哀歌兄弟、日本にゆく 第一章 5~6 エルウッドの夢2
エルウッドの夢2
5
エルウッドの上機嫌ぶりに、あきれかえっているシカゴ・エキスプレスの常連たちを、後にして、彼は意気揚々と、アパートに引き上げてゆく。
デーゥイやマイクや、や常連たちはてんでに、「あれ、何だよ。」とか「彼、どうしたの。」とか「何が起こったんだい。」とかワイワイ言い合っていたけけど、店主兼シェフのエドの一言でかたずいちゃった。「なーに、奴さん、生きる意味というやつを見つけたのさ。」
さて、エルウッドの方はというと、意気揚々とアパートに引き上げてきて、スプレー工場で働き始めた頃、なけなしの金を投げ出して、無理して買った中古の日本製のハイファイステレオのアンプのボリュームを上げて、ご機嫌な哀歌ナンバーを聞きながら、ベットの上で寝転がって、ジム・ビームスで一人酒盛りをしている。
そして、うーん、日本人ていうのは、こんないい音の出るアンプを作っちゃうかんだから、とんでもないやつらなのかも知れないぞ、なんて考えてみたり、そして日本行き、いや、その前にニューヨークにいかなくちゃいけないんだけど、そのことを色々、考えてたんだけど、だんだん不安になってきた。
ちょっとまてよ、ニューヨークと、日本行きの、金はなんとかなるけど、日本語は全然分からないし、よく考えてみればハーレム合唱団といわれても、知り合いがいるわけでもないし、破産寸前の合唱団のスポンサーなんて、自分には無理だし、知り合いにそんな人物かいるわけじゃなし、それにジョージ・ヤナギって誰のことだろう。日本のプロデューサーの名前かな、などと色々考えていたんだけど、酒が回ってきて、眠くなったんでいつのまにか、眠ってしまっていた。
6
エルウッドかふっと気がついたら、またまた天使の登場だ。哀歌サングラスに哀歌スーツ、哀歌帽で、ジェイク、レイ、そして今度は一人増えている。義理の親父のカーティスまで枕元に並んでいる。三人の背中にはまた例のとおり白い羽が生えている。
「エルウッド、やっと分かったみたいだな。俺たちの言ったことに嘘はなかったろうが。」と兄のジェイクが切り出した。
「兄貴よう。話は分かったけど、これから俺はどうすりゃいいんだい。」とエルウッドか聞くと今度はカーティスがそれに答える。
「ワシ達を含めた、哀歌の兄弟たちは、神に直訴してな。今回のミッションの代価に、おまえにせめて贈り物をしてくれとな。」
ニカッと含み笑いをしながらジェイクが話し始めるんだけど、ジェイクが身体をゆするたびに悪魔のような尻尾がヒョイヒョイ顔を覗かせている。
「エルウッド、新哀歌爆走車だ。パーフェクトだぜ、今回は。なんせ神と俺たち哀歌の兄弟たちが仕立てた車だからな。」
今度はレイが含みありげに話を始める。
「エルウッド、日本へ行くことが、お前への、神の最大の天恵で、神やワシらからの最大のプレゼントだ。お前の人生はジョージ・ヤナギと出会うことで大きく変わる。お前だけじゃないアメリカの哀歌が大きく変わることになるかも知れん。ワシの言ったことを忘れるなよ。」
最後にジェイクがパチンと親指を鳴らして締めくくる。
「エルウッド、市鉄道のトランスだ。お前にはそういえば分かるよな。エ・ル・ウ・ウ・ウ・ウ・ッ・ド、トランスの下だ忘れるなよ。」