77話 交渉
毎日投稿を復帰後、何か目標を立てようと思い立ちました。
なので日間ランキング一位。大きな夢ですが、これを目標に立てようと思います。
応援して頂いている皆様、これから応援してくださる皆様、何卒本作をよろしくお願いします。
「茉白ー!」
「ああ、園子。用意出来てるかしら」
友人である清賀園子の声を聞き、花咲 茉白は振り返る。
それは放課後を告げるチャイムが鳴ったすぐ後のことだった。
園子の側には見知った他の顔触れの面々が並んでいる。
三人は茉白と園子の取り巻きだった。
「今日どこ行くんだっけ」
園子の問いかけに、茉白が答える。
「ス○バよ」
「えー、良いけどあんまりお金なーい」
「使いすぎ。貴方だけ特別に飲み物は買ってあげるから感謝して頂戴」
園子はありがとー、喜んだ。
茉白は呆れながらも、特に気にしない。
「あ、あの……花咲さん私たちも最近あんまりお金なくて……」
「そう。なら来ないで良いわよ?」
「い、いえ……行きます」
取り巻きの声は茉白にとって雑音に近い。多くはつまらない話ばかりで、覚える価値のないものだ。
事実、先ほどした会話を茉白は既に記憶から消している。
故に彼女に罪悪感というものはない。
花咲茉白は無知である。彼女は自身の取り巻き達が茉白のグループを抜けた場合、孤立してしまうことを知らない。
「なら良いわね」
そう言って歩き始めようとする彼女に、取り巻きの一人が声をあげる。
「あ、あの! 美乃がまだ来てなくて……」
「ああ。あの子ならもう来ないわよ」
「……え」
「私の陰口を言ってたわ。で、望み通り友達の縁を切ってあげた。不満ならさっさと消えれば良いのに、あの子も馬鹿ね」
さらっと告げる茉白に、声をあげた取り巻きの一人が声を詰まらせる。
彼女にとって、 美乃は取り巻きの中で一番仲の良い子だった。そして、一緒に花咲の陰口を言い合って乗り切ってきた仲だった。
「貴方達も私のお友達でいたいなら、敬意と忠誠を持つことね。話は以上かしら」
「……あ………っ……はい」
絞り出した声が、震えてないか。
最早その取り巻きは、親友だった美乃の事など悲しむ余裕すらなかった。
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天義組の初出動も終え数日が経過した頃。
俺は武藤との約束で使役師組合に呼ばれていた。
「久しぶりですね」
先に会話を始められ、椅子に座る俺は少し身を固める。
対面の小鳥遊結奈は悠然と微笑んでいた。
「はい、お久しぶりです」
「今日は敬語なんですね。大会みたいに普段の口調でも構いませんよ?」
「……今日は畏まった話だそうですので」
「そうですか。で、貴方は天義組に入ったのでしたか」
少し会話をしてから、彼女は本題に入ってくる。
俺は答えに悩むこともなく、正直に答える。
「ええ、入りました」
「ウチに移るつもりは?」
「お話は嬉しいのですが。契約させて頂いたばかりですし、不義理な真似は出来ません」
「……そうですか」
どうやら、本当に俺を夜廻組に入れたいらしい。
少し残念そうな顔をする彼女に俺は申し訳なくなった。
「なら、あの水光姫を買い取らせてくれませんか」
「っ……」
単刀直入に告げられた言葉に、俺は息を呑む。
予想はしていた。それでも、彼女に目を付けられるとは思っていなかった。
「私はあの使徒が欲しいと思いました」
「何故……彼女を」
「特別なものを感じました。そして私は自分の勘を信頼しています」
俺はぎゅっと拳を握る。
きっと王印がバレている訳ではないのだろう。
沈黙の後、決意を新たにした。
「……売るつもりはありませんよ」
「一千万でもですか?」
「いっせ……値段の問題ではなく」
金額に思わず動揺が漏れる。
しかし平静を装って俺は揺れ動かない。
そんな俺の様子を見てか、小鳥遊は手口を変える。
「そうですか……なら、やはり夜廻組に入りませんか?」
「それもちょっと。そもそお欲しいのは俺の使徒であって、俺はいりませんよね?」
「いえいえ。私は貴方の事を気に入っていますから」
「……はあ」
俺は少し疑いの目を持って彼女を見る。何か目に留まるような才能でも見せていただろうか。
しかしやはり夜廻組に入るのは状況的に不義理だろう。
「考えは変わりませんか」
「はい」
交渉は決裂する。
そもそも受ける気のなかった提案だ。
「……残念です。では、せっかくご足労頂いたのですからご飯でも奢りましょう」
「え? いえ、それは……」
「私が殿方と二人きりで話す事はそうそうないのです。勇気を出したのですが……」
少し悲しそうに俯く小鳥遊。
一見、コロッと騙されてしまいそうになる。
けれど……嘘くさい。
「そんなにアンナが欲しいんですか?」
「水光姫の事ですか? いえいえ、その話は先ほど決裂しましたから……」
「誤魔化さなくとも。流石に分かりますよ」
俺の言葉に、小鳥遊は苦笑した。
それから俺へと向き直って。
「バレてましたか。……ええ、そうです。私はあの子が欲しい。あれはーー大器ですよ」
「自覚しています」
アンナの才能はずっと感じていた。
それこそきっと、初めて出会った時から。
この子が欲しいと切望してしまっていたから。
「どうでしょう。もう少し、お話いたしませんか? ご飯代に加えて有益な情報がセットで付いてきますよ」
「……良い交渉材料ですね」
俺は美香に許可を貰っておこうと考えながら。
静かに頷いた。
ブクマ高評価よろしくお願いします。m(_ _)m




