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87話 リリィとのデート2


 アンナが作ってくれた夜ご飯は普通に美味しかった。


 リリィには姉さんが帰ってくる前に部屋に戻ってもらったが、色々と悩み事が増えたのは間違いないだろう。


 まず服を買わないといけない。

 アンナのデフォルトは着物っぽい服で、少し奇抜だけど見た目を日本人らしく偽装すればギリ通せた。


 だがリリィの姿はダメだ。あのヴァンパイアの衣装は目立ちすぎる。顔の良さのせいで似合ってる感はあるが、レベルの高いコスプレだと思われるだけだろう。


「色々と忙しいなぁ……」



||


「起きなさい、颯真」

「ん……」


 朝、誰かに起こされ目が覚める。

 俺はベッドの中で身じろぎし、寝ぼけ眼を擦りながら声の方に目を向けた。


 今日は日曜日だ。天義組の活動は飯田さんが帰ってきてないこともあり休みなので、ゆっくり出来るはずなのだが……。


「アンナ?」

「起きたかしら」

「ああ。ていうか昨日聖遺書に戻したよな?」

「自分で出られるわよ。それと寝顔、可愛かったわ」 

「あ、そう……」


 マジか。


 眠気が取れ、俺は起き上がってベッドに座る。

 対面のアンナは椅子に座り、俺の姿を見ながら少し上機嫌に見えた。


「で、こんな早朝に何のようだ?」

「リリィが起きる前に少し話をしようと思って」

「話って言われても……」


 二人で話すような内容があるのだろうか。

 そんな風に怪訝に思っていると、アンナから大きめの封筒を渡された。


「はい」

「これは?」

「私の戸籍よ。スピネル様に手配して作ってもらったわ」

「え……凄いな。ていうかスピネル様とコンタクト取れるのか?」

「ええ。そのくらいの権能は得てるわよ」

「……本当、制御下におけなくなったな」


 自由奔放すぎる彼女に、俺はちょっと呆れた。

 彼女には何かしら彼女なりの思惑があって動いているのだろうが、少し心配にもなる。


「神石 杏奈……年齢は十五。十五?」

「そういうことにしたわ」

「……まあ通じるか。ていうか両親とか、経歴とかはどうやって作ったんだ本当……」

「神の力じゃないかしら。あ、両親はちゃんと実在するスピネル教の人らしいわね。後は私もよく分かんないわ」


 まあ何にしろ、これで身分不明の不審者ではなくなった訳か。

 俺はほっと思いながら、書類を返した。


「後、貴方リリィのものを揃えなきゃでしょう? 一応貴方の恋人と会ったことがあるみたいだしリリィには認識阻害の魔法を掛けておくわ」

「認識阻害?」

「ええ。それも習得したわ。これで例え美香さんにあっても分からないから安心して行きましょう」


 アンナの気遣いに感謝しながら、俺は頷いて背を伸ばした。

 大きく欠伸が出る。

 

「ごめんなさい、まだちょっと眠かったわね」


||


「地上は初めてだったよな?」

「え、ええ。お願いですから、離れないでくださいね颯真様」


 一旦アンナの服を借りたリリィは、俺とアンナと共に商業施設に繰り出していた。

 俺の腕をギュッと握って離さないリリィに少し苦笑する。


 まあ両手に女の子と、美香に見つかったら笑えない状況なのだが。


「リリィ、少し離れてあげなさい。颯真が迷惑しているでしょう?」

「えぇ〜〜。迷惑ですか? 颯真様」

「い、いや別に……」

「美香に言いつけるわよ」

「ごめんなさい」


 俺は美香から少し距離をとる。

 ついでに横の列だったのを縦の列に直す。


 迷惑だからね、うん。


「はぁ……颯真は本当にリリィに甘いわね……」

「なんか言った?」

「聞こえないように言ったから大丈夫よ」


 ちょっと怒っているのか、アンナの言葉は若干冷たい。

 俺は機嫌を取らなきゃなと思いつつ足を進めていった。


「服は……二階かな」

「これ、地図ですか?」

「うん。ここのショッピングモールの地図だね」

「人で……一杯ですね」

「そりゃあ、まあ」


 目を輝かせるリリィに、俺も釣られて嬉しくなる。

 楽しそうだ。


「言っておくけれど、私の場合は王印を宿した時に色々な知識を流し込まれたせいよ。別に私も最初は無感動って訳じゃなかったわ」

「そっか」


 それからエスカレーターに乗る時、少し手本を見せてあげたりする。


 何事も興味深そうに見る彼女には非常に教え甲斐があった。それから服屋に入り、服を選んだ後買い物の仕方を教える。


「そろそろ昼食にするか」

「そうね。リリィ、何が食べたいかしら」

「私が選んでも良いんですか?」

「ええ。好きに選びなさい」


 アンナと違って、リリィの身体は普通の使徒のそれだ。

 だから味は感じても食欲とか空腹とかそういう感情はないはずだが、目を輝かせている。


「でも写真じゃ味は想像できませんね。颯真様が選んでくれませんか?」

「俺? んー……じゃあパスタはどうだ? 味に癖もないし、食べやすいかも」

「じゃ、それにしましょう」


 そんなこんなで、行き先が決まる。

 食事の頼み方を学ぶリリィを見ながら、こんな日常も悪くないと思う。


 四ヶ月後には、俺も高校生だ。

 俺の目標は対異空高校に行くこと。これは絶対に叶える。


 勿論今のままなら問題なく天義組から推薦を貰えるから、とにかく戦力として戦果を上げ、現状を維持すること。これに全力を注がなければならない。


 リリィもアンナも、よくやってくれている。

 

「っ! ご飯、美味しいですね」

「プロの味だからな。俺とアンナのとは違うだろ」

「いえ。颯真様の朝食、美味しかったですよ」

「あら、私の夕食の話は無しかしら?」

「アンナの料理も美味しかったぞ」

「……んー、そうですね」

「何かしらその間は」


 食事に舌鼓を打ちながら、俺は今を全力で楽しんだ。




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