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時の宝珠

作者: 古数母守

 ザイードたちの一行は密林の中にたたずむ神殿の前に立っていた。博物館から盗んだ古文書と地図を頼りにようやく神殿の入口を見つけたのだった。それは密林の奥深くに隠されていた。神殿には地下深くに広がった迷宮があり、その先には「時の宝珠」が隠されているのだと言う。言い伝えによれば、迷宮の入口は百年に一度しか開かないということだった。それは冒険者たちが挑戦する機会を制約することになり、宝珠は長年手付かずのまま、その場所に留まっているということだった。


 もうすぐ太陽が南中する時刻だった。一行は固唾をのんでじっと待っていた。額から汗が滴り落ちた。ザイードは扉の前に立ち、博物館から失敬した指環を彫刻でカモフラージュされている小さな穴に差し込んだ。古文書には鍵を差し込んだ状態で百回目の時刻になると扉は開くと書かれていた。指環が鍵で、太陽が最も高い位置に達する夏至の日の正午がその時刻とされていた。そして今年が前回、扉が開いたとされる夏至の日から数えて、ちょうど百回目になるはずだった。やがて地面をこすりながら、扉が開いた。一行は歓喜した。そしてゆっくりと中に入って行った。


 だが迷宮には様々な罠が仕掛けられていた。入口の扉の向こうは長い廊下だったが、そこには足元が抜ける落とし穴が仕掛けられており、三名が命を落とした。その先に進むと広い部屋に出た。先頭を歩く二人が床の模様を跨いだ瞬間、壁から矢が飛び出して来て二人の頭を一瞬にして貫いた。その先にはまた廊下が続いていた。落とし穴に注意しながら進んでいると両側の壁が動き出し、圧迫されてさらに二名が命を落とした。次々に仲間が死んで行く様を見て、気がふれて逃げ出す者もいた。ザイードは豊富な経験と鋭い観察力と長年培った勘でなんとか罠を凌ぎ、迷宮を進んで行った。足元には骨があちこちに散乱していた。命を落とした冒険者たちのものと思われた。壁に灯りを近付けると古代文字が浮かび上がった。それは神殿に眠る偉大な王への賛辞と、神殿に侵入する盗賊の輩は地獄に堕ちるであろうという警告だった。


 幾多の障害を乗り越え、ザイードはついに迷宮の最深部にたどり着いた。扉を開けて中に入った。とても広い部屋だった。奥の方に眩い光を放つ宝珠があった。それを手にする者は永遠の若さと莫大な富が約束されるということだった。ザイードは罠に気を付けながら、慎重に進んで行った。宝珠はもう目の前にあった。ザイードはそっと宝珠に手を伸ばした。その瞬間、壁の中から人が飛び出して来た。ザイードは咄嗟に防御の姿勢を取ったが、その人間は圧倒的なスピードとパワーでザイードに襲い掛かって来た。ザイードの剣は弾き飛ばされ、彼は死を覚悟した。

「長かった・・・」

ザイードの喉元に剣先を突き付けながら男は言った。よく見ると冒険者の姿をしていた。男はザイードに宝珠を持って壁の前に立つように指示した。ザイードが言われた通りにすると壁がゆっくりと彼を包み込んで行った。

「そこで百年間、次の冒険者が現れるのを待つがいい」

男は言った。ザイードの身体は壁と同化し、石像のように固まって行った。

<なるほど、誰にも盗み出せない訳だ>

これからの百年を孤独のうちに過ごさなければならない運命を悟った彼は、百年振りに自由になった男が喜びながら部屋を出て行くのをじっと眺めていた。

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