81話 昇格試験
毎日投稿再開十話目!
俺と河野さんで門をくぐり、異空へと入る。
門で設定した通りきっちりと二十五階層である。
「相沢君、カメラ回して良いかい? 何か準備とかが必要なら待つけど」
「あ、なら少し待ってもらって良いですか?」
「了解」
俺は河野さんに待ってもらう事にし、使徒達を呼び出す。
呼び出したのはメイ、フェリス、リリィ、アンナだ。
「そろそろ等級を上げようと思ってたからさ。メイ、フェリス、リリィ。昇華させるけど、いいかな?」
「私は大丈夫ですよ」
「私も構わない」
「私も」
メイ、フェリス、リリィの同意を得られたことで、俺は彼女らに新たな聖遺書を手渡す。
リリィはノーブルヴァンパイアから、ヴァンパイアロードになり、等級が十三に。
メイは九尾から天狐になった事で、等級が十二に。
フェリスは獣人闘士から獣人王になった事で等級が十三に。
それぞれ二つずつ等級を上げ、昇華した。
「で、アンナなんだが……」
「多分だけど……私は必要ないわよ?」
「まあ、そうなんだが……一応な」
アンナはもう既に王印がある。
その為、元がなんであろうが既に二十等級の使徒だ。
だが一応ベースとなる使徒を昇華させることで力が強くなるかもしれないし、それに昇華させる事で出しても不自然じゃない程度の力の基準を上げられる。
そういう訳で、俺はアンナを水光姫から高龗神に昇華させた。
等級は十二である。
全員合わせるとかなりの出費になったのは言うまでもない。
「河野さん、カメラ回してもいいですよ」
「あ、そうなのかい? 今僕も使徒を呼び出していた所だよ」
振り返ると河野さんは確かに丁度自分の使徒達を呼び出していた所だった。
ワイバーン、ヘルハウンド、デュラハンの三体。
いずれも十四等級の使徒で、相当に強そうだ。
「僕が支配下におけるのは残念ながら十四等級の使徒まででね。一回十五等級の使徒を使ってみようとして、命令の効きが悪くてこちらの使徒に攻撃しかけたから慌てて戻したよ」
河野さんは失敗談を苦笑しながら語る。
俺はチラリと彼の使徒達に視線を向けるが、いずれも大人しそうだ。
確かに十四等級の使徒までは制御できているらしい。
「相沢君は……お、十三等級の使徒を制御できているんだね」
今昇華したばかりなのだが、どうやら見ていなかったらしい。
そういえばまだ制御できているかの確認をしていない……と考えて、俺は彼女達に目を向けた。
視線の合ったリリィが笑う。
問題なかった。
……あれ、そういや俺って制御できる使徒の限界を感じた事ないな。
そんな事をふと思いつくが、まあいつかは限界が来るだろうと考えて振り払う。
大抵の使役師は十三ほどで限界が来て、才能のある人は十六辺りまで支配できる。
更に上のトップ使役師と呼ばれるもの達は十八等級の使徒までを制御でき、国内に三人しかいない十九等級の使役師達が通常の使徒の限界点である十九等級の使徒をも支配下に置く。
「あ、はい。でも河野さんの方が凄いですし……」
「いやいや、そんなことないよ。君はまだ若いからね、まだ限界は伸びると思う」
「……だと良いんですが」
俺と河野さんはそのまま歩き始め、階層の攻略を始める。
撮影は自動でドローンが行い、河野さんはそのドローンの護衛兼監督役だ。
まあ不正などするはずもないので、現状彼との会話を攻略の片手間に普通に楽しんでいる。
「そういえば、最近イレギュラーの使徒が増えてるって話を聞いたんですけど、本当なんですか?」
「ん、ああ……そうだね。何でも最近、各地で暴走状態らしい使徒が増えてるみたいで。どうやら使役師を攻撃したりとか、そういうのではないんだけど、スピネル様の支配が効いてないのが出て来てるみたいなんだ」
「……? どういうことですか?」
「どうやら、その暴走状態の使徒はみんな感情の鎖が解けている様子でね。危険なのか危険じゃないのかは判断がしにくいそうなんだが、現状は危険であると判断されているよ。使徒は貴重な資源だしあまり無駄にしてほしくはないんだけど、処分も多いみたいでね」
告げられた河野さんの言葉に、思わず立ち止まりかける。
「……? なんだい?」
「あ、いえ。何でも……」
今回、リリィ達には無感情でいる事を伝えてある。
河野さんがいるのもそうだが、カメラも回っているからだ。現状は問題なく進めているのに、俺が少し動揺しかけた。
分かっていた事だが、暴走状態にあると判断された使徒は処分が基本だ。
俺は表情を押し殺しながら、攻略を進めた。
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「はい、お疲れ様だね相沢君。カメラも止めたよ」
「あ、はい。河野さんもお疲れ様です」
無事に攻略を終え、使役師組合に戻って来ていた俺たちは椅子に腰掛けていた。
「これで君も無事九等級の使役師になった訳だけど、気分はどうだい?」
「そう……ですね。あまり実感がない、気がします」
「あはは、そうかい。でも段々と恩恵を感じるはずだよ。九等級の使役師は原則様々な権利が与えられる。例えば、地区の使役師会に参加できるしそこでスポンサーの目に止まれば大きな援助が期待できる。それと専門の武器や魔道具なんかのオーダーメイドも要望が通りやすくなるよ」
河野さんに色々教えてもらい、俺は感謝を述べる。
彼は気にする事じゃないと言いながら、部屋の扉を開けた。
「じゃあ、頑張ってね」
去り際にそう言われ、俺は改めて頭を下げる。
権利か……。
そう言われてもやはりあまり実感が沸かないまま、俺はとりあえず汗を流すためシャワー室へと向かったのだった。
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