表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第一予報 「雨、逃げ出す。」

時は江戸時代。決して誰もが裕福ではなく、貧富の差が激しかった、そんな時代だった。

「〜〜〜。」

 (ふすま)から漏れる会話。花にはすぐ分かった。また私の婚約について話しているに違いない。何度嫌だと言ったら辞めてくれるのだろう。ため息を吐き、畳を思い切り叩いた。ほおを伝った涙が、着物を濡らしていく。涙を袖でぬぐい、立ち上がると、すぐにお父様の声。花は唇を噛んだ。

「花。入れ。」

 襖を開けて恐る恐る入る。

「失礼致します。」

 お父様も、お母様も、怖かった。そして、大嫌いだった。

「お前の婚約者が決まったぞ。」

 ほら、やっぱり。

「よかったわねぇ、花。結婚できるなんて、女の名誉ですよ。」

 なんで女なら結婚しなきゃならない?子供を作らなければならない?

 名誉なんて、どうでもいいんだよ。

「花?どうしたの、そんなむすっとして。可愛い顔が台無しですよ。」

 可愛いなんて、言われた覚えがない。実際、思ってないだろ。乳母頼りな癖に。今更母親面すんなよ。花はそう舌打ちした。

「失礼します。少し時間を下さい。」

 驚いた両親の返事も無視し、花は無理やり部屋を出た。いつからか泣いてばかりいる瞳は、紅く晴れて、まるで化粧したようだった。自室まで走って戻り、叫び泣いた。素直でいればよかったのか。可愛いければよかったのか。花は、はっとしたように、縁側から見える街を見つめた。


ーーそうか。逃げ出しちゃえばよかったんだ、こんな所。


 髪を一つに結って、動きやすい服に着替えた。そしてお金を懐にしまい、決意を固めた。息を吸い込み、全力で走る。確か、裏庭に門があったはずだ。

「お嬢様!?どちらへ行かれるのですか!?」

 門番の侍が驚いている。だが、そんな言葉も無視して走り続ける。江戸の街を走り抜け、もう誰も追って来れないだろうという所で、少し休憩することにした。

 いつか、憧れていた江戸が、目の前に広がる。花は、感激の涙を溢した。その後、茶屋で軽食をとり、また走りだした。肩で息をする。もう夕方だ。

「ここ、どこ?」

 気づけば、全く知らない場所に来ていた。山々に囲まれ、川は夕陽に照らされ紅く染まる。途端、恐ろしくなった。このまま、死んじゃう?そんなの、嫌だ。花は辺りを散策した。すると、紅い鳥居が見えた。やった、ここで一晩過ごさせて頂こう。この辺りは妖怪で有名らしいから、神社で寝れば…そう思った。

「失礼しまーす…。」

 ゆっくり境内へ踏み入る。両脇にある狐。うねった道。なんか、怖かった。

 と、

「おーい、君、誰?」

 男の子の声。花は驚いてキャッと声を上げた。どこ?どこにいるの?周りを見る。紅い鳥居の上、水干を着た少年が座っていた。彼は、花を見るなり、にこっと笑った。そして、鳥居を飛び降りると、向こうを指差した。

「村へ行くの?俺が案内するよ。」

 花はまだ唖然としているが、少年は花の手を引いて、歩き出した。

「俺は晴山輝。ここの神社の息子なんだ。十二才だよ。」

 その言葉を聞いて、少し安心した。同い年だったんだ。

「私は雨野花。同い年。」

 輝は雨野と聞くと、飛び上がった。

「あの、雨野様!?どうも、ええと、さっきはご無礼な真似を!!」

 驚いた彼に、花は思わずくすっと笑ってしまった。

「いいの。普通の人ってことにして。逃げ出して来たんだから。」

 輝は不思議そうな顔をして、花を見つめた。へぇ、と。少し歩くと、村が見えた。

「ほら、村に着いたよ!」

 一見普通の村。花は安心して、胸を下ろした。

「村長呼んでくるね!」

 そう言って彼は走っていった。しばらくすると、若い黒髪の男性が歩いて来た。

「どうも、花さん、だったよね?僕は伊織悠。よろしく。」

 伊織悠…。その名前に花はピンと来た。江戸でも有名な探偵さんだ。

「あの、伊織探偵…!」

 花は悠の顔をまじまじと見つめた。

「ふふ、それで?どうしてお嬢様がこんな村に?」

 彼のその言葉に、花は息詰まってしまった。なんて言ったらいいんだ。本当のことを言えば、きっとお父様やお母様の評判は悪くなってしまう。バレたらどうなるか。花が戸惑っているうちに、悠の後ろに立っていた女の子が前に出た。

「そんなの言えるわけないでしょ、考えなよ?」

 悠はまあまあ、と言うように両手を上げた。

「ごめんね。花ちゃん。この人、こういう悪い癖あるから。」

 ぱっとこちらを振り向いた彼女の額には、二本の角があった。あれは、鬼の角だ。

「えっ!?あ??え???」

 花は思わず退いた。鬼、鬼だ。怖い、喰われてしまうのか?なぜこの人たちは平気なんだ?

「ああ、ごめん。私鬼だけど、誰も喰わないから。」

 少し信じ難い…。

「私は鈴音。伊織さんの助手よ。」

 ほんとか…?て言うか伊織さんも変わってんな…。鬼が助手て…。

「まあいいや。今日はここに泊まりな。もう夜だし。」

 悠は松明に火を灯らせた。

「歳の近い女の子は鈴音しかいないけど、どうする?」

 絶対嫌です。喰われます。

「一人で、寝ます…。」

 花はそう言ったが、悠が苦笑いした。

「ごめ、うちの村悪い妖怪もでるから一人は絶対ダメなんだよね…。」

 なんそれ、怖。

「じゃ、輝と寝る?w」

 もっと嫌です。絶対嫌。セクハラしそう。すぐ手繋いできたし。

「じゃあ俺と寝る♡??」

「辞めてください、気持ち悪いです。」

 鈴音がすぐにツッコミを入れる。

 いや、でも伊織さんが一番マシかも…。そう思い、花は悠の家で寝ることになった。少し心配だ。

「絶対花ちゃんのこと触らないでね、伊織さん!」

 鈴音は家に帰る最後までそう叫んでいた。やっぱり意外といい子なんじゃ…?種族で偏見するの、きっと間違えてるよね。

「明日からは鈴音のとこで寝なよ?僕みんなからアンチコメントきちゃうよ。」

 メタい発言しないでください、名探偵さん。

 花は使用人に案内され風呂に入り、食事を摂った。暗い青の空には、星が光っていた。生まれてはじめて感じた自由。幸せだ。

「さ、寝るよ、雨野さん。」

 伊織さんてイケメンだよなぁ…。そう思いながら、花は眠りにつくのであった…。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ