まず自分の安全を確保してから他人の世話をしろってCAさんも言ってた
まあ、なんやかんやあって、
昼食と町長のおっさんとの会談を終えて、シェルミが薬草的な何かを小銭に換え、それをパンや保存食に換えて、またぷらぷらと坂を下って家に戻ってくると、僕は早速仕事を始めることにした。
この広大な盆地に広がるアレステの町をどうやれば効率的に防衛できるんだろうか。
当面の害悪は北東の小山を越えてくるゴブリンと、南東に無限に湧く屍人達だろう。
まずは自宅(温泉の脱衣所だが…)を安全圏に確保しなければ気が休まらない。
ここで数々の旅を越える中で入手した、とびっきりのレアアイテムを投入することにする。
「破邪の清眼〜」
♪チャッチャララッタターターター
「何の音楽です?」
「いや、いいんだ。便利道具ってことなんだ。」
僕は便利袋から、水晶玉のようなモノを取り出した。普通の水晶玉と違うのは…
「なるほど…眼ですね?」
「眼なんだよ」
こいつは設置すると、とにかく見渡す限り邪悪な存在にレーザーを撃ちまくるという、清眼という名前と裏腹にかなり狂気的なアイテムである。
マクシム機関銃のごとく。
僕の魂と直接リンクして魔力を供給され、ゴブリン程度なら有効射程1キロで撃ち抜く。ちなみにドラゴンとかだとゼロ距離でも与ダメゼロだ。
これを、この温泉からさらに200メルほど登った頂上に設置しに行く。
道なき道を登山しなければならない…後々のメンテもあるので、できれば獣道程度は切り開いといた方が便利だ。というわけで、俺のチート能力その2と、日本刀の出番である。
本来日本刀なんてのはでっかいカミソリみたいなもんだから、もちろん木なんて切れない。木を切り倒すなら斧が常識であろう。しかし、この世界では「切る」を極めれば何でも切るのだ。僕は日本刀で太さ数十センチの木を1分程度おきに根本から50センチくらいの高さで切り倒していく。
そうすると、切り株が数メル毎に並んで、その上を跳んで渡っていく道ができる…常人には無理だけど。
2時間程もかけて頂上に到着すると、北側からゴウッと風が上って吹きつけてくる。向こうは一旦なだらかに降って、広大な森林、そして山脈へと続いている。西を見ればアレステの町に続く牧草地、農地、林を越えて中心地の明かりだ。人類の生活の灯火を消してはいけないなあと思う。
さて、頂上付近を平らにして、東屋のようなものを可能な限り頑丈に召喚する。
「召喚…東屋!石造で高さ1メル、1メル四方の柱4本、屋根は木造で…中心部に台を。そうそう、そんな感じ」
出来上がった台座に、清眼を設置奉って稼働。
「ギュオオオオッ!」
と、邪悪な起動音を立てて眼は監視を開始した。
これによって、そもそも温泉やシェルミの自宅が完全に射程内に収まるし、この山全体と東に流れる川までカバーするので、実質屍人の平原まで回り込むか、西に1キロ移動して、酪農家があった辺りからしかアレステの町に侵入できなくなるのだ。
「私はとても嬉しいんですけど、なんでしょう、西の方で困る人が出て来そうです…」
眉をへの字にしかめて、露骨に困った顔になるシェルミ。
「そうだな…まあ、問題は一つずつ地道に潰していくから…」
そんな事をしてるうちに、既に日は落ちてしまっている。
シェルミの家でハムを挟んだパンと水をいただいて(今のところ、ひたすら初対面の美少女に奢ってもらうだけという状況である)、じゃあ屍人の平原につながる山道でも見回りに行こうかなあという午後22時。
「気をつけて行ってくださいね〜」
「へーい、行ってきまーす」
満面の笑顔に送り出されて、懐かしのオンボロ木の柵に向かう。
ここで少し魔力が引き出された気配。
振り向いて山の頂上を見上げると、東屋の辺りがキラッ、キラッ、と瞬くように明るくなる。
あの煌めきの度に邪悪なモノが消えているのだ…こわっ。
まあ、昨日のゴブリンの復讐かな?
見事に返り討ちにあっているが。
さて、
踵を返して歩く事数分。
峠に差し掛かると、案の定、100メルほど前方の一番狭くなった谷間に設置された木の柵と木戸、そしてその向こう側に屯するゾンビとスケルトンが複数見えた。
幸い武装しない状態で出現しているらしく、木の柵でさえ破壊することはできない。なんとなく生者の(僕のことだ)気配を感じてウロウロしているが、積極的に町に押し寄せてくるとかいうことはない。
これは、僕の召喚チートで建造物を強化・設置して防御を固める方針で。
ただし、工事は昼間に。
今出ていくと流石に平原中の屍人が押し寄せてくるリスクあるからねえ。
というわけで、早めにシェルミのとこに帰ろう。
もう今日の分は頑張ったし、後は癒されたい。