93話 クリスマス3
本日が毎日投稿最終日になります。
毎日投稿の間も付き合ってくださった皆様、誠にありがとうございました。
「あれ、アンタ篠原じゃん」
女の声が聞こえ、お互いに手を離して振り向く。
顔に見覚えのある女子だ。確かこの前告白されて、振ったのを覚えている。
美香の名前を呼んだことから、知り合いなのだろう。
彼女の側には他の女子が二人いて、三人で来たようだった。
「友達?」
「ううん。隣のクラスの金沢さん。音楽の授業で一緒なだけ」
小声で美香に聞くと、どうやら知り合いであることが分かった。
俺は一歩引いて下り、美香に話をさせる事にする。
「どうしたの」
美香は少し棘のある声で金沢さんに向かい合う。
俺は少し険悪な雰囲気が漂うのを感じる。
「アンタ本当に相沢君と付き合ってたんだ」
「言ったじゃん。で、何のようなの?」
「別に? たまたま見かけたから声かけただけ。てか二人並ぶと似合わないね」
馬鹿にするような口調で美香を揶揄う金沢に、俺も内心敵意を覚える。
しかも似合わないとまで言われ、ほぼ初対面にも関わらずかなりの悪印象だ。
「はあ。他人の君に何か言われる筋合いはないんだけどね」
口を挟んだ俺は、美香の前に立ちつつ彼女達を軽く睨む。
しかしそれが反感を買ったのか金沢さんの取り巻きの女子二人に睨み返された。
「事実じゃん。篠原って一般人でしょ? ちょっと彼氏があれだからって、よく調子に乗れるよね」
「……私、調子に乗ってないんだけど」
言い返した美香に眉を顰めて、金沢さんは声のトーンを下げる。
「アンタに聞いてないし。てか、こいつも何で私じゃなくてこのブスを選んだ訳? 私モデルやってるんだけど、この女の何が良いのよ」
俺は指を刺されながら、こいつと呼ばれる。
不愉快な言葉を並べ立てられ、俺は思わずカッとなりそうな心情を抑えて冷静に言った。
「……俺は普通に一般人だよ。そもそも誰を選ぶかは俺の自由で、君より美香の方が素敵ってだけだろ」
「はあ? きっっしょ! 知らねーし、何ガチになってんのよアンタ。どうせすぐ別れるんでしょ? 最初遊んでやろうと思ったけど、アンタ如き付き合わなくて正解だったわ」
「君、性格腐ってるね。もう良い、行こう美香」
俺と金沢が口論を繰り広げ、ポカンとしている美香の手を取り、走り始める。
関わらないが吉だ。
彼女達も追ってくる気はないらしく、角を曲がったあたりで俺は足を止めた。
「……あそこまでしなくても良かったのに」
「ごめん。カッとなって」
少し走って切らした息も、寒さと共に落ち着く。
美香は先ほどの言動に頬を染めながら、俺を責めた。
謝罪しつつ、手を繋いだまま目前にある駅へ向かって歩き始める。
「颯真、その……ありがとうね」
「うん」
強く手を握りしめられた。
もしかしたら、俺の知らないところでもああやって絡まれているのかもしれない。
そう考えるとモヤモヤするが、とにかく今日は解決できて良かったと考える。
「颯真」
「うん……え?」
少し思考に意識を奪われいたせいで、生返事になった。
俺の目の前に立って向かい合った美香がようやく目に映り、状況を理解しないまま美香に抱きしめられる。
人肌の温もりが上着越しに肌に刺す。
柔らかくて、自分よりも背の低い美香が腕の中に収まる。
背中の裏に回された腕がより俺と美香を密着させて、離さないと言われているような気がした。
「……好きだよ、私。颯真のこと」
その言葉に酷く心を温められる。
熱くなった頬を冷えた外気に撫でられて俺は彼女を抱きしめ返した。
酷く……安心する。
ずっと不安だったんだと思う。
何か、いつも言葉に言い表せない焦燥感があった。
使役師を始めた時もそうだ。
このままで良いのか。普通の人間に、大人になれるのか。
俺は何のために生まれて、何のために生きているのか。
それすらわからないまま、明日を繰り返して良いのか。
不安だった。
「美香はさ……やっぱり、素敵な人だよ。俺、美香のこと凄く好きになりそう」
「うん。凄く好きになって欲しい」
「……分かった」
いつまで抱きしめあっていただろう。
数秒か、数十秒か。
とにかく人目が気になり出したところで、名残惜しくも俺は美香から離れた。
目が少し潤んでいた。
それを指で拭ったその湿り気を見て、俺は今確かに幸せが溢れた気がした。
新しい連載を始める前に短編を一本投稿しようと思っています。
以下は宣伝内容なので、興味のない方は読み飛ばして頂いて大丈夫です。
短編↓
突然俺の部屋に現れた超絶美少女が幻覚じゃない気がする/現実恋愛
内容としては自分が過去に書いていたらしい作品のキャラが朝起きたら部屋にいたけど、全然誰か覚えてないのでとりあえず元に戻すまで彼女を部屋に居候させる事になるアマチュア作家のお話です。私含め作家の皆様が前を向けるような作品になればな、と思っています。
投稿日は未定です。




