村の子どもからお年寄りまでが、俺の作った“露天風呂”に入っていた。皆、顔をほころばせている。
「リュートくん、腰が軽くなったわ!」
「孫の肌がつるつるに!」
なんか知らんが、すごい評判になった。
そしてその日。ミーナがぽつりと声をかけてきた。
「リュートさんって、ほんと、すごい人ですね」
「いやいや、俺は植物と喋ってるだけで……」
「それが、すごいんですよ。自然の声を聞けるなんて、神様みたいです」
「俺はただの農夫だよ。お湯掘っただけだし」
「……じゃあ、その“お湯農夫”さん、今度一緒に温泉入りませんか?」
顔が真っ赤になるミーナ。
俺の顔も、多分、トマトより赤かったと思う。
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夜。月明かりの下、俺とミーナは温泉に浸かっていた。ちゃんと男女別。……のはずだった。
「リュートさーん、こっちのお湯、ぬるいですよー!」
「そっちは調整失敗してるから……って、ミーナ!? そっち女子側だろ!」
「いま、誰もいないですし!」
お湯の湯気で顔は見えない。だが、声だけはよく聞こえる。
「こうしてると、思うんです。リュートさんが来てくれて、本当に良かったなって」
「俺もだよ。ミーナが、ここにいてくれてよかったって」
しばらく、言葉もなく、ただ湯の音だけが響いた。
植物たちも、この時間だけは静かにしてくれていた。
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それからというもの、村には他の村からも人が訪れるようになった。
「野菜がおいしい!」
「温泉が最高!」
「野菜入りの湯がすごく効く!」(※俺は止めたが、ハーブ湯が定着してしまった)
結果的に、村は温泉+農業の癒やしの村として知られるようになった。
『温泉で育った俺たち、まじで最強な気がする』
『つるつるトマト! 皮までうまい!』
うちの野菜たちも、なんだか誇らしげだ。
そして今日も、俺は畑を耕し、湯を調整し、植物たちとしゃべりながら、生きている。
異世界だろうがなんだろうが――
ここが、俺の居場所だ。
次回予告
遂に畑から魔物か?
次回は今日収穫予定!