第9話 質屋の店長
「――ナイス着地!」
無事に街外れの人気がないところに着いた。
どうやらここは墓地のようだ。
『盗神の秘薬』の効果が切れるまで待ち、ちゃんと見えるようになったところで『スレイプニルのベル』を鳴らす。
スウは翼が生えている以外にも普通の馬とは異なる点があり、それが”スレイプニルのベルを鳴らすと影のように消えてしまう”ことだ。
――このように。
「よし、これで準備完了だ。まずは……そうだな。"質屋"を見つけるところからだな」
質屋と言ったが、アイテムが売れるところなら何でもいい。
とにかくこの街の通貨を手に入れ、水や食糧、調理器具……できたら調味料も欲しいところだ。
更に言うなら、冷蔵庫のような家具もあったら良いが……持って帰るには大きすぎるだろう。
「今日の第一目標は、水と食い物を買うこと! じゃあ出発するか」
俺は墓場を後にした。
〇 〇 〇
この街―――パルエナは城壁に囲まれた城塞都市だ。
そのため土地が限られており、街の建物は軒並み高層化していた。
街の標識を見るに、今歩いている通りはラドロ通りというらしい。
「パルエナは中心地と大通り以外は治安が悪い」と皇女様に聞いていた通り、ガラの悪そうな連中やホームレス、しまいには倒れている者もいた。
そんな中、一際目立つ看板が目に留まった。
「"何でも高値で買います!"……派手だなあ」
大きな文字にカラフルな配色の看板がいくつも出ている店だ。
宣伝文句的に俺が探している店のようだが……。
「安く買い叩かれそうだな。まあ仕方ない、入ってみるか」
俺は店の戸を潜った。
中はごちゃごちゃしており、商品棚には売り物が所狭しと並んでいる。
それぞれのアイテムにはアイテム名と値段、そして店主のコメントがついたポップが置かれていた。
「おう、いらっしゃい! なんやアンタ、初めて見る顔やなぁ」
店主らしき女性がカウンター越しに身を乗り出して話しかけてきた。
「今日はどないしたんや? 売りたいもんがあるなら、他のどの店よりも高い値段で買い取らせてもらうで~!」
店主の勢いに気圧されつつも、鞄から売りたいアイテムを取り出す。
「これなんだが……」
「なんやなんや、見せてみ!」
店主はカウンターに布を広げる。
ここに置けということだろう。
俺は宝石たちを布の上に置いた。
「ほうほう、宝石か! ウチの目は厳しいで~! ……って、なんやなんや! ルビーにサファイア、ヒスイまで……! どれもこれも超希少な宝石ばっかや……! しかも大きさといい状態といい、全部一級品やないか……」
店主は目を輝かせて一つ一つ観察している。
どうやら中々の宝石のようだ。
質屋に売るといえば宝石のイメージがあったので宝石を持ってきたが、上手くいきそうだ。
「これなんて、貴族が着けててもな~んも違和感ないで。これもかなりのもんや」
全部を見終わった店主は、俺の頭の先からつま先まで見てからふーっと一息ついた。
「アンタ、本当に売ってもうてええんか? こんなもん持っとるんやから金に困っとるようには思えへんのやけど。冷やかしやったら帰ってや!」
「いや、色々事情があって現金が欲しい。いくらで買い取ってくれるんだ?」
俺がそう言うと、店主は目を光らせた。
「ほぉ~~? そういうことなら、ちゃ~んと買い取らせて貰うで。せやなぁ……。全部合わせて、金貨3枚でどうや!?」
……固まってしまった。
というのも、金貨1枚の価値がわからないからだ。
金貨というからには結構高いのだろうが……
黙っていると、店主がしびれを切らして話し出した。
「って、じょ~だんやん、冗談! 金貨3枚なわけないやろ! あんなぁ、少しくらい突っ込んでくれてもええんやで?」
「い、いや。金貨3枚がどの程度の価値なのかわからなくてな……。その……この国に来たばかりで」
咄嗟に誤魔化すと、店主は疑いの目をこちらに向けてくる。
「はぁ~? アンタ何言っとんねん。嘘つくならもっと上手くやらなアカンで! ここら辺の国の通貨はぜ~んぶ、金貨・銀貨・銅貨やで?」
「そ、そうなのか……?」
嘘はついていないが、他の国から来たことは他の人に言わないように皇女様に口止めされている。
そもそも言っても信じてもらえるとは思えないが。
「……何やら訳アリのようやな。ええんやええんや、そういう奴はぎょ~さん来るからな。せやなぁ……じゃあ通貨の価値ってもんをアンタにわかりやす~く教えたるわ!」
店長はカウンターの奥からコインのようなものを何種類か持ってきた。
「これが金貨、これが銀貨、そしてこれが銅貨や。銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚や。わかったやろ?」
俺が頷いたのを見ると、店長は続いてカウンターの横にある煎餅を手に取る。
「これで大体銅貨5枚くらいや。パルエナは物価高いから、他所やとも~ちょい安いかもしれへんな。ここで飯食おう思ったら、銅貨10枚あれば足りるくらいや。んで……」
続いて、湯沸かしポットのようなものを手に取る。
「この湯~沸かす魔術具で銀貨3枚。郊外に住んどるようなもんには買えん代物やな。そしてよ~やく……」
最後に店主は俺が出した宝石を指さす。
「この宝石1個で、せやなぁ、金貨3枚か4枚くらいや。どや、わかったか?」
1個で金貨3枚だったら、全部で金貨3枚って言ってたのは……
「じゃあ金貨3枚はぼったくりだろ!」
そう言うと、店主は嬉しそうに俺の肩を叩いてきた。
「せやせや! ウチはそう言って欲しかったんや~!」
「な、なんなんだこの人……」
困惑する俺をよそに、店主は楽しそうに笑っていた。
―――結局、金貨20枚と交換してもらった。