46話 優勝候補
100pt達成記念で今日は二話投稿します!
意気込みにはそこそこの尺が使われたようだ。一人につき十数秒かかるかどうかといった意気込みがしばらく続き、ようやく終わった。
スマホの画面を見ると、既にトーナメント表が組まれているようで、自分の出番まであと十五分程度だと言うことを知る。
会場では意気揚々なアナウンサーと共に、既に四組八名の参加者が戦う用意をしている。また、他の参加者らも敵の情報を見逃さないようにと画面に釘付けであった。
……そうか、ここからはより慎重に手の内を明かしながら戦わないといけないのか。
そうなると二回戦以降の事も考えないといけなくなる。
色々と思案しながら、俺もまた他と同じように画面を見つめたのだった。
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「で、どうですかね八代さん」
十一月の肌寒い季節の中、冷たい空気に晒されながら観客席に座るニット帽の五十代ほど男性に、若い男性は声をかけた。
「君もスカウトの端くれなら、自分の目で確かめないか」
「それはそうですよ、村上さん」
三人並んで座る男達はスカウトだった。
全員が別の支部からのスカウトマンではあるのだが、お互いの仲は良好だ。
三大組織と呼ばれる、夜廻組、天義組、佐之組のスカウトが一同に揃っている。
本来であれば、派閥同士で誰もがバチバチに人材を取り合う中なのだが……。巨大組織の組員とはいえ、下っ端である彼らスカウトマンは、敵であろうが情報を共有する方が優先であるとの考えである。
特に長い年月、この仕事に携わってきた夜廻組の八代という男性は京都対異空高校に推薦できるパイプを持っており、残りの二人……村上という若い男と永瀬という中年の男は彼に意見を聞く事が多かった。
「データは受け取っているだろう?」
「まあ、もちろん貰ってはいますが、やはり数字だけでは見えない部分もありますし」
「ですね」
「数字は重要だよ。やはり大抵の場合は数字が物をいうからね。特に等級付けされている者を見極める我々のような人間は、しっかりと数字を見なければならない」
使役師らの基本的な強さの指標は、やはり所持している使徒の等級だ。
数字。
それは使徒の等級、勝ち抜いて来た数、勝率などを言う。
等級が高い使徒を所持していようと、予選の結果が良くなければ彼らは評価を下げる。
それは運よく勝ってきただけと言う可能性があるからだ。
「十、九、九。この人なんかどうですかね? 中々いい具合じゃないですか。お、しかも歴七ヶ月。掘り出し物では?」
「等級に文句はないが、使徒を見てみろ。十等級ではあるが、アピスだ。十等級としては価値も低いし強くはない」
「ええ、本当ですね」
「ほら。現に、その少年に勝ったのは九、九、八の彼だろう?」
「……なるほど」
スカウトマンらは雑談を交わす。
それでも、十五程度の少年少女らを値踏みする目が彼らには宿っていた。
「あ、八代さん。彼はどうです?」
「誰か見つけましたか? 相沢颯真……等級は十一、十一、十。使役師歴は五ヶ月半。……中々の逸材じゃないですか」
「ふむ。……悪くはないが、うちでは取らないな。最低でも全国本戦の実績を引っ提げないと無理だ」
「あー、彼、同じブロックに彼女がいますもんね。突破できる確率は低いですか……」
「ああ。夜廻組の本命だ」
参加者らを吟味しながらも、彼らの中には既に少なくとも一人、必ず声をかけると決めている選手がいた。
「小鳥遊 結奈。今年はあの小鳥遊 翔の三女が参加する年ですからね」
整った容姿の、あどけない少女。
若干、十五歳ではあるが、しかし彼女の持つ雰囲気が今でも彼らの目に焼き付いて離れない。
『すみません、何か一言だけでもお願いできますか?』
これまで選手に一言だけしか求めていなかったアナウンサーが、せめて一言だけでも欲しいと懇願するような目でいる。
今、この世界で時間を割いてでも見たいと思われているのは、彼女だけなのだ。
小鳥遊結奈はマイクを受け取ると、ゆっくりと話し始めた。
『ここにいる選手の皆様は、大変な苦労をなさった事でしょう。人とは違う事を始めた勇気と行動力を、どうぞ誇りに思ってください。
……ですが、はっきり申し上げましょう。貴方たちの目に映る世界の中で、どれだけ自己に自信を持とうが……優勝するのは私です。
ああ、違うと言いたいですよね? でも、私を否定したいなら、結果で自分を肯定してください。
今、私にしか言えない言葉を言いましょう。
世間から見れば貴方たちはまだ、井の中の蛙です。上に立てば、今までは考えられなかったほどの他者が、貴方を客観的に評価する事になるでしょう。その中で。自分の瞳の中からしか得られなかった自己評価が、自信が、才能が、一才揺らがなかったら。
ーーそれでようやく、私に辿り着けます』
誰もが彼女に釘付けになった。
それまで、誰かが一言言っていても携帯を弄ったり、隣の席と会話を交わしていたりした人間でさえもが。
彼女の言葉に耳を傾けていた。
オーラ。
そんな言葉じゃ表現しきれないほどの、存在感。
それほどまでに、彼女の纏う迫力はやはり、別格だった。
『さてーーこの中で現状、一番他者に評価されている人物が私である事に、皆さん文句はありませんよね? なので……貴方たちが自分こそが一番だと思うのなら、私を結果で否定してください。私は貴方たちの挑戦を否定しません。ただ、結果だけを突きつけてあげますよ。以上です。………では』
そう言って、傲慢不遜にも他の参加者全てに発破を掛けた彼女は壇上を降りる。
スカウトらのデータリストにはしっかりと、少女の使徒のランクが記載されていた。
『十三、十二、十二』
「これでも恐らく、奥の手を隠し持っているのでしょう? 逸材ですよ」
「ええ。小鳥遊さんのご子息全員が英才教育を受けているのでしょうね。だからこそ、全員がとてつもない」
十三等級の聖遺書など、普通の買おうとすれば安くとも七桁……数百万はいく。それに加え十二等級の使徒も二対揃えているのだから盤石という他ない。
やはり彼女は何歩も抜きん出ているだろう。
間違いなく、単独の優勝候補だ。
「さて、対抗馬が誰になるのやら……」
五十を超える歳でも輝きを失わない目で、熟練のスカウトマンである八代は会場に視線を向けながら小さく呟いたのだった。




