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第2話 マイホームの地下とリンゴ

「落ち着け、俺」


 同じところを歩き回る。

 これは俺が悩んだり緊張した時についとってしまう癖のようなものだ。


「ほ、本当に転生したのか? そんな馬鹿げた話があるか……」


 もちろん、そうと決まったわけじゃない。


 自分の記憶がおかしくなっていて、前からこういう顔つき体つきだったのかもしれない。

 たまにあるらしい。突然自分が別人のように感じる、一種の精神病。


 ただ、そうでないとしたら、本当に別の誰か――それも異世界の誰かに俺が転生したのだとしたら。


「ま、魔物とかいるのか?」


 真っ先に不安に思ったのは、魔物の存在。


 この世界が"ライフオブカーバンクル"の世界なのだとしたら、人間にも動物にも該当しない魔物という生物がいる。

 スライムやゴブリンに代表されるそれは、ゲーム内では特に詳細な設定は語られることはなく、さも当然のようにその世界に存在していた。


「もし主人公――――コウになったのだとすれば、ある程度戦えるはずだ。ただ俺自身に全くその技術がないぞ……」


 肉体が強ければ、なんとかなるのだろうか。

 剣を振ったことも、弓を引いたこともないが、突然できるようになっているのだろうか。


「HPという概念があるのか? なければ、一撃でやられたりするんじゃないか……」


 というか、そもそも人間はいるのだろうか。

 自分以外みんな化け物のような見た目で、全く知らない言語体系だったりしないだろうか。


 そう思うと怖くなってきた。


「とりあえず、ここが自分の家だと仮定して、ちゃんと状況を把握しよう……」


 そもそも、この家はどこにあるんだ。

 実は外には普通に魔物が歩いてて、出た瞬間に殺されたりしないか。

 もし人間がいたとしても、全然文化の違う人たちで、捕まって火あぶりにあったりしないか。


 とめどなく溢れ出る不安を払い、俺は部屋のカーテンに目をやる。


「まずは、外を確認するべきだな……」


 この部屋の窓にはカーテンが掛かっている。

 カーテンは普通、遮光や遮蔽を目的として窓に掛けるものだ。

 つまり、カーテンをめくることで今自分の置かれた状況が分かってしまう。


「めくる。チラッと覗くだけだ。難しいことはない。外の様子を見るだけだ」


 カーテンの端をつまむ手先が震えている。

 人だろうが魔物だろうが、何かと目が合ったら心臓が止まるかもしれない。


「俺も男だ、南無三ッッ!」


 意を決した俺の目に映ったのは、遥か遠くまで続く森の風景だった。

 目の前に広がる圧倒的な緑。


 木々が空からの光を遮るように立ち並び、地面には木々の合間を埋めるように草が生い茂る。


「はぁー。なんだ、誰もいないじゃないか」


 少し肩透かしを食った気分だ。


「それにしても、森かあ。森ねえ。……森は森でヤバいなぁ」


 真っ先に思いつく不安は、食糧問題だ。

 まだ家の中を隅々まで調べたわけではないが、もし食べるものが何も無かったとしたら餓死してしまう。


 それを避けるためには、外に食べ物を探しに行く必要がある。

 しかし、不用意に森に出てあてもなく彷徨うリスクは無知な自分にもわかる。

 まずどこにも着けないだろうし、帰っても来れないだろう。


 それに、魔物がいる可能性だってある。

 そもそも、熊や猪などの動物でも十分危険だ。


 それよりも、気になることがある。


「随分と綺麗な庭だな……誰か手入れしてるのか?」


 遥か遠くまで続く広葉樹林だが、この家の周りに植物の侵食が見られない。

 もっと正確に言うと、家の周囲にある白いフェンスを境にこちら側には木が枝を伸ばしていない。


 そのため日中の今は日当たりが良好でちょっと嬉しい。


「考えても仕方ない。家に食い物があることを祈るか」


 外は諦め、中に希望を見出す。

 カーテンを閉め、この家でまだ行っていない場所――――地下に向かうことにした。



 階段を降りた先には、少しの空間と大きな1つの扉、そしてたくさんのスイッチがあった。

 それぞれスイッチの上にはプレートが置かれており、俺の理解できる言語で何か書かれている。


「お、読めるぞ。鉱石、武器、防具、装飾品……。なんだこれ」


 この世界でも言葉が通じる可能性が出て来たことに喜びつつ、謎の単語の羅列に困惑。

 下のスイッチと関連しているのだろうか。

 押してみたい気持ちもあるが、何かわからないスイッチを押すのは怖い。


 とりあえずあの扉の先を確認してから、押すかどうか考えることにしよう。


「ん? この扉、よく見たら取っ手がないな」


 押してもビクともしない。


「これどうやって開くんだ……。あのスイッチと関係あったりするか?」


 手掛かりはあのスイッチしかない。


「なんだこれ、リアル脱出ゲームかよ。脱出ゲームは苦手なんだ俺は」


 仕方ないので、スイッチをどれか押してみる。


「魔物素材、回復アイテム、食べ物、……食べ物のやつを押してみるか」


 カチッ――――ゴゴゴゴゴゴゴ


「うおぉ! なんだ、地震か!?」


 突然の地響きに驚いたが、すぐに揺れは収まった。


「なんなんだこのスイッチ……」


 扉の方を見るが、見た感じ変化はない。


「なんだ、開かないのか。ホント何だったんだ……」


 てっきりゲームのように扉が開くのかと思ったが、そういうわけではなさそうだ。


 何か他に仕掛けがないか、と扉の前に立った。


 ゴゴゴゴゴゴゴ!


「うおっ、開くのかよ!」


 扉が左右に開いていく。

 スイッチを押して扉の前に立つことが条件なんだろうか?


 不思議に思いながらも扉の先を見た俺の目に飛び込んできたのは、山のように積まれた果物や野菜だった。


「これで食うに困らないぞ!」


 しかも果物。

 果物は水分を十分に含んでおり、確か水も飲まずに果物だけ食べて暮らす人も居たくらいだ。

 つまり、これらだけを食べるだけで生きてはいけるわけだ。


 腐らないように保存する必要があるが、今はそれどころではない。


「そんなに腹減ってなかったけど、こんなの見たら腹減ってきた……」」


 果物のみずみずしい香りと甘酸っぱい匂いが俺の腹ゲージを一気に上昇させる。


「とりあえずこれ食ってみるか」


 赤くて丸い手のひらサイズの果物。

 リンゴのように見える。が、リンゴとは限らない。

 これはリンゴに似た何かかもしれないし、リンゴだがこの世界では別の名称で呼ばれている果物なのかもしれない。


 まあ、どうでもいい。


「皮ごとか。まあ、皮つきの方が栄養あるって言うしな」


 水洗いしたいが、仕方ない。

 豊かな香り、この確かな重み。


「いただきまーす」


 シャリッ、シャク、シャク


「う、うめぇえー!」


 齧り付いて最初に来るのは恐ろしい"甘さ"。

 スーパーに売ってるリンゴしか知らない俺が目隠ししてこれを食べたら、リンゴと分からないほど。


 そして口の中で咀嚼しているときに来る第二の衝撃は"酸味"。

 酸味のお陰で後味さっぱり、口の中がリセットされ、また甘さを求めて一齧り。


「……リンゴが禁断の果実って言われてたのも分かるな」


 香りも豊か。

 リンゴの匂いと言われて「これだ」と頭に思い浮かべることができる人は多くないだろう。

 しかし、俺は今後この香りを連想できると断言できるほど、衝撃的な美味さだった。


「なんだか元気になった気がする……」


 力がみなぎる、とはまさにこのことだろう。

 これからの不安や気怠さ、そういった負の要素が身体から抜けたようだ。


「何かヤバい成分とか入ってないだろうな……」


 果物の山をよく見てみると、先ほどのように文字が掘られたプレートが置かれていた。


「"リンゴ"……。やっぱりこれリンゴなのか」


 どうやらこの世界でも"リンゴ"はリンゴのようだ。


 その後も他の果物の味見をして満足した俺は、他のスイッチを押してみるために部屋から出た。


昨日、投稿失敗していた…!!

今日から2話投稿します…

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