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39話 選定式予選



 一枚のチラシが、俺の机の上に置かれていた。



 私立京都対異空高校。



 対異空高校の中でも特に凄いとされる三校のうちの一つで、入れば使役師としての成功が確約されるとすら言われている。



 特に夜廻組との繋がりが強く、勿論勉学の面においても優秀で、その高校の卒業者というだけで箔が付く。




 俺も当然、ここに行きたい。


 だが普通に入るなら学費など様々な問題が立ちはだかる。

 

 免除してもらうには、一学年千人の新入生から二十人しかない特待生枠を獲得する必要がある。


 そのうち、十枠は一般科の中で成績に優れていた十人。

 五枠は異空科で成績に優れていた五人。



 そして最後の五枠がーー学園直々にスカウトを送る特別特待生。


 選定式や異空災害などで目覚ましい活躍を残した人たちを学園に呼び、力を誇示するための枠だ。


 当然、この力の誇示のためには知名度のある使役師を呼ばなければ話にならないので、大会上位者が優先的にスカウトされていく。




 現実的に考えて、高額な学費を用意するのは俺には無理だ。そのため、俺はここ数ヶ月ですっかりと特待生の枠を取る方法に舵を切りつつあった。



 特待生。それを取るなら最低でも県予選を決勝まで勝ち抜き、全国選定式でもベスト八あたりに入らなければならないだろう。



 だから、負けられない。

 負けるわけにはいかない。



||



 日本には全体で凡そ七十万人ほどいる使役師のなか、各年代で毎年注目株が出てくる。


 その才能の発掘場として利用されるのが、全日本中・高等部使役師選定式である。

 県別選定者は『藍玉の指揮者(アクアマリン)』。


 本戦選定者は『蒼玉の指揮者(サファイア)』の称号が与えられる歴史ある行事なのである。

 

 十五歳から登録資格が得られる使役師だが、全国選定式は十一月だ。


 なので登録時期によって実力の差が出やすく、特に十五歳部門では参加者全員が十五歳ではあるものの、歴七ヶ月の使役師もいれば、歴一ヶ月未満の使役師もいる。


 ちなみに俺の場合、誕生日は五月十日なので使役師歴は半年程。当然参加する気ではいるが、格上と当たる覚悟もしなくてはならない。


 まあこの選定式における高校生は活躍しても対異空高校へのスカウトが来ないから、あまり参加数は多くない。


 だが俺たち中学生組は違う。対異空高校への、数少ないアピール場であるこの選定式では躍起になる人間がほとんどだ。


 なお元来高い需要を持つアカデミー生は、既にスカウトの目にも止まっている。


 アカデミー生はどこかしらの対異空高校への入学は決定的なため、特に参加する理由が無い。その為、恥をかくリスクも恐れてこの選定式には出ないことが多い。


 よって、この選定式に武藤は参加していない。


「えー、皆様! それでは第三十二回、全日本中・高等部使役師選定、大阪一次予選の一日目を開幕致します!!」


 会場アナウンサーが集まった大勢の使役師らにマイクを持って伝える。

 その言葉にこの会場は湧き上がっていた。


「皆様には今より、登録画面にございます番号を確認して頂きます。次にその番号が記された各部屋に移動をしてもらいます。

 そして画面にございますQRコードをスキャンしていただき、試合をして頂きます。

 一次予選の内容と致しましては、擬似異空間での討伐数競争となります。終了後には自分のスコアが確認でき、上位二十五%のスコアを出した方のみを二次予選にご案内いたします」


 アナウンサーが選定式の流れや、ルール、禁止事項を話していく。

 

「……では、以上で説明を終わります。皆様、ゆっくりと部屋まで移動して下さい」


 説明を聞き終わり、俺は第四会場から移動した。

 出口でスタッフさんの指示により一列に並び、看板通りに進みながら部屋まで移動する。


「十五番か……にしても広い会場だな」


 相当な費用がかかっているに違いない。

 俺は十五と書かれた大きな部屋に入る。部屋と言っても体育館くらいの広さはあった。



 多くの人で混雑した部屋だった。

 ざっと百人はいるだろうか。

 

 去年の選定式参加者は総勢三万人以上だったらしいし、この大阪会場にも二千人をやや下回るくらいは居る筈だ。


 この中で一番を取る。そう意気込まなければ勝てるものも勝てないだろう。


「十五番会場です。では皆様、テープ通りの列にお並び下さい」


 ゾロゾロと散らばっていた人達が一列に並んでいく。

 俺もまた、他の人達のように列に並んで行った。


 俺は少し遅れたせいか、列の真ん中辺りにいる。

 列が進むペースは遅くはないのだが、十分くらいはかかりそうだ。少し、暇になるだろうか。



 ぼーっとしていると、隣の列から話し声が聞こえてきた。

 男二人組が会話している内容を、暇だったせいか思わず盗み聞きしてしまう。


「なあ太郎、お前はこの選定式どう見る?」

「そうだな……大阪予選のレベルはかなり高い方だが、去年の『藍玉の指揮者(アクアマリン)』選定者は十二〜十一等級の使徒をしっかり揃えていた。

 僕のデータによれば……今回もその辺りが優勝の目安だろうが、今回はあの『英雄』小鳥遊の娘が参加しているらしいからな。今回はかなり厳しい戦いになるだろう」

「ふっ、だが、予選突破が出来ないほど俺たちは弱くはないだろう?」

「ああ確かにそうだな」

「少なくともここらで俺たちの相手になるような奴らはいないだろうさ」

 

 何やら色々話しているらしいが、周りの騒音のせいであまり内容が聞き取れない。


 が、幾つか拾い上げた言葉から察するに、前回選定式の話や分析をしているようだ。


 かなり真面目に話しているようだし、周りのきゃっきゃっと参加記念で参加しました……みたいな連中を冷めた目で見ている。



 俺は未だ続きそうな暇を潰す為、再び周りを確認した。



 俺の前方の青年は友人と来ていたのか、彼の前列の青年と楽しく談笑している。


 

 後ろの少女を見る。

 その後ろの少女の背後の青年も、青年の後方の少女と話していた。



 俺と後ろの少女だけが孤立した形だ。



 目が合った。


 気まずさが増した。



 周りで会話相手がいないのは見事に俺と彼女だけだ。



 本当に気まずい。

 

「ねぇ、お兄さん」


 話しかけられた!?

 俺は予想外の展開に、少し言葉を詰まらせながら聞き返す。


「……何?」

「お兄さん、ここの部屋って十五番だよね?」

「え、うん。……間違いないと思うよ」

「そう。良かった」

 


 会話が終わった。

 特に進展する事もなく、普通に目を逸らされる。


 

 

 俺も沈黙して大人しく自分の番を待つことにした。



 気づけば俺の番が来ていて、俺は機械にQRコードを読み込ませた。

 近くのロボットが、門の台座にある機械をポチポチと触り、門の色が変わる。


 門をくぐる。


 あたりの景色は既に異空内部のようになっていた。

 転移したのだろう。


 擬似異空室。そのシステムは異空と同じだ。

 ここは異空内の世界構造と同じ、別世界。つまり、使徒の呼び出しも可能である。


 

 俺はドアを潜って、中に入る。




 この擬似異空室では安全装置が稼働しており、使徒含めこちらは決して怪我をすることはない。しかし攻撃を受けすぎると脱落判定になるため、気をつけなければならない。



 入った異空を見渡す。

 市街地には既に群がっている穢者達。それらが一斉にこちらに振り向いた。

 

 

 レベル的には五等級の異空だろうか。

 俺は自分の使徒達を呼び出しつつ、まあ普段通りやるだけだな、と考え気を楽にした。 




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