84話 新任務
「あ、アンナ帰ってきたっぽい」
『じゃ、そろそろ今日は終わろっか』
「そうだね」
一通り美香とゲームを満喫し、俺は椅子に座ったまま腕を伸ばした。
座りっぱなしだったので、ストレッチが身体に効く。
『ねぇ……颯真。今度さ、久しぶりに加奈と会ってみない? 向こうから誘われててさ』
「え……嬉しいけど、美香はいいのか?」
『うん。私も一緒に行くし……そろそろケリをつけなきゃだから』
「……? そっか」
言葉の意味は読み取れなかったが、俺は提案を受けた。
白石 加奈。小学校を卒業して以来一度もあってないから、凡そ二年半ぶりになるのだろうか。
今、何をしているのだろう。
美香が通話を抜け、俺も通話を終える。
ゲーム機をしまった辺りで、部屋にアンナが入ってきた。
「ただいま」
「おかえり」
アンナは俺をじっと見つめてから部屋を見渡す。
それからベッドに腰掛けた。
「何かしてたのかしら?」
「いや、まあちょっとゲームを……」
「ふーん。で、何聞いてるの?」
彼女はそう言って頭を指差した。
俺はそこで付けていたヘッドフォンを思い出し、流していた音楽を止める。
「これ。最近知った人だけど、なんか俺と同年代らしくて。全然有名ではないんだけどね、表現力が凄いっていうか」
そう語る俺に近づき、俺の顔の横からパソコンの画面を覗き込む。
近い距離の彼女に少し緊張するものの、俺は平常心を装った。
「へー。KANA……ね。今度聞いてみるわ」
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「おはよう。みんな、今日もよろしくやで」
天義組の事務所。
部屋に入ってきた三ノ宮さんは、俺たちを見渡してから笑顔を見せた。
「ん……飯田さんは」
「あ、飯田さんは急用でな。僕が今回の指揮を務めるわ。まああんまり難しくない任務やから気楽にな」
黒川さんの質問に、三ノ宮さんは報告を告げる。
「了解です」
本日は土曜日。予定していた通り、俺たちは任務を割り振られている。
頷きつつ俺たちは改めて今日の資料に目を通した。
「今日の任務は生産隊の護衛任務や。かなり大規模な作戦やけど、浅い階層で作業するから危険性はほぼ皆無やで」
天義組、生産隊。
それは異空内で魔道具や魔武具等の生産を行う部隊である。
戦闘には特化しないが、生産が得意な部隊だ。元来天義組は生産力に強みを持ち、数々の職人が生み出した魔道具で金を生み出したり戦力を生み出したりしてきた。
なので毎日のように大規模な部隊が異空内部に入り、使徒を用いて生産に当たるのだがーー。
「はあ? 下等任務じゃないですか」
早速のように、花咲が嫌な顔を見せる。
不満がありありと察せる表情だが、それに負けないくらい顔を顰めるのが三ノ宮さんだ。
「生産隊は根幹で天義組を支える重要な部隊や。それに、任務には上も下もないやろ」
「はぁ〜〜」
一応説得が聞いたのか、花咲は明らかなため息をつくものの、それ以上抗議はしない。
俺と三ノ宮さんは目を合わせ、お互い花咲さんに呆れた。
「分かったなら、作戦を説明するで。任務は八時から開始。場所は第四異空で、まず職人と機械等々が運ばれてくる前に辺りの穢者を一掃。それから一人ずつ監視員達の班を率いて、十三時頃に交代が来るまで護衛する。以上が任務の内容や」
三ノ宮さんは机に資料を置き、一つずつ説明していく。
資料の最後のページまで行くと全員を見渡しながら、質問はないかと聞いた。
「あの……監視員ってのは何っすか?」
「天義組の社員、及びバイト達やな。僕たちみたいに使役師として契約した人たちじゃなくて、一般の労働力や。でも一応、全員準ライセンスは持ってるからあんまり心配せんでもいいで」
小森の質問に三ノ宮さんはそう答えた。俺は資料を改めて確認する。
出現する穢者は三等級から四等級の使徒達らしい。
……確かに大丈夫そうか。
「率いるって、俺たちがですか?」
「せや。五ページ目に色々マニュアルが書いてあるやろ? 基本それに従えば大丈夫やで」
俺の問いかけに三ノ宮さんが頷く。
一通り全員が資料を読み終えた辺りで、三ノ宮さんがチラッと時計を見た。
「そろそろ行くで。終わったら焼肉でも食いに行くさかい、頑張ろうか」
「ん……さかい?」
「あ。今時の子は通じへんのか……」
「今時そんな関西弁混じりの喋り方してるの三ノ宮くらいっすよ」
吐血しかけた三ノ宮さんはさておき、俺たちは彼に運転されて任務地へと向かったのだった。




