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68話 地上の使徒

勝手に次の投稿日は二十日くらいだからまだ余裕があるな、とか思ってました。

十四日でしたね……。遅れてしまって、申し訳ありません。


そのため、お詫びというか自分への罰と言いますか、皆様に朗報があります。


次の投稿は五月が始まる前にします。四月三十日が目安です。

月二話投稿目指します。


ですので応援してくださると幸いです。


「大丈夫かしら、マスター?」

 

 ……アンナがいる。

 俺の部屋に、アンナがいる。


 地上に、俺の使徒がいる……??


「なっ、な、なっ」

「驚くのも分かるけど、落ちきなさい」

「い、いやいやいやいや!」


 全力で首を横にふる。

 この状況で落ち着いていられる人間が、一体どれほどいるのだろうか。


「な、なんで地上に……!」

「王印を宿したのよ? 種族としては高位人間ハイヒューマンになってるから、もう扱いとしては使徒じゃなくて人間なの」


 理解はできないが、納得はする。

 だが、もう一つ無視できない光景が目の前にあった。


「じゃあ、君を囲ってるその膜みたいなのは?」

「異空空間よ」

「は?」

「王印の影響ね。狭い範囲ならある程度自由に地上を異空空間に変えられるみたい。仕組みは異空災害の異空主と同じよ」

「……説明を聞いても分からないぞ」


 つまり、どう言うことだ?

 確かに地上にも異空が存在できる例外はある。それが、異空災害だ。


「異空災害は異空主を倒せば収束するわよね? それは異空主が異空範囲を広げているからなのよ。地上を異空間に変えられる能力を得たと考えて構わないわ」


 初耳だ。


 ただ、流石に誰かしらが気づくだろうし、他の王印使徒も同じことができると仮定したら、日本は既にこの情報を得ているだろう。


 俺たち下っ端の使役師に情報を公開していないだけかもしれない。


「マジか……」

「で、マスター。悩み事、あるのでしょう?」

「あるけど……全部吹き飛んだよ」


 主に悩み事の原因はアンナだし。


「悪いけどマスター、私基本は地上にいさせてもらうわ。貴方のボディーガードを務めなくちゃならないもの。王印の使徒を所有しているせいで、貴方これから見張られるわよ」

「……まだ気付かれてないはずだろ?」


 そもそもアンナをボディーガードとして出すと言うのは、地上に出ている自分の使徒が王印持ちだと公言しているようなものだ。


「普通の人にはそうね。けれど、スピネル教にはもう気付かれてるわ。というかスピネル様が知っていない筈ないもの」

「なんでそんな事が分かるんだ……?」

「王になった時、流れ込んできたわ。基本的な知識全般が」

「……だからそういう情報は早く言ってくれ」


 俺はその言葉に黙るしかない。

 真偽は確認できないが、俺は彼女が嘘を吐くとは思っていない。


「それと、一応軽くだけど変装する能力を身につけたわ。王印を見えなくする能力の応用ね。……どうかしら?」


 そう言ってアンナは自然と魔法を使う。


 彼女が魔法を唱えた時はビクッと驚いたが、考えてみれば彼女は今異空内部にいる状態だ。使えて当然と言っていい。


 変装をしたという彼女は、髪色が黒になっていた。

 加えて、雰囲気も人間らしくなっていた。


 服さえ整えれば、街先で歩いていても使徒とは気付かれないだろう。


「……凄いな」

「これなら私が地上で過ごしていても構わないでしょう?」

「アンナは地上で過ごしたいだけじゃないのか?」

「違うわ。マスターと、過ごしたいのよ」


 っ……。

 責めるつもりだったのに、言葉を失った。


「……とりあえず、そのマスターって呼び方は禁止にしよう」

「そうね。……颯真。どうかしら?」


 そう言って、アンナは蠱惑的に微笑む。


 その様子にどうしようもなく、ドキッとしてしまう自分に気づきながら、俺はバレないように平静を装う。

 

「これで疑問は片付いたかしら?」

「ああ。……いや、待て。姉さんもいるし……何より学校とかには付いて来れないだろ」

「あら……そういえば、そういうのもあるのね」


 見切り発車すぎる。


「あ〜、そうだ。俺、姉さんにどう説明すれば……」


 どう反応されるだろう。全く予想がつかない。

 これから訪れる厄介ごとの数々を想像して、俺は小さくため息を吐いた。



||



「ただいま〜」


 玄関がガチャリと閉じ、荷物がドサッと玄関先に置かれる音がリビングに響く。


 俺は一息吸って覚悟を決め、アンナの手を取って姉さんの元へと向かった。


「おかえり姉さん」

「ただいま、颯……真?」


 姉さんが大きく目を見開く。


 その顔にくっきりと困惑の色が宿って、彼女は何か言おうとするものの、あまりの驚きに声を失っている様子だった。


「だ、だだだ誰このどちゃくそ美人さん!?」

「お、落ち着いて姉さん」


 口調が荒げてるぞ。

 後右往左往しすぎだ。


「颯真が彼女連れて来た……!??」

「ちが……」

「ええ私が颯真の彼女よ、お姉様」

「嘘を教えるな」


 アンナってこんな冗談も言えたのか……。

 いや、ここにきて遠慮がなくなったせいかもしれない。


「よ、宜しくね。颯真のお姉さんの相沢 飛鳥です」

「アンナです」


 ニコッと笑うアンナの所作はとても礼儀正しい。

 俺たちは揃って一先ず居間の椅子に座って会話をする。


 その際もアンナはずっと俺の手を握って離さない。これからの説得に必要な行為だとはいえ、俺は罪悪感を覚えた。


「アンナちゃんは飲み物何が良い?」


 姉さんは飲み物を取ろうとするが、俺は脳内で組み立てたシミュレーションを忘れたくないため、すぐに本題に取り掛かるべく呼び止める。


「待って、姉さん。それより話があるんだ」

「じゃあ喉乾くでしょ? 颯真は何が良い? アンナちゃんも遠慮しないでね」

「ありがとうございます、お姉様。私はお水でお願いするわ」

「は〜い」


 ……。

 俺は諦め、自分でコップに水を注ぐ。


 そうして三人の前にそれぞれ飲み物が置かれた時、姉さんが俺を見て聞いた。


「で、どんな話があるの〜? 颯真」


 少しニヤニヤした顔で俺に聞いてくる姉さん。

 恐らく彼女の想像とはそう遠くない話になりそうで、俺は少しうんざりした。


「姉さん」

「なぁに?」


 覚悟を決める。

 机の下でアンナが俺の手を握る力が強くなる。


 俺は真剣な目つきで、言い放った。


「アンナを……うちで預かりたいんだ」





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