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85話 新任務2

「親が訛り強くてな。ただ周りの友達は大体標準語やったからちょっと中途半端な形に言葉を覚えてまったんよ」

「へー」

「みんな、そろそろ着くで。車止めてくるから、先に降りといてな」


 車で移動していた俺たちは住宅街から離れた工業地帯の辺りに来ていた。

 港が近く、目を凝らせば白や灰色の建物の奥に鮮やかな青色が揺らめいている。


「お、海あるっすよ海!」

「ん……本当」

「普段あんまり見ないんで、新鮮な気がしますね」


 俺たちが遠くの海に目を奪われている中、花咲は目もくれずに建物の中へと入っていく。

 そんな彼女を見て冷静になると、小森が苦笑しつつ言った。


「俺たちも行きましょうっす」

「そうだな」


 頷きつつ工場内に揃って入る。

 ロビーで受付っぽい人と黒川さんが話を通し、俺たちは事務室らしき場所に連れて行かれた。


「少々お待ちください。すぐに異空に向かうことになりますので」


 案内してくれた職員にそう言われ、俺たちは集まった人たちを横目に着席させてもらう。

 部屋の中には十数名ほどの人がいて、リーダーっぽい人から説明を受けているようだった。


 しばらく大人しく待っていると、三ノ宮さんと共に男性が二人入ってきて、全員が静まる。


「第四異空生産隊管理長の小清水です。間も無く異空に入りますので各自指示に従って行動してください」


 男性のうちの一人が、そう語る。

 五十代くらいの方で役職が上なだけあって厳かな印象を受けた。


「使役師の皆様は先んじて異空に入るので、こちらに。副管理長の田辺です」

「今日はよろしくお願いします」


 田辺さんの前だからか、三ノ宮さんはかなり礼儀正しく挨拶し、それを見て俺たちも続けて頭を下げて挨拶する。


 花咲さんは頭を下げずに挨拶をした。


 それから少し奥に向かい、巨大ガレージのような場所に着いた。

 硬いコンクリの地面と鉄製の壁。何台かトラックが並んでおり、作業員らしき人が二十人ほどいる。


 手前の方には異空門があり、警備員の格好をした人が両脇に並んでいた。


「この異空門は天義組が独占してるんっすよね」

「せや。同じ異空門から入ってくる人はおらんから、この第四異空が実質貸切状態で使えるねん」

「へー……」

「ほら、作戦通りチャッと行って辺りの穢者を一掃してくるで」


 三ノ宮さんに従い、俺たちは異空の中に入っていく。

 

「草原っすね」

「資料にも書いてあったやろ? 出る穢者はゴブリンとか、出てもオークくらいやからそんな苦労はせんはずやで。見通しもいいしな」


 異空に着くと、視界には草原が広がっていた。

 足首にも届かないくらい短い芝で、確かに見通しがいい。


 これなら敵がきてもすぐに分かるだろう。


「お、ゴブリンいるっすね」

「ん……本当」

「じゃ手分けして討伐しましょう」

「せやな」


 少し離れたくらいの位置にゴブリンがそこそこの数いた。

 半径百メートルくらいで考えると、二十匹くらいはいるだろうか。


 そして俺が使徒を呼び出し、討伐に向かった十数分後。

 辺りにはゴブリンの姿は消え去り、大量の魔石が落ちていた。


||


「オーライ。作業始め!」


 粗方の道具や機械等々が運び込まれると、ようやく作業が開始された。


 魔道具等の特殊な生産品は、異空でしか作れない。その理由は生産に特化した使徒を用いて作るからなのだが、専門的なことはよく分からない。


 例えば回復薬等の生産は、薬作りに特化した使徒に手伝わせながら職員が作ったり、武具であれば魔石等々に使徒の強化魔法等の魔法を込めたりして作らせる。


 火も異空では着火原理等々が異なるので、ライターやガスコンロといったものは使えず、薪に火魔法で付けるスタイルだ。


 そんな原始的な環境でも職人たちの技は惚れ惚れとするものであり、素早く物作りに勤しんでいた。


「ゴブリンいました」


 それに比べ俺たちの仕事はというと、かなり楽なものだった。

 監視員たちに索敵を手伝ってもらいつつ、敵が見つかれば即殲滅する。


 大抵瞬殺に終わるので、俺は久しぶりにシャナを呼び出したりなどして戦闘させていた。


 今出しているのはシャナ、アンナ、リリィの三人であり例の如く無感情でいるように指示しているものの、久しぶりに出番が来たシャナは張り切っているようだった。


「報告ありがとうございます」


 先ほど敵を見つけた監視員の女性にお礼を伝える。

 四十代くらいの人で、手慣れている様子からも長らくこの仕事をしているのだろう。

 

「あ、はい」


 俺はというとかなり年上なので、立場的には上司なのだが物腰を丁寧にされるとむず痒い気分だった。


 監視員たちの年代は様々である。

 多くは二十歳を超えているが、黒川さんのとこには高校生くらいの人もいた。


 確か半分ほどが社員で、残り半分くらいがバイトの方達らしいが……。

 

 彼らには全員、一応の防戦能力として白狼が貸し出されている。等級的にはそこそこくらいだが、これでゴブリン等に近づかれても大丈夫という寸法だった。


「あ、そこの二人。正面に敵が来てます! ちょっと下がってくださいね」


 俺は会話をしているのか、三十メートルほどの距離でも敵に気づいていない監視員の二人に急いで駆け寄る。


 敵はすぐにシャナが魔法で撃ち倒した。


「三回目ですよね? 会話は構いませんが、気を抜かないようお願いします」


 先ほどから同様の行為で敵に近づかれていることに対し、俺はそう述べる。

 しかし忠告されたのが気に食わなかったのか、その二人の監視員たちは舌打ちをして去っていく。


 四十代くらいの、髭が伸びっぱなしでいかにもやる気がなさそうな二人だが、見た目通りだった。

 

 俺は呆れながら、まあカバーすれば何とかなるかと考える。


 近くに敵がいなくなり、余裕が出来たので俺はそういえばと、先ほどから姿がないアンナとリリィを視線で探す。


 すると俺たちから三十メートルほど離れた場所で敵を監視しながら会話をしている二人がいた。


 内容が少し気になったが、持ち場を離れる訳にはいかない。

 後で聞こうと考え、俺は再びシャナに付近の警戒を頼むのだった。




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