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ETCが仕事を奪うのは良くないと思います。

そんなわけで、

下山の帰り道は数メルおきに並んでいる切り株をトントンと跳び渡っていけばいいので楽なのだ。

「ただいまー」

自分のことながら、かなり図々しいなあとは思うんだけど、お邪魔しますとか言ったらシェルミに他人行儀とか言われそうだし…なんて、最近考えたこともないような事で悩む。幸い、

「あ、おかえりなさいです〜、なんか、清眼?が凄く頑張ってるらしくて、シルフが怯えてちゃってます.あはは」

ちょっと困った笑顔を浮かべるシェルミ。シルフは普段、家から100メルくらいの範囲を飛び回ってるらしいが、今日は山の方には飛ばないとか。

まあ嫌だよね、レーザー撃ちまくる自動兵器とか怖いわ…

手持ち無沙汰で、シェルミの薬草の処理などをぼんやり眺めるうちに、東の空が明けてくる(清眼に魔力を引き出されるのも止まったようだ)。

「風呂でも入って寝るとするよ」

立ち上がった僕に、当然のように

「そうですね、行きましょう!」

と、お風呂グッズを手に取るシェルミであった。ほんと誤解されるよ君?距離感ゼロだからね?


「脱衣所が清潔になって、男女が完全に分けられて、安全が確保されると、こんなに温泉が心地よいものだとは…です!」

湯船の真ん中に召喚した竹の壁の向こうから弛緩した声だけが聞こえる。

男性側が西半分なので、仕切りも立ててないのでアレステまで全景が見渡せるのだ。女性側は流石にそんなオープン設計にはしていないけど、それでも東側の山と空が見晴らせて爽快だろう。

「おー…町から温泉買い取って自分の家にしようかなあ…」

冗談で言ってから、まあまあいいアイデアかもしれないとも考え直す。どのみち当面住む場所は必要だ、シェルミの家にお世話になる訳にはいかないのだし。

「えっ…シン、アレステに定住するんですか⁈」

バシャッ、と湯船で立ち上がった水音。

「おーい、立ち上がると見えるだろ、(見えない)訳あって落ち着く所探してるって言わなかったっけ?」

バシャッ

「そ、そうですね…言ったかもしれません。そっか、家ですかー…」

なんだろう、温泉を独占されてはマズいとかなのか、もっと凄い脱衣所にしろということなのか…


のぼせた。


シェルミの家でパンとチーズをご馳走になり、戻って脱衣所で眠り、昼はまた2人で町の宿屋兼食堂で食べて、散歩しながら帰って…

はっ

楽しみ過ぎた。

陽が沈む前にやる事があるのを思い出した。

「ちょっと…屍人の平原見てくる。」

「あら。迷わないように気をつけるんですよー」

経験者が言うと重みが違う。


屍人の平原につながる谷間に1人立つ。

とりあえずここに関所みたいなのを建設するのは必須として。なんか高速道路によくある料金所みたいなイメージのものを。

ゾンビやスケルトンが押し寄せないような仕組みが別途必要な気がする。奴等は知能ゼロのハズなので、なんか単純に迷路みたいなので違う道に誘導できればいいのかなあ。


まずここに…足で線を引く。

「召喚…木造の小屋!前面と側面に窓、壁の外側にレンガを積んで強化。奥に休憩用のスペース、2階にはバリスタを設置!」

誰も見てないのでかなり大胆に大掛かりな建造物を一気に召喚。匠でも、こう早くはできまい。

これで、屍人が押し寄せても崩れない関所と、一応100メル辺りまで牽制できる砦が完成。

でも、周りにゾンビが押し寄せるのは嫌なので、考えた。

比較的、ゾンビ達は左の方からやってくる…ように見える(多分そっちに古戦場でもあるんだろう)。

なので、柵を利用して、左方向から関所を目指しても、行き止まりになるようにする。

知能ゼロだとこれで行き詰まるはず。

で、まあ右の方にも一応同じような罠を仕掛けておいて、右前方の狭い隙間を抜けて、関所とは逆の方向に回り込む感じで抜けられる唯一の正解の道とする。

めちゃくちゃ柵召喚した。


そしてまた陽が沈む。


僕は関所にこもって、前方100メルあたりに魔法の光を浮かべた(じゃないと、暗くてゾンビ達の動きが見えない)。

やはり感じていた通り、左前方から大多数の屍人が歩いてくる。僕の生気に惹かれてくるのだ。

そして柵にぶつかり、そのまま誘導されて僕が作った行き止まりの隘路にひしめいてしまう。

「よし!知能ないな、この世界のゾンビは」

たまにゾンビが知能ある世界があって、その場合危険度が跳ね上がるので要注意である。

1時間に1人(でいいのか?ゾンビを数える単位は)くらいは、偶然右方向から正しい隙間を抜けて曲がりくねった道を通って関所に歩んでくるが、

こいつらの怖いのって数だけだからねえ。

魔法を使わずに、わざわざバリスタで狙いを定めて迎撃。

動きが遅いので格好の的として粉砕される。

これなら僕じゃない一般の人間でも大丈夫。

世が明けるまでに僕が放ったバリスタの矢は4本だけだった。


朝日を浴びて土に還る屍人たちに別れの挨拶をして、僕も関所を出る。

誰もいない夜明けの草原とかほんといいよね…草が風になびいて、空が段々藍色から青色に変わって。


歩いて数分でシェルミの家に無事帰還だ。実は夜通し、結構な頻度で破邪の清眼から魔力を引き出されてたのには気付いてたので、多分ゴブリンが一大勢力を率いて山の向こう側から登って来てたんだろうと思う。

残念ながら、インビジブルストーカー並みの隠蔽でなければ、清眼は遮蔽物ごと撃ち抜く。

山を越えた者はいなかったようだ。


ドアを軽くノックすると、

「はーい、おかえりなさい〜」

と、シェルミがドアを開けてくれる。おかえりって言われるほどこの家で寝泊まりとかしてないんだけど、

まあ歓迎の挨拶なんだろうと喜びつつ。

「おはよう、シェルミ、起きて待っててくれてありがとう」

僕はまたパンたソーセージをご馳走になることになる。

早いうちにバイト代貯めて返さないとまずい。


関所をうまく設置出来たことを誇らしげに語って聞いてもらいながら、2人で温泉に向かう。

「そういう、危ないかも知れないようで危なくないはずの仕事を引き受けたがる老人とか町にいるかな?」

「なるほどー。いると思いますよ?やっぱり、今でもたまにゾンビが谷間の木戸を抜けて、夜、町の中心部にフラフラ現れるって事はありましたからね。それを未然に防ぐっていうのは、大事な仕事と認識されると思いますよー」

そうか。

仕組みを作って次々に任せていかないと、僕が他の方面での護りを固める事ができなくなってしまうので、そういう人達がいると本当にありがたい。

また町長に相談してみようと思う。

しばらくは夜はあそこに詰めるかな。


温泉に入りながらも仕切り板越しにシェルミに聞いてみる。

「ゴブリンと屍人達以外に、町の脅威って何があるんだろう?」

「そうですね…そもそも人間が一番危険な生き物なんですけど。屍人の平原を抜けてそのまま50キロくらい抜けると、そこは帝国と王国が睨み合っている戦場らしいんですよねー…それが一番の脅威かも知れません。」

確かに、結局人間の敵は人間なんだよな。至言だ。

「うーむ…でも当面は、この山の頂上に設置した清眼と、屍人達を止めれば、町の人たちは平和に暮らせるのかな?」

「うーん…」

シェルミはしばらく女湯で沈黙した。

「…南の脅威は屍人と帝国なので一旦置いといて、北はゴブリンが西に回り込むことと、他の魔獣が牧草地の北側からやって来るのを止める手立てがありません。

ちょっと湯当たりしてきたので、上がっていいです?」

すまない。


ちなみにこの温泉小屋だが、入った部屋は一つ、男女別の脱衣所を別々に二つ設置する形で壁や扉を再召喚した。

脱衣所が別々じゃないと、扉2つ作る意味なくないです?とシェルミから貴重な消費者の意見をいただいたので。


いつものようにシェルミを見送ってから、昨日と同じように僕は脱衣所で睡眠を取る。

うん、順調…なのかな?

しばらくは自分で関所を見張ってみて、何か不慮の事態が起こらないか確認してみる。

うまくいけば、ここは他の、町で暇している老人とか、力とやる気を持て余してる自警団の若者(アレステには自警団あるのだろうか)に任せる事が可能になるハズだ。

そう思いながら、僕は朝日に包まれて眠りにつく。

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