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67話 使徒の王

何とか一ヶ月がすぎる前に投稿できました。

これからも定期更新していきます。

「ぇ……?」


 言葉が、思考が固まる。

 

「すみません、マスター」


 そう切り出すアンナに、俺は言葉が出てこない。

 全員の視線が彼女に集まる中、アンナはゆっくりと切り出した。


「私は、諦めが悪いんですよ」

「待ってくれ……分かってるだろ? 俺じゃお前を守りきれない。無茶な事言わずにーー」

「もう、戻れませんよ。使徒の王になってしまいましたから」


 ……っ。

 俺の立場じゃ、アンナの聖遺書を盗まれたら終わりだ。


 最近所属した天義組にだって、バレたら最悪強奪されても訴えは拒否されるだろう。むしろ国から、国防の為に喜んで寄付してくれと言われかねない。


 良くても、買取だろう。

 俺のものだと所有を主張する権利など与えられようはずも無い。



 例えるなら、これは核だ。

 一個人が所有するには強大すぎる力で、何よりその力は俺じゃなくてアンナ自体にある。


 核を作った人じゃなくて、核に力があるのだ。


「……颯真様。一先ず、説明をお願いします」


 そうだ。

 リリィ達は、アンナが王印を宿していることをまだ把握していないんだった。


 俺が話を始めたから、付いていけてないんだろう。


「ああその……見ての通りだ。あの準決勝でアンナに王印が宿ったんだけど……、一過性のものじゃなかったらしい」

「準決勝の結果は?」

「王印がバレる訳にはいかなかったからな。……負けたよ」

「そう、ですか」


 分かりやすく落ち込むリリィに、俺は話を切り替えるように話す。


「それ自体はもう良いんだ。一応、組織からのスカウトは貰ったし、何なら明日行く予定だから」

「……そうなのか。良かったな」

「ええ、本当ね」


 メイとアンナが祝福の言葉をくれる。

 この場にいる全員には初情報だったからか、多少の驚きが見られた。

 リリィも、ほっとしたような顔をしている。


「でも、これ……どうするの、マスター?」


 静かな空気の中、フェリスがとうとう切り出す。


 視線がアンナに集まった。


「どうするも何も……人に知られたら、俺の手元には残らないだろうな」


 王……もとい、二十等級の使徒が一体いるだけで、他国への牽制にもなるし、実際、戦争になれば切り札として使われるだろう。


「颯真様は、アンナを手放したく無いんですよね?」

 

 リリィが俺の内心を見透かしたように言ってくる。

 その言葉は酷く正確で、思わず俺は口をつぐむ。


「あら、嬉しいわ」


 俺の半ば肯定とも取れる態度に、アンナが揶揄うように言う。

 その顔を見て、俺はより一層、国への義務感と彼女への罪悪感の間で揺れた。


「アンナは……どうなんだ?」

「私は、当然貴方の下にいたいわ」


 当然と言わんばかりに、彼女はそう言った。

 揺るぎなくも、感じられる深い愛情に、嬉しさと同時に、迷いが込み上げる。


「っ……だが……」

「隠しておけば良いじゃない。見なさいマスター。ほら、この王印、消す事もできるのよ?」


 彼女が自分の王印の瞳に指を刺した瞬間、彼女の瞳は普通のものに戻っていた。

 その刹那、再び王印の花模様が彼女の瞳に宿ったので、自由にオンオフできるらしい。


「なっ、……そんなこと出来るのか!?」


 俺は思わず突っ込んだ。


 なんせ二十年前の小鳥遊 翔が使役していた王印使徒には、そんな特徴はなかった。

 いや、単に公表されていなかっただけかもしれない。


「で、マスターはどうするのかしら?」

「それは……」


 揶揄うように聞いてくるアンナに、俺は言い淀む。

 それは間違いなく、自分の中で迷いがあるせいだった。

 

 報告した方がいい。その方が良いのは、分かっているのに。


「ねえ、マスター。私は、約束できるわ。例え人類を滅ぼしてでも、私は貴方をモノにしたい。だから、この力の限り、私が貴方を守ってあげる」

「っ……」

「大丈夫。誰にも手出しはさせないわ。だから、貴方は何も心配しなくて良い」


 俺は息を呑んだ。

 彼女が一歩、二歩と足を前に出すと、そのまま俺の頬を手で包み込んだからだ。


「貴方は私のものよ、マスター」


 

||


 とても異空探索の気分ではなかったので、そのまま探索を引き上げた俺は使役師組合を出て家に向かっていた。


 アンナに情が移ってしまっているのは間違いなく事実だ。


 ……しかも、彼女は俺に恋情がある。


 今、彼女は何だ?

 王印の使徒か?

 人間か?


 それとも、自分を愛してくれる女の子か?


「……どうする?」


 自分に問いかけてみる。

 彼女の手を取ると言うことは、美香と別れることと同義だ。


 俺は彼女のモノになって、きっと愛し合うだろう。


 きっと、多分、俺はその愛に応えられる。


 だって彼女は……今、二十等級になった『人間』の使徒で、俺はしっかりと彼女に引かれてしまっている。


 でも、二人同時に好きではいられない。


 誠実でいるために。俺が俺であるために。

 どちらかを、選ばなければいけない。


 美香か、アンナか。



 アンナを選べば、彼女は俺を最強の使役師にしてくれるだろう。

 上手くいけば、王印の使徒であるとバレる事もなく、その力を振る舞える。


 


 美香を選べば、アンナは売られる。


 どうなるかは分からないが、政府から莫大なお金が入るかもしれない。だが、それだけだ。多分その場合、俺はもう使役師をやれない。


 彼女を売ってしまったら自分の使役師としてのやり方、使徒の扱い方への信念が揺らぐ。何より続けられる自信がない。


 

 俺は……。


 正直、きっとアンナの方に傾いている。


 美香と付き合ったきっかけは何だったか。

 どうして、好きだと思ったのか。


 頭がごちゃごちゃしていて、不透明だ。


 

 すぐに決めなければならない訳じゃない。

 

 一旦、考えよう。


 考えて……。


 答えを出そう。







 俺は昼頃、結局異空探索をせずに家に帰った。


 リビングに入り、荷物を置いて、ため息を吐く。


 それから力なくへたり込んだ。


「はぁ……」


 心を襲うのは焦りだ。


 焦燥感というべきか、ある日家に警察が来て王印使徒の所持がバレたらどうしよう、という不安だ。

 


 姉さんはもう家を出ているし、シャワーでも浴びてスッキリしたい。


 とにかく、何か行動していないと気が狂いそうだ。

 突然降って湧いた強大な力が、自分の思考を歪ませていく。



 きっとその気になれば、どんなことでも出来る。

 王印というのは、即ち、それほどの武力なのだ。


「ーーあら、疲れてるみたいだけど。大丈夫かしら、マスター?」


 へたり込んでいた俺は、突然頭上から聞こえた声に顔を上げる。


 その視界に移っていたのはーー。



 王印を瞳に宿したアンナだった。

 





ようやく主人公最強系のタグが詐欺じゃなくなってきたかな……?

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