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63話 天才


「リリィ」


 後手に回っていた状況から打開した事で、今度はこちらから仕掛ける事にする。

 

 恐らく、まともに崩そうとしても無駄だ。

 単なる攻撃技じゃ、埒は開かない。だからこそーー変化球を投げる。


『「ーー感電(パラライズ)!」』


 思えば。

 最初から随分とお世話になってきた気がする。


 俺とリリィの、思い出の技。


 それを水精霊(ウィンディーネ)にぶつける。相手が水の精霊だからか、しっかりと効いてくれたそれによって隙が生じる。


「フェリス……!!」


 フェリスが髪飾りを投げた。

 恐らく普通に消えるだけじゃ、見破られる。


 だからこそ、相手の視線を奪う。


 放物線を描いて投げられたそれは、観客含め全ての視線を奪う。


 そしてそれが落下した時には。


 いつの間にかフェリスは朱雀の懐にまで飛び込んでいた。

 

「……!?」


 だが、無防備な朱雀の羽毛を血色に染める筈だった彼女の鉤爪は、何かにしっかりと防がれている。


 観客も。

 朱雀も、水精霊も、しっかりと彼女の髪飾りに視線を奪われていた筈だ。



 なのにーー。

 大天使と小鳥遊 結奈だけが、その瞳を動かし、彼女を横目に捉えていた。



 嘘だ。

 フェリスは瞬間的にそう思う。


 仮に攻撃を読めていたとしても、事前に動いていないと私の速度には間に合わない。


 けれど普通なら感電で確実に仕留められそうな水精霊を狙うと考える筈だ。裏をかいて朱雀を先に仕留めるという考えまで回るはずが無い。


 それこそ予知能力でもない限り、防がれることなんてーーいや。


 違う。全て読まれていたのだ(・・・・・・・・・・)

 その上で自分の予測を信じ切った。


 だから、防がれている。

 気づいた瞬間、フェリスは背筋が凍るような感覚を覚えた。


「続けろ、フェリス!」


 しかし己のマスターの声と共に、即座に我を取り戻す。


 その頼もしさと共に、彼女は再び朱雀へと襲いかかる。その俊敏さを生かし、一撃でも傷を負わせてから離脱すると決めて。


 二撃目と三撃目の攻撃は伏せがれる。しかし、四撃目の攻撃が朱雀の腿を切り裂く。そしてアークエンジェルがその杖を振るうのを目視し、すぐに離れる。


 がーー杖を振るった先から風が巻き起こり、離脱に向かっていたフェリスを吹き飛ばす。


「ぐっ」


 どうにか吹き飛ぶフェリスを受け止めたリリィが、呻き声を上げる。

 フェリスもどうにか立ち上がりながら、同時に恐ろしさを感じる。


 大天使アークエンジェル。アイツだけはーー別格だ。


「今のは良い攻撃でした……さて次は何を見せてくれーー?」


 小鳥遊の言葉が途切れる。  


 俺の攻撃は終わってない。

 そう言わんばかりに、俺は小さく口角を上げたからだ。


 フェリスが時間を稼いでくれた。

 どのみち、相手を倒し切れるほどの火力はこれしかない。



 だから、今。

 この呪文に全てをかける。


『「ーーけれど信念を持つ貴方の、その何と愛らしいことか」』


 スピネル第六の福音……強化の呪文を唱え終わる。

 全てを乗せた一撃が。


 アンナから放たれた。


「『氷剣!!』」


 決め手は一つしかない。

 だからこそ、確実に仕留めさせる策が必要で。


 その為に、盤石を固めてきた。


「行け……!」


 氷の剣が大量に錬成されていく。

 宙に浮かぶそれが、百本にも達するかという時。


 ……剣の切っ先全てが、小鳥遊に向いた。


「ーー防ぎなさい」


 それでも尚、凛とした彼女の声が辺りに響く。


 命令に答えるのは、彼女の最高戦力であり、化け物ーーアークエンジェル。

 中性的な人の姿をしながら、天使の輪が頭に浮かんでいる。


 ソイツが、翼を広げた瞬間。


 無造作に羽が辺りに舞う。



 そして。

 氷剣と羽が交わって。


ーー火花が散った。


 最早何が起こったのか、観客は何一つ理解できない。

 それほどに瞬時の事で。


 後に残ったのは、ボロボロになった水精霊と、多少剣が突き刺されども致命傷はなさそうな朱雀。


 そして肩に一本貰いながらも、無事な上級天使とーー全くの無傷である小鳥遊 結奈。


「耐え……!? 化け物か……?」


 

 全力の攻撃だった筈だ。

 かつてはあの十二等級である氷精霊をも瞬殺して見せたあの攻撃の九割が。

 

 ……防がれた。


 いや、違う。


ーーこのタイミングで切り札を使う事を、読まれていた。


 あのアークエンジェルの防御は、明らかに大業だ。事前に準備していない限りは、短時間で発動できるはずがない。

 

「相沢君、ーー貴方最高ですね」

「嬉しくねぇよ、狂人!」


 あれは天才には値しない。

 頼っているのは、センスでも奇想天外の発想でもなく。


 積み上げてきた努力に対する確実な信頼と、度胸の強さだ。

 それほどの物を積み上げられる事を。狂気以外の、何と表現すれば良い?


「舞台は整いました。反撃と行きましょう……!」


 敵の宣告に舌打ちし、すぐに防御に入る。

 相手は単に攻めてくるだけでも強いのに、間違いなく手札を隠しているのだろう。


 俺なんかに使わずに、本選考で使う為の手札を。


ーーその驕りを利用して、決め切る算段だった


 なのに……失敗した。


「朱雀。先ずはあの猫をーー狩りなさい」


 瞬間、朱雀が空を舞い飛ぶ。

 そして炎を吐いてくる。


「っ、アンナ……!」

『「水竜!」』


 高熱と水が混ざって、蒸発した煙が辺りに撒かれる。


 良し!

 こちらは水魔法で対処し、煙で一旦時間を稼げる。

 

 相手の失策だ。

 猶予が出来……小鳥遊が、あの小鳥遊が(・・・・・・)ーー失策?


 そんな訳ない。

 でも、こちらが水魔法で対処するとは限らない。


 いやーーこの油断と迷いさえ……読み切られていた?


「来るぞーー!!」 

 

 叫ぶ。


 瞬間、強烈な風が吹き荒れ、煙が直ちにこちらに向く。煙を操った敵から、アンナの近くに向かう何かの影が見えた。


ーーキィィン


 フェリスが攻撃を切り落とす。


 リリィがこちらに溜まった煙を上空に飛ばし、視界が晴れた後に、フェリスが切り落としたのが水精霊の水弾だったと濡れた鉤爪を見て気づく。


 

「っ……!」


 水の弾丸を宙に浮かべた水精霊とフェリスが打ち合う。


 フェリスは距離を詰めながら接近し、全ての弾丸を撃ち落として爪を振るうが、交わされる。


 捉えどころが無い……!


「アンナ、撃ち落とせ……!」


 そう言いつつ、俺はアンナに朱雀の相手を任せる。

 空を飛び遠距離攻撃を飛ばす朱雀と、地上で敵の攻撃を伏せながら狙撃を狙うアンナ。


 消耗が激しいのは、明らかに後者の方だった。


「くそ……」


 頭が上手く回らない。

 打開策を考え続けている。さっきからずっと走りっぱなしで、体力の消耗も激しい。


『「氷矢」』


 されど、アンナの攻撃が朱雀に向けて飛ぶ。

 サンダーバードの件以来、彼女が鳥を撃ち落とすのに失敗した所は見てない。


 直撃と共に、朱雀の痛苦に呻く声が響いた。


ーーキィイイイ!


「やった……!」


 アンナが喜ぼうとした所で、アークエンジェルの攻撃が向かってくる。


「ーー危ない!」


 リリィが素早く察知して彼女を守りに行くと、そのまま羽矢を向かい撃った。


 そしてナイフの切先と羽が衝突しーー爆発が巻き起こる。

 後に残ったのは腕に火傷を負ったリリィだ。


「ぐっ……」

「無事か!?」

 

 俺は倒れる彼女を素早く抱き抱える。

 彼女はボロボロだ。


 辺りを見る。

 水精霊と戦っているフェリスも押され気味で、全身傷だらけだ。


 マスターの側を離れない大天使アークエンジェルのせいで、隙もない。


「……っ、ーーまだだ!」


 このまま負ける訳にはいかないのだ。

 腕の中に抱いたリリィの体重を自分に預け、俺は力強く口火を切った。


「吸え、リリィ! まだ、勝負は終わってないーー!」


 瞬間、リリィの目の色が変わる。


 紅く輝くその目が俺と交錯し、そして艶かしくも、彼女はゆっくりと首筋に歯を立てた。




面白ければ、是非ブクマ高評価よろしくお願いします。

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