69話 姉の依存
お久しぶりです。
次の投稿は一ヶ月後くらいに考えています。
「アンナを……うちで預かりたいんだ」
俺の言葉が予想外すぎたのか、姉さんは思わず言葉を失った、という様子だった。
目を見開き、俺とアンナを交互に見る。
「え、ほ、本気なの……?」
「ああ。頼む、姉さん」
俺の目が本気だと分かると、姉さんはしばらく固まった後、口を開いた。
「えっと……まず色々聞かせて。アンナちゃんの親御さんはなんて?」
「私に親はいないわ」
「……なんでうちで預かりたいの?」
「アンナは今、ちょっと家がない状態なんだ」
「ちょっと待って」
俺たちの話を止めた姉さんは、頭に手を押さえる。
頭痛を感じていると言わんばかりの仕草をした後、俺たちに向き合った。
「当然分かってるとは思うけど、無理があるよ。二人がどういう出会い方をしたのかは知らないけど、現状では私は許可できない」
予想していた答えが、そのまま姉さんの口から帰ってくる。
俺をチラチラと見るアンナは、どこか落ち着かない様子だ。
しかし俺が目線で、任せてくれと伝えると落ち着きを取り戻した。
「承知の上だ。でも、姉さん……お願い」
「……ようは家出少女をウチで預かりたいって話なんだよね? まあ……颯真がそう言う理由は大体わかるけど……でも訳ありすぎるわ」
姉さんのいう言葉はあまりにも、正しい。
それに、期間も問題だ。
「一時的に宿を貸してあげるとしても、どのくらい預かるつもりなの? 一日? 一週間? 一ヶ月?」
「……分からない。でも、少なくとも一ヶ月どころじゃ収まらないのは確かかな」
「じゃあ、尚更無理でしょ? 颯真、自分で責任を取れないうちはーー」
……それだ。
その言葉を、待っていた。
「姉さん、俺が責任を取るよ」
「取るって……」
「家を出る。姉さんに迷惑はかけない、だからーー」
俺は覚悟を決めた目つきではっきりと告げる。
それは元々決めていたことで、いずれは避けられないことだ。
俺はこの家を出て……
「ーーやめて!!!!!」
「っ!?」
耳を貫くような叫び声が、目の前から発せられる。
最初、それが誰のものなのか分からなくて。しかし目の前の姉さんの表情を見て、それが誰の叫び声だったのか、遅れて気づいた。
「それだけはやめて……!! 駄目、駄目、駄目……!だって颯真ずっとここにいるって約束したじゃん! 嫌だ、離れないで、ずっとここにいて、お姉ちゃんを助けてずっと側で愛して一人にしないで私を捨てないでお母さんもお父さんもいなくなって颯真がずっと支えだったの自分だけ逃げてごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい今度は颯真の事も助けるから絶対助け続けるからだから颯真も私をずっと助け続けてよ神様も恋人も世界も誰一人助けてくれなかったの颯真だけ、颯真だけ助けてくれた私と一緒にいてくれてだから頑張れただから何も辛くなかったどんな事でも頑張れた颯真の良いお姉ちゃんを演じられた……!やめて、颯真がいないと頑張れない、頑張れないの……!!颯真がいないと、私ーー」
「ーーっ、姉さん!!」
暴走する姉さんを強引に引き留める。
しっかりと目を合わせ、俺は宥めるように言う。
「ごめん、どこにも行かないから」
「………………ほんとう?」
「ああ。変なこと言ってごめん」
「……うん」
息が荒い姉さんは、そのまま椅子にへたりこむ。
それから静かに、疲れ切った目で俺とアンナを見つめた。
しばらくの沈黙の後、諦めたように彼女は力無く呟いた。
「……今日の所は、泊めても良いから」
了承を得た俺とアンナは、立ち上がり部屋へと戻る。
リビングから出る前に、俺は姉さんへと振り返って優しい声色で言う。
「夜ご飯作ってあるから。温めて食べて、姉さん」
その言葉に。
姉さんからの返事はなかった。
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「……悪いなアンナ、変な空気になっちゃって」
「貴方も相変わらず罪な男ね」
「勘弁してくれ」
相手は実の姉なんだぞ。
言い方がもうちょっとあるだろう。
「実際、あの人かなり重症よ。貴方に依存してる。それこそ、貴方だけが生きる理由の全てって顔をしてた。……その感覚が理解できる私も、まぁ、軽症なんでしょうけど」
……誰かが、生きる理由か。
昔は俺もそうだった。けど、今の俺が生きる理由は自分を救う為だ。
きっと、それは。
他者よりも自己が大切に思えるようになったからだと思う。
「これからどうしよう……。対異空高校には多分、天義組が推薦してくれるだろうけど働きが悪かったらクビになるよな。となると一先ずは天義組から追い出されないのと、しっかり対異空高校に入学できるよう頑張るのが目標か……」
色々と計画を立てながら、これからのことを考える。
一先ず対異空高校に入学する。これは決めていた目標だから、絶対だ。
天義組……上手くやっていけるだろうか。
「あ、そうよ颯真、ちょっとパソコン貸しなさい」
俺が考え込んでいると、アンナがポンと手を叩いて俺に思い付きを提案してきた。
「パソコン?」
「ええ。とにかく今は情報収集が必要だもの」
「……じゃあこっちを貸すよ」
そう言いつつ、俺はノートパソコンを彼女の両手の上に乗せ、自分は椅子に座って別のノーパソを起動させた。
ノーパソを受け取ったアンナは俺が座るのを見ると、立ったままキョロキョロし、それからベッドに視線を向けると、そのままボスッと座り込んだ。
ついでに俺の枕を挟んで壁に寄りかかる。
「……あ、そういえば寝床はどうすれば」
「一緒に寝れば良いじゃない」
「駄目に決まってるだろ!? 今日の所は椅子で寝るよ」
「あら、そう」
少し残念がったような様子を見せながら、アンナが小さく微笑んだ。
もしかして俺に彼女がいる事を忘れているのではないだろうか。
それとも関係ないと思っているのか。
「明日はどうするのかしら」
「学校行ってから、天義組に顔を出す予定だな。契約面についても色々確認しないとだし」
そう言って、俺はパソコンへと視線を戻そうとして、気が付いたように顔を上げた。
「……ついてくる気か?」
「そうよ?」
彼女は当然だろう、と言わんばかりの顔だった。
お知らせがあります。
ここ最近、あまりこの作品の執筆を進められていないこともあり、別の作品を書く事にしました。内容は多分現代ファンタジーのチーレム系です。良くあるやつです。
あちらの作品が売れれば、またこちらの作品を再開する目処も立つと思います。もちろん更新は毎月しますが、本格的な毎日連載の再開は未定になったことをお詫び申し上げます。
ご報告致しますので、是非新たな作品も読みに来ていただけると幸いです。




