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第5話 クロノスチェスト

「こちらはクロノスチェスト。時忘れのチェストとも呼ばれますわ。このように、蓋の金具の部分に時の女神クロノスの紋章が彫られているのが特徴ですわね」


 遥か昔、神話の時代。


 女神クロノスは時の管理を任されていたそうです。


 彼女は、時間の流れを自由に操れたといいます。


 そこで人々は食糧を長期間保存できるように備蓄の周りの時の流れを遅くするように頼んだのです。


 友好的な女神クロノスは喜んで了承しました。


 彼女は備蓄品を覆うように闇を充満させましたわ。


 そして「この闇に包まれている間は時が流れない」と言ったそうです。


 人々は喜んで、彼女に貢物をし、崇めるようになるんですの。


 こうして、クロノスは時の女神として圧倒的な支持を獲得しました。


 これをよく思わなかったのは、主神ゼウス。


 ゼウスは自身を上回る信仰を集めたクロノスを恐れ、クロノスに人間と関わることを禁止されました。


 従うしかないクロノスは、自分が居なくてもいいように自分の力を込めたチェストを作り、地上に残して去ったと言われています。


 これが、クロノスチェスト――中のものは時間の経過を感じないそうです。


「以上が、クロノスチェストについての言い伝えになりますわ」


「…………ほんとだ、時計の針が止まってる」


 試しに私の腕時計を中に入れて見たのですが、効果は伝説の通りのようですわね。


「はぁ……。こうもあり得ないことが立て続けに起きると、私たちが別世界に来たのではないかと思ってしまいますわ」


「…………同感」


「それで、貴方はこの伝説のクロノスチェストに何を入れているのかしら? 開けてもよろしくて?」


「は、はい。お好きに」


「では、開けさせてもらいますわよ」


 中には何が入っているのかしら、はやる気持ちを抑えます。


 早く中を見たいですが、このクロノスチェスト自体が国宝級の価値があるもの。


 細心の注意を払って、チェストをゆっくり、ゆっっくりと開けていきます。


「――――っふぅっ。 さて、何が入っていることでしょう」


 まず目に付いたのは、この微かに輝く緋色の液体。


 ビンの形状からして回復薬ですわね。


 しかしこの色からして、通常のものではなさそうです。


 広く流通している回復薬は緑系の色が殆どです。


 これは原材料の薬草の色から来るもので、基本的にはエネルゲインとリゲインという二つの薬草を調合して作られています。


 エネルゲインは体力回復の効果があるのに対して、リゲインは治癒力の上昇によるキズの治癒が期待出来ます。

 

 エネルゲインとリゲインの配合比率により出来上がる回復薬の主な効果が変わり、エネルゲインの比率を上げ体力回復を図るエネルビン、リゲインの比率を上げ外傷治療を目的としたリビン、その中間のミドルビンが有名ですわね。


 また、薬師の腕と材料の品質により薬効と値段も変わってきまして、最高級のものになると金貨数枚で取引されることもあります。


 でも、この回復薬はそのどれにも当てはまりそうにありませんわね。


「この銀に輝くあざやかな赤色は……」


 ひとつ、思い当たるものがあります。


 何でもありの謎の秘薬―――フシオン。


 通常の回復薬はあくまで人間の自然治癒の力で回復する範囲までの再生しかできない、即ち無くなった腕を再生させるようなことはできないのですが。


 フシオンは亡くなっていなければ問答無用に全回復する奇跡の秘薬と言われています。


 原材料、生成方法ともに不明。


 フシオンを調合するのは全ての薬師の夢です。


 存在が確認されているのは全部で3つ。


 1つは大富豪エミールが、1つは引退した伝説の冒険者デリウムネイロが、そして1つは―――カラナシス王国が所有しています。


 といっても、第二皇女である私も実物を見たことはなく、王国宝物庫で厳重に、そして大切に保存されているそうです。


 ……これで4つ目、ということになりますわね。


「セツナ、あの緋色のビンには触らないように。アレ、王国の宝物庫にあるレベルのレアアイテムですから」


「…………国宝級……」


 セツナは「…………もうチェスト自体に触らない」とチェストから距離を取りましたが、それが賢明ですわね。


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