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91話 クリスマス

 時はあっという間にすぎるものだと、実感する。

 冬休みが始まり、あっという間にクリスマスの朝が来た。


 駅中のケーキ屋にはクリスマスケーキが並び、店頭にはクリスマスツリーを飾るところも多い。

 

 街中が浮かれる中、当然の如く俺も浮かれていた。


 少し早く来てしまったと思いつつ、一旦待ち合わせした駅のトイレに入るついでに自分の姿を再確認する。


 特に派手なファッションではなく、普段着に上着を羽織り、寒くない程度のカジュアルな格好。


 以前フォーマルな服を買ったのだが、ちょっと似合って無さすぎてデート直前でやっぱり無しと着替えたのは良い思い出である。


「あれ、ごめん。待たせた?」

「ううん。私がちょっと早く来すぎただけだから」


 待ち合わせ場所に到着すると、まだ十五分前だというのに美香がいた。


 俺は寒い中待たせた事を謝罪しつつ、とりあえず一緒に歩き始めた。今日は水族館に行きつつ、映画を見る予定である。


 現在時刻は十二時。丁度お昼時だ。


「じゃ、行こうか」


||


「お目覚めかしら?」

「あ……おはようございます」


 颯真が去った後、リリィを呼び出したアンナ。

 リリィは召喚されて早々あたりを見渡して状況を把握する。颯真の部屋だ。


「颯真様は?」

「先に出かけたわ。お姉さんの方もいないみたい」

「そうですか」

 

 そう言いつつ、リリィはベッドに腰掛ける。

 すると手が枕に当たったので、それをどかそうとしてふと魔が挿した。


「ちょっ、貴方何してるのよ」

「あ、いえ。なんでも……」

「今、匂いを嗅いだじゃない。変態」

「ご、誤解です」


 リリィはつい欲望に負けたことを責められ、目をそらす。

 アンナの鋭い追及にたじろぎかけた。


「……ちょっと私にも貸しなさい」

「駄目ですよ、何考えてるんですか」

「良くも自分の事を棚に上げられたわね」


 手を伸ばしてきたアンナから、枕を遠ざける。

 目線がぶつかり、言葉に熱が籠る。


「はぁ……もういいわ。私、変態じゃないし。それにマスターにバレたら嫌われるもの。まあ貴方は別かもしれないけど」


 ベッドに寄ってリリィと格闘していたアンナは、ため息をついて諦め、席に戻った。

 皮肉を込めた物言いに、リリィは少しむっとなる。


「アンナはよく私が特別扱いされてるって言いますけど、アンナこそすごく信頼されてるじゃないですか。それに、私はそこまでじゃありませんよ」

「はぁ? 貴方が? 良く言えたものね」

「だって……颯真様は多分、私よりナナの事を特別だと思ってましたよ」

「えっ? だってマスター、殆どナナの話しないわよ?」

「……普段は意識しないようにしてるんだと思います。だってナナの事について話す時、凄く悲しそうな顔をしますから」


 アンナはリリィのその話を不審に思う。


 ナナ……。マスターの一番初めの仲間。確かに、思い返してみればマスターがナナに向ける感情は何か特別なものがあったと思う。

 

 私はそれを気遣いだと思った。

 片腕がないから。だから安全な場所に待機させてた。


 でも、ナナが特別だったのなら?


「ねえリリィ。もしかしてナナって、マスターを抱きしめたりしたかしら?」

「え? ……えーっと、はい。確か、ありましたね」

「そう。その時のマスターの反応、覚えてる?」

「え? うーん。確か泣きそうで……それでいて嬉しそうな顔だった筈です」


 リリィが顎に人差し指を当て、当時を思い出しながら語る。

 その言葉に確信を得たアンナは、ボソッと呟いた。


「なるほど。やっぱり、それが正解なのね……」

「え? どういう……」

「問題は他の誰かに気づかれているかどうかだけど。祈るしかないわね」


 リリィはアンナの言葉に訳も分からないでいる。

 しかし何かしら覚悟を決めたアンナの目に、彼女は言葉をつぐんだ。 


||


「……映画、どうだった?」

「うーん。良い話ではあるんだけど。正直、あんまり好みじゃなかったかも」

「あ、美香も? 実は俺も中盤辺りから飽きてて……」


 映画館を出た俺たちは、カフェに入りつつ映画の感想会を開いていた。

 内容は先ほどまで見ていたアニメ映画の感想。


 二人で丁度上映していたものの中で一番気になっていたのを選んだのだが、お互いあまりハマらなかった。


 世間の評判はかなり良いのだが……。


「王道な展開ではあるんだけど、俺はテーマが刺さらなかったなぁ。全人類仲良くみたいな話。後、家族系のハートフル系の展開は正直苦手で……」

「あー。私は主人公がちょっと。なんかベタすぎる感じの王道な主人公なんだけど、あんまり魅力が……」


 席に座り、飲み物を飲みながらあーだこーだ言いつつ盛り上がる。


 世間的には売れてるから成功なんだろうけど、こうすれば、これをしなければと、素人ながらも作り手目線で色々考えてしまう。


 だって、あの映画はクリエイターの努力が詰まっていて好きだったから。だからこそ、惜しいと考えてしまう。


 まあ評論家気取りにはなりたくないので、話はここら辺で切り上げるとして……。


「水族館、行こうか」

「そうだね」




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