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88話 加奈との再会


「服、結構買ったな」

「はい。颯真様の好みを反映させてますから、気にいると思いますよ」

「リリィの好きな服を選べば良いと思うんだけどなぁ」

「颯真様の好きな服を着たいですから」


 帰路の途中、そんな会話をリリィと交わす。

 アンナはイチャつかないでくれるかしら、と若干文句を言いつつも会話の邪魔はしない。


 そろそろ家に着くかという頃、丁度日が沈んだ。


 アパートに戻り家の戸を開けてリリィ達を家に入れようと振り向く。すると背後には緋色の夕日が美しく輝いていて、目をしばし奪われた。


「……綺麗だな」

「颯真様」

「何? リリィ」

「私は、まだーー颯真様が好きです」

「うん……ごめん」


 夕日に照らされるリリィは、それこそ息を呑むほど美しかった。

 けれど俺はその思いに答えられない。


「家に入りましょう。寒いでしょう?」

「……私はちょっと熱いです」

「私が寒いのよ」


||


「えーっと……どこだ?? 梅田駅広いからなぁ」


 時は流れ金曜日。

 俺は約束の日を迎え、美香と共に加奈に会う約束をしていた。

 

 待ち合わせ場所に向かいつつ、過去を懐かしむ。


「中学以来会ってないから会うのは二年半以上ぶりか……」


 昔は色々あって、若干黒歴史化しているが、それでも当時の楽しい記憶は色褪せていない。


 当時の他の親友達とも長らくあっていないけれど、名前を覚えている限りいつかは再会出来るだろう。


「お、いた」


 エスカレーターの下で手を振っている美香と共に、女子が一人いる。

 俺は急いで降りて、彼女達の元へ駆け寄った。


「久しぶり」

「うん。久しぶりー颯真」


 ニコッと笑うその女の子は学校の制服を身に纏っている。

 上は黒、下は紺っぽいスカートで服の先に見える細い肢体は真っ白だ。


 髪はスラっと伸びたロングの黒髪で、顔に化粧の後は見えないのに絶世の可愛さをしていた。


「……とりあえずお店向かう?」

「そうだね」

「さんせーい」


 美香の同意と少し間延びした加奈の同意が得られたところで、俺たちは歩き出す。


 入ったのはごく普通のファミレスだ。

 あんまり高いところに行くわけにも行かないし、友達と行くには丁度良い場所だろう。


「あ、私颯真と座りたーい」

「ちょっ、だめ! 加奈はこっち」

「俺は良いから、二人で隣座りなよ」


 席決めに一悶着あったものの、俺が椅子側、加奈と美香がソファー側に座る。右に座る美香が奥の方で、左に座る加奈が席から離れやすい方だ。


 場所は店の隅っこで、冷房の下でもない丁度良い場所を選んだ。


 俺は二人にメニューを手渡しつつ、荷物を下す。


「ね、とりあえずさー。連絡先、交換しようよ」


 席に座って早々、俺の対面を確保した加奈にスマホを渡される。

 俺が連絡先を交換している間、ずっとニコニコ見ておりメニューに目を通すこともない。


 見てても楽しくはないと思うんだけど……。


「はい。これで良いかな?」

「うん!ありがとー……もう離さないからね」

「……? なんか言った?」

「ううん。颯真は何食べるの?」


 加奈の言葉を聞き取れず聞き返したが、はぐらかされる。


 俺がまあ良いかと考えると、横に置いてある加奈が注文用のタブレットを渡してきてそう言った。


「まだ決まってないけど……」

「あ、颯真。私決まったから、こっち使って」

「うん。ありがとう」


 美香が注文を入力している間、俺は素早くメニューをパラパラとめくって選ぶ。

 加奈も注文を決めたようで、メニューを置いて美香の入力を横目に見ていた。


「はい。入れたよ」

「じゃ、私入れるねー」


 加奈はピッピッと素早く入力し、俺に手渡してくる。

 俺も注文は決まっているので素早く入力して注文内容を二人と確認しながら、送った。


「私ドリンク取ってこようかなー」

「あ、なら俺が取ってくるよ。ついでに自分の分もとるし」

「本当? じゃあお言葉に甘えて。オレンジジュースお願いねー」


 加奈は嬉しそうに頼まれ、俺は席を去る。

 そういや加奈もオレンジジュースか。


 俺と同じだ。いつだったか、俺の為に祝ってくれた誕生日パーティーでも一緒にオレンジジュースを飲んでたっけ。


 視線の先にドリンクマシンがあったが、既に人が二人ほど並んでいる。

 俺はならば、と先にオーダーしていたサラダバーの方に向かった。


||


「あのさ……加奈」

「んー、何?」

「加奈に話さなきゃいけないことが……その、あって」


 颯真が席を離れた隙に、美香は覚悟を決めた。

 隣に座って水を飲む親友に、身体を向ける。


 コトッ、と加奈がコップを置いた。中の水が揺れる。

 加奈は顎をテーブルにくっつけ、楽な体制で顔だけを美香に向ける。


 油断を誘うような気の抜けた顔に比べ、その眼光は鋭かった。


 唾を飲んで、美香は震えた声で言う。


「私……今、颯真と付き合ってるの」

「……ヘぇ。そっかぁ、美香とかー」


 思ったよりも驚いていない?

 そんな風に思ったのも束の間、加奈は下から美香と視線をぶつける。


「……誰かと付き合ってるとは、思ってたんだよねー。美香、私に颯真のことを連絡する時、ちょっとよそよそしかったし。でもそっかー、ショックだなぁー」


 加奈の声に怒りはない。


 座ったままいつもの間延びした声で、彼女はそんなことを語る。でも確かにその時、美香は加奈との距離が遠かった気がした。


「じゃあ今日から……ライバルだね?」

 


 

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