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47話 県別 トーナメント戦 開始



 全部全部間違っていた。


 俺が生まれた事自体が、強烈な間違いだった。




||



「さあ次の四試合を発表致します!」


 木崎 薫 VS 相沢颯太


 四回目となる抽選でようやく自分の名前が呼ばれた。


 スタッフに指示され、会場に入るよう指示される。


 そして入り口で再び、河合と邂逅した。


「どう? 元気にしてた?」


 意外にも、彼女に話しかけられた。

 てっきり無視されるものかと思っていたのだから、予想外で一瞬戸惑う。


「まあ……」

「……せっかく別ブロックに入れたんだから、決勝で会おうよ。アタシ、実はまだ切り札を一個取っておいてあるんだから」


 こちらを気遣うような言葉であり、励ましでもある。

 その優しさがありがたかった。


「そうだね。……決勝で会おう」

「待ってるよ? お兄さん」


 俺は彼女を置いて先に会場へと入場していく。


 あの時のあの状況はとても異質で、他人から見れば気持ち悪いと言われるくらいのものだった。


 でも。

 彼女は優しく気を遣ってくれた。


 そういう人間性の高さが彼女の魅力なのだろう。



 気付かぬうちに、硬くなっていた表情が和らいでいた。


 落ち着いた顔で、会場に登場する。



 会場のざわついた声、注目する視線、迫力と威圧。


 しかし、その雰囲気に呑まれることはない。

 萎縮も緊張もすることなく、俺は堂々とスタジアムに立つ。



 長さ五十メートルの正方形で、黒土と砂の層で出来たフィールド、その真ん中に敷かれた線の近くに立つ。


 そして相手の木崎 薫という少年と向かい合った。


 猫背で眼鏡の彼は硬い表情で少し怯えた目をしながらやや下方向を見ていて、その少し長く伸びた前髪のせいで目が合わない。無理に呼吸を整えて落ち着こうとしているのか、逆に不規則な呼吸にすらなっていた。


「木崎君だっけ」

「……え、何……?」

「息、一回吸って吐いてみてよ」

「……うん」

「大丈夫。他に三試合も行われてるんだから、そっちに目が行ってる人も多いだろうしさ。俺もめっちゃ緊張してるし」

「……緊張してるようには見えないけど」

「そんなこと無いよ。……息、落ち着いた?」


 会話をしているうちに、自然と彼は自主的に息を整えようとする事から意識が遠のいて自然と息は整っていた。


「うん、……ありがとう」


 もう顔が俯くこともなく、目が合ったまま彼は少し柔らかい表情で感謝を口に出した。


 しかし無表情が崩れたと気づいた瞬間、直ぐに柔らかい表情が顔から消えて、彼はスタート時点へと向かっていった。


 彼の緊張の理由が良く共感出来て、かつて自分も持っていた不安や自信の欠如に懐かしさを感じながら俺もフィールドの端へと移動する。


 ……自分の表情を見せるのは怖いよな。


 そう懐かしみながら、俺は開始の合図を聞きながら聖遺書を手元に用意したのだった。




||



「どうです? 八代さん」

「今の所欲しい選手はいないな」

「やはり夜廻組は基準が高いですか。私は既に二人はピックアップしていますよ」


 スカウトマンらが集まり会話を交わしている。

 同じスカウトマンである永瀬に話しかけられ、八代はそっけなく返した。


 だが永瀬は力強く言い切って見せる。


「誰だ?」

「この二人ですね」

「あ、その人僕も注目してます。……被りましたね」


 村上という男性の呟きに、彼らは目を見合わせる。

 

「……うわ、マジですか」


 永瀬がショックを受けている間、八代が興味なくぼやいた。


「試合は見なくて良いのか?」

「興味ない感じですか? まあ夜廻組が管轄する高校は、あの天下の京都対異空高校を含んでいますしね。羨ましい限りですよ」

「天義組がパイプを繋げてる所も、レベルとしては悪くないだろうに」

「まあ遠征してきた二人と違って、天義組(ぼく)は地元の大阪対異空高校への推薦が出来ますから。若干有利なのはありがたい事ですよ」


 雑談を交わしながら、スカウトマンらは目を光らせる。

 誰を候補から外し、誰を候補に入れ、誰を保留させるのか。


 彼らは物色する側だ。

 並べられた商品を買うかどうか、選択する側なのだ。


 商品が行った努力も流した汗や血すら関係ない。

 その商品の価値が全てだ。


 だからこそ、彼らは慎重に選ぶ必要がある。価値があり、引き入れる事ができる商品を。


「次は……ああ、話していた彼が出ますよ。相沢君が」

「……彼もかなりいい物件ではありますが、かなり高く着きそうですね」

「彼は佐之組としても欲しい人材ですよ。ただ、私はあまり良い対異空校への推薦を持っていませんからね」


 二人が互いを牽制するように睨み合う。


 そこで、八代が気付いたように呟いた。


「何を話しかけているんだ、彼は?」

「さあ? 緊張をほぐして上げてるようですけど」


 疑問に満ちた声色でいう。

 実際、相手に塩を送るような行為だ。


「ふむ。そこまでの余裕があるのか。コミュニケーション能力も悪くないな」

「……狙わないでくださいよ? 僕が先に目をつけていたので」

「取り合う気はない。ただ……小鳥遊が来なかった場合の保険も考えなければならないからな」

「……平和に行きたい所ですね」

 

 小鳥遊結奈。

 

 勿論、ほぼ全ての組織から声を掛けられるであろう彼女。契約出来るとは思い難いがそれでも彼女の情報を集めておくのは、今後敵になる可能性が高い事からも損は無い。


 三人は再び試合に目を戻し、一つ一つ目の前のことに集中しようと考えたのだった。


『ピーーー』


 開始の笛が鳴らされた。


 話していた三人のスカウトマンらが会場を見下ろす。


 既に多くの選手は己の使徒らを出していて、それを確認した彼らは素早くパソコンのメモ帳を開き、情報を入力していく。


「相沢君は……ヴァンパイアノーブル、九尾、水光姫の三体か。等級だと十一、十、十……ふむ情報的にはもう一体ほど十一等級の主力がいることは明らかだが、 ……そちらは切り札という事だろうか」

「まあ恐らくそうでしょうね」

「相手の木崎君は……ふむ。スピリガン、オーグリスにゴブリンロードか。等級は……十、九、九。少し劣る程度だが……全員近接戦闘向きの使徒だな」



 妖精で体の大きさを自由に変えられるスプリガン、女巨人オーグリス、そしてゴブリンを率いる王のゴブリンロード。


 等級的には申し分ない。

 強さとしても各使徒らがランクの高さに見合わない強さ、といったこともない。



 彼らは固唾を飲んで、試合がどう転ぶのかを見守ったのだった。


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