66話 閉幕
これにて第四章 選定式編が堂々完結です!
それに伴い、毎日投稿を暫く休載させていただきます。
一週間〜一ヶ月に一度ほどのペースでゆっくり投稿し、話のストックが溜まり次第また毎日投稿を再開する予定ですので気長にお待ちください。
第三十二回大阪選定式の優勝者に選ばれたのは小鳥遊 結奈となった。決勝の相手は河合 渚を下した男子だったが、話にならないほど実力差があってあっさり勝負がついた。
彼女は無事大阪の選定者となり、『藍玉の指揮者』の称号を受け取った。
アクアマリンの等位を賜った彼女は、以降異空災害などで積極的に活躍する機会が与えられるだろう。
その優勝セレモニーの様子を控え室で見守りながら、俺はどこか空虚な気分でもあった。
恐らく俺の戦績では京都対異空からのスカウトは来ない。
他の対異空校から声がかかれば間違いなく行くつもりだが、夢への最短距離から遠のいたのは間違いない。
「あら……貴方は、相沢君でしたね」
控え室を出て、俺は帰ってきた小鳥遊 結奈と遭遇した。
少し億劫な気分から、目を逸らして逃げたくなる。
だがそれはダサい。俺は小さなプライドから、堂々と目を合わせて返した。
「ああ。優勝おめでとう」
「……ありがとうございます」
話はそれだけだろうか。
そう思った次の瞬間、彼女は再び口を開いた。
「貴方との戦いが一番楽しかったですよ。それに戦闘中……いえ、やっぱりこれは気のせいですね。忘れてください」
何か言いかけようとして、彼女は口を継ぐんだ。
俺は内心で『王印』の事かとヒヤヒヤしていたが、違うようでそれ以上の追求はなかった。
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家に戻った俺は荷物の中から携帯を取り出し、メッセージアプリに溜まった通知の量を見て少しゲンナリした。
テレビ放送はそれなりに盛り上がったらしい。
クラスメイト達からチャットがひっきりなしに送られてきていた。
「疲れたな……」
負けたのもそうだが、一番の心労はアンナが『王印』を宿しそうになった点だ。
王印。
使徒の王であり、二十等級の使徒のみが瞳に宿す刻印。
現在存在が確認されているのは世界でたった、八体。
日本では英雄、小鳥遊 翔の使徒が宿して以来二十年間ーー王印の使徒は現れていない。
なので試合終了後すぐにリプレイ映像を見返したのだが、カメラからは王印が写っていなかった。
多分リリィも気づいていなかったので、どういう訳か認識できたのはマスターである俺だけだったのだろう。
もしアンナが二十等級の使徒になっていたら。
今頃俺は世界から指名手配され、アンナを奪われていただろう。
一国の戦況を大きく変えるほどの、莫大な力。
それが『王印』だ。
俺のような使役師に扱える存在ではない。
何せ。
かつては、二十等級の使徒の暴走により、『異空災害』が起きて国が一つ滅ぶという事件があったほどなのだから。
どこか、悲しんでいる自分と。
ほっとしている自分がいた。
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夜になり、俺は姉さんと共に食事を食べていた。
ずっと無言で、お互い何も言わない。
恐らく彼女の事だから、今日俺が負けたことは知っているのだろう。
「颯真」
食事の最後の一口を食べ終わったところで、ようやく姉さんは俺と目を合わせて重く切り出した。
「……何? 姉さん」
どう答えたら良いのか分からず、俺は食事を止め姉さんと目を合わせる。
少し緊迫した雰囲気の中、俺は次の言葉を待った。
「お疲れ様」
「……え? あ、うん。……そうだね、疲れたよ」
投げられたのは労いの言葉だった。
俺は小さく頷く。
「ねえ、颯真。この先どうするの? あの成績なら多分、あんまり高望みしなかったら対異空校にも行けるでしょ? どこに行く気なの?」
「俺はーー」
言おうとして、詰まる。
本当は京都対異空高校に行きたいと思っていた。日本で一番と呼ばれる対異空校に。
でも多分そこから声はかからない。
俺は鞄を漁って、とある名刺を取り出す。
「試合の後、天義組の人がスカウトしてくれたよ。姉さんも所属してたところ。一先ず所属して結果を残すか、学校側の推薦枠に引っ掛かれば、コネクションのある大阪の対異空校への入学費を負担してくれるって。俺が今回大会で残した実績があったら、入学試験での足切りは食らわないだろうし」
「っ……」
「それに大阪の対異空校なら、もしかしたら、援助は受けられなくても自己負担で通えると思う。だから姉さんは心配しなくても……」
そこまで喋って、姉さんの顔が曇ってる事に気づいた。
俺は思わず言葉を止めてしまう。
「ーー私の所為?」
「え……」
小さく言い放った彼女に、俺は言葉が漏れる。
「……本当は何となく分かってた。颯真が私の所為で、使役師を始めたの。最近全然食費も減ってなかったし、新しく買うものも言わなかったから。でも颯真に甘えてた……!」
「違う!」
暴走しかけた彼女を、俺は言葉で止める。
「姉さんは、俺のこと分かってない。俺はさ、自分の為に使役師になったんだよ。姉さんに反対されるのを分かってたのに、姉さんの負担になっている自分が悔しくて……! 全部全部、俺の我儘だよ」
「……違う。私は」
涙声で何か言おうとした彼女を、俺は抱きしめながら叫ぶ。
「違わない......!俺は姉さんを愛してるよ。姉さんはずっと俺を助けてくれただろ」
「颯真……。ごめんね」
ゆっくりと、彼女は俺を抱きしめた。
そんな彼女を支えるように、俺も姉さんを強く抱き止める。
人肌の温もりが、心を僅かに暖かくするのを。
俺はその時、確かに感じられた。
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翌日。
俺はリリィ達に新たな目標を話す為、異空に来ていた。
来週から天義組に所属する事になり、異空探索の方針もガラリと変わりそうなのでその報告も兼ねてだ。
俺は自分の相棒達を呼び出す。
フェリス、メイ、シャナ、リリィ、アンナ。
全員が揃い踏みに並んで、俺は彼女達を見渡した。
さて、どう声をかければ良いのか。
勝てなかったことを悔めばいいのか、お疲れ様と労うべきなのか。
そうこう考えて、とりあえず挨拶をしようと声を出そうとした時。
声が、驚きの余り掠れた。
「ぇ……?」
何故なら、アンナの両目に。
燦々と輝く、消えたと思っていた筈の王印の模様が全く変わらぬ姿で宿されていたからだ。
感想、誤字報告などがあればとても助かります。
また、ブクマ高評価の数が増えれば増えるほど投稿再開までの期間が短くなりますので、是非よろしくお願いします。
追記:次の投稿は3月15日です。




