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75話 天義組 初出動

 十二月六日。

 冬の訪れを強く感じさせる寒波が肌を刺してくる。


 今日は予定されていた天義組の演習だ。

 俺は少し早歩きで使役師組合の中に駆け込む。適温が心地よく、俺は上着を脱いだ。


 使役師組合は基本騒がしいが、今日は特別騒がしいようだ。


 受付の方を見ると、何やら何人かの集団が職員達と揉めていた。


「何かの騒ぎですか?」


 俺は近くにいた三十代くらいの男性に問いかける。

 何度か話している知り合いの人だ。

 

「お、相沢君か。何でも反スピネル運動家の人たちが来てるらしくてな」

「あー、『モールス』って名乗ってるんでしたっけ。あまり良い噂は聞きませんけど」

「ああ。極力関わらない方が良いだろう」


 勿論そのつもりである。

 忠告に頷き、俺は待ち合わせ室へと向かうことにした。

 

 その時。……気のせいだろうか。

 チラリと反スピネル運動家の中心にいる男から視線を感じた気がした。


||


「よーし、みんな集まったな! 今日は新体制になったチームの初異空探索だ。事前に話した役割通り行動するように!」


 異空探索に向けて俺たちは、使役師組合の一室に座って準備を整えていた。


 リーダーの飯田さんが丁寧な説明を行い、サブリーダーの三ノ宮さんが各自のチェックをして回る。


「相沢君。自分の役割、覚えとるか?」

「はい。迎撃のサポートですよね。それから敵の分断も」

「せや。 今回は連携面の練度上げが目的やからな。一番避けるべきは誤射や。遠距離攻撃は基本、奥の敵に。近くの敵は近接戦闘で片付ける。チームを組むと基本乱戦になるでな」

「了解です」


 頷き、俺は防具を付け終える。


 重い素材のものではないし、鎧のような頑丈さはないが、動きやすく、ある程度の攻撃を防いでくれる。


 使役師はとにかく死なないのが役目だ。

 他の人たちにも目をやると、皆同じように防具を付けていた。


「全員準備は良いな? 今回は次の異空災害に向けてのトレーニングも兼ねている。向かう異空は第八異空の市街地エリアだ。弱い穢者しかいないが、十分に気をつけるように」

 

 飯田さんがその言葉と共に、異空門を第八異空に繋がるよう設定する。それから彼を戦闘に俺たちは揃って異空へと入っていった。



「みんないるな?」


 踏み入れたところで、点呼しながら全員いるか確認していく。

 一番最初に呼ばれた俺はしっかりと返事をする。


 それから周りに注意を逸らす。飯田さんと三ノ宮さんはかなり真剣な表情だ。責任者ということもあり気を張っているのだろう。


「小森」

「はい、いるっす!」

「黒川」

「ん……楽しみ」


 対して元気そうなのは小森に黒川である。

 そして問題児こと花咲はというと、やる気のなさが顔にしっかりと現れていた。


「花咲」

「……はーい」


 ここ第八異空に潜ると言った時、一番に反対したのが彼女である。

 曰く、こんなレベルの低い異空は時間の無駄だということだ。


 確かにこの異空は第五等級程度だ。俺が初めて潜り、アンナとメイに出会った第七異空と同じと言えば分かりやすいだろうか。難易度はかなり低い。


「うん、全員いるな。決して気を抜かないように。じゃ、使徒の召喚を許可する」

「みんな出してええで〜」


 その言葉と共に、各々が聖遺書から使徒を出した。


 各自三体ずつ。多過ぎるとミスの危険性があるし、少な過ぎては意味がない。

 そんな訳で、基本はみんな三体だ。


 俺はアンナ、リリィ、メイを呼び出す。


 周りを見渡すと、他の人たちも続々と己の使徒達を呼び出していた。


「それが小森の使徒達か?」

「相沢君、そうっすよ。等級でいうと十、十一、十っすね」

「へぇ、小森は確か盾役だっけ」

「はい。なので、みんな耐久が高いんっすよ」


 彼の使徒を見ると、三体とも耐久力に定評のある使徒で固められている。

 

 エースである彼の十等級使徒はゴーレムの何かしらの上位種っぽいが、何かは分からない。ハイゴーレムの一種だろう。


 土魔法で壁を作ったり、盾になったりも出来るので役に立ちそうだ。


「みんな、前方二百メートル先にブラックベアーが五体や! 陣形を整えるで!」


 三ノ宮さんは大型のカラスらしき使徒で索敵したのか、声を張り上げた。

 すぐに集まった俺たちは、やがてこちらに向かってくるブラックベアーを確かに認識する。


「遠距離攻撃、いけ!」


 飯田さんの指示に従って、俺はアンナ、リリィ、メイの全員に目線で合図を送り、攻撃させる。


 雷、氷、水。それぞれが敵に向かっていき、強い衝撃と共に音と光が鳴り響く。


「ちょっ、相沢君やりすぎやで! 全滅したんちゃうか?」

「いや、流石に弁えてますよ。直撃はさせてません」


 とはいえ傷を負わせたところに、他の使徒の攻撃も入っただろうからかなり消耗させただろう。

 

 煙を抜け、向かって来ているブラックベアーは四体に減っている。


「演習やからな。みんな手加減して挑んでや。黒川さん、バフ頼むで」


 三ノ宮さんに言われて頷きつつ、俺は陣形を見ながらバランスの取れた位置にリリィ達を配置させる。


「ん……了解」


 すると黒川さんが使徒に命じさせ、三体の内バフが使えるのであろう二体が俺たち全員にバフをかける。


「うおっ……身体が軽いな」

「でも使役師の俺たちにはあんまり意味ないっすけどね。あくまでも動体視力の補助と移動の補佐用っす」


 しかし、かなりありがたい。

 目が良くなった気もするし、バフ能力を若干軽視していたが考えが変わる。


 そういえば俺や花咲、小森は同年代でこうしてチームを組むのも初めての新人同士だ。だが、黒川さんはどうなのだろう。


 年はあまり変わらなそうだが……。行っても一つ年上とかだろう。

 だがかなり慣れている様子だ。


「やっと私の出番ですね! サクッとぶっ殺しますよ!」

「ちょっ!? せめて五分は戦闘持たせてるんやで! 指示聞いとったんかいな!」

「はい!? なんですかそれ、面倒くさいですね……!」

「連携の確認が出来へんから! バフが切れた時の想定とか、回復の効果範囲とか、疲労の対処とか色々やらなあかんから! これ演習やねん!」 


 三ノ宮さんの必死の説得により、前がかりに行こうとしていた花咲さんは渋々と行った形で引き下がる。

 

 それから何やら自分の使徒に命令を下す。

 どうやら全力でぶつかるつもりだったらしい。


 お陰で場も落ち着き、それからしばらく戦闘が長引くよう手加減しながら、俺たちは戦いに身を投じた。




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