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ゴブリンと温泉とチート能力

結局、シェルミが夜明けとともに眠りにつき、お昼に目覚めるという生活パターンである以上、町長に会いに行けるのは午後なのだ。

という訳で僕も眠くないので、シェルミと同様に夜明けまで起きておいて、昼まで眠ることにする。

シェルミは生業としている、薬の製作をしながら、僕の質問に付き合ってくれる。

「この町.アレステは、何人くらい人住んでるの?」

「さて…2,000人から3,000人といったところじゃないですか?街の中心部まで5キロくらいは延々農地と牧草地、50世帯ですが人を雇ったりもしているので、それだけで500人。商業が発達してる訳でもないですが、町の中心部では食品の加工・販売や、動画を作る職人など、数100軒の家が並んでますね。」

なるほど。北の行き止まりの町と聞いたと思ったが、中世レベルと考えると相当に大きな町ではないだろうか?

「3,000人多くない?食糧とかどうしてるの?」

「どうって…畑から採れた麦とか野菜とか、酪農した乳とか卵とか、つぶした牛とか…狩猟してきたウサギとか。あと、さっき言った中心部ってのは、川に沿ってるので、漁業とかですかねえ。たまに商人が来ますけど、夜は屍人の平原は抜けられませんからね、敬遠されますよ」

なんとなく頭の中に地図ができてくる。

屍人の盆地を抜けたところに、山と川に囲まれた里。恐らく亜人や魔獣に脅かされる、人類の僻地の砦。

ゴリゴリとシェルミがすり鉢で薬草的な何かをすり潰す音だけが響く。天井あたりをウィルオーウィスプがぼんやりと光りながら浮遊していく。

質疑応答を繰り返して光の精霊を眺めているうちにウトウトしていたのだが…


カサッ


「…落ち葉を踏んだな?レベルの低い亜人だ」

「自分で気付くって、どんなレベルです?シンって王都の騎士とかじゃないんですか?」

シェルミは壁にかかっていた弓矢を取り上げながらこちらに意味ありげな視線を投げかけた。

「その論理だとシェルミは王都の魔導士か?」

僕も左手の中指にマジックミサイルの指輪を再び装備する。便利袋から日本刀も取り出した。

「私はシルフが教えてくれますからね。この家の半径100メルに近づくのは不可能ですよ。でもシンは精霊なしに自分で気付くのでしょう?」

シルフ便利だ。僕も仲良くなりたいものだが、そういう恩恵はない。精霊の声は聞こえない。

「ちょっと出てくる。かえって気を使うから、シェルミは家に居て。」

僕は言い残してドアを開けた。

「あの、油断しないで、ゴブリンは弱いけど、狡賢いですよ!自分より賢いくらいの気持ちで接してください…!」

流石よくわかっている。

ただ、流石に15匹程度のゴブリンを迎え撃つのではレベルが違いすぎる。小汚い梱包を持って忍び寄ってくる(つもりの)ゴブリンに無造作に接近する。

「殺すと死体の処理が珍しいからな…今日は助けてやる」

僕のチート能力その2、光速の居合い斬り。抜いた瞬間ゴブリンの手首が地に落ち、落ちる前に刀は鞘に戻っている。

「ギアっ?」

痛みさえ感じず、落ちた手首に驚くゴブリンの横の個体の足首を狙う。次は目。また手首。1分もかからず15匹を戦闘不能にして、這々の体で助け合いながら逃げ帰って行くゴブリンを見送る。


「ただいまー」

「…おかえりなさい、思ったより心臓に良くないですね、他人が魔物と戦うのを待つのは…」

「流石にゴブリン15匹には遅れは取らないよ、ドッペルゲンガー15人ならともかく」

「シンが16人!…えーと、死体はどうしましたか?放置すると臭かったり…」

「そう思って、適当にあしらって追い返した。」

本人たちはどう感じたかは知らん。

「まあ、東の空がもう明るいですし、どのみちもう彼らの時間ではないですね」

確かに、いつのまにか空は既に満天の星ではなく、東から藍色に染まりつつある。風も吹き始めた。

「あー、本当だ。…ちょっと川で水浴びてきても大丈夫かな、寝る前に」

この世界に来て歩き回ったし、サッパリしたかったのだ。

「もう50メル登ったとこに、温泉ありますよ?」

「ふおおおお?温泉て言った⁈」

「今、ふおおおおって言いました⁈キャラ崩壊してるけど大丈夫ですか⁈」

「構わん。温泉があるのなら。ていうかなんで温泉?」

「いえ、昔から湧いてて、一時は町の人たちも入りに来てたらしいんですが、遠いし廃れたみたいです。一応脱衣室の名残というか、荒屋みたいなのが残ってますが…温泉自体は今でも湧いてますよ。私の貸切です」

シェルミが何故か自慢げに薄い胸を張る。

「じゃあ行くか」

「行きましょう」

そういうことになった。


「…ボロいね」

「そう言いましたよ。」

荒屋というか、もともと屋根がなかったのか、壁も崩れて、柱と床的な物体しか残っていない。

もうこれは露天風呂と思ったほうがいい。まあ温泉に罪はない。

「じゃあ、入ってくる」

「はい、男湯は左ですから。」

そう言われると温泉自体は真ん中で木の板に仕切られている。まー、どっちでもいいんだが。一応左側の温泉の手前で服を脱いでその辺に置いとく。と、右側の手前でシェルミが貫頭衣的な上着を脱いで丁寧に畳んでいるのが見えた。

「なんで脱いでるの⁈」

「えっ、温泉入るのに服着たままでいろと⁈」

「いや、温泉は服もタオルも不可だ。」

「ですよね…安心しましたよ。シンが異世界から来たんじゃないかと疑うところでした。」

そんなところでバレるのなんか嫌だ。

しかしその間にシェルミは短パン的なモノも脱いでしまって、なんだろう、キャミ的な下着とパンツ的なパンツだけになってしまっているし、しかも現在進行形で入浴の準備を進めておられる。

「おおお、俺こっち入るから、じゃあまた後で!」

「?はい、中でも別に声届きますからねー、シン変ですよ?」

変になるわそりゃ。


別に温泉でラッキースケベとかないから、割愛する。

何もないから!

…別に肉付き良ければエロいって訳でもないということは学んだ。


さて。

「ふあー、いい湯でしたね〜、帰って寝ましょう!」

「まあちょっと待て」

このままシェルミのベースに巻き込まれて有耶無耶に一つ屋根の下に同衾するわけにはいかない。

この子警戒ゼロやん。

「この荒屋を建て直して、ここで寝ることにする」

「わかりました。早く帰って寝ましょう」

うん、勿論話通じてないな。

「まあ見ててくれ、5分でやるから」

まずはゴミ袋を出して、荒屋に向ける。

「この木造の建造物の残骸を収納。」

荒屋がゴミ袋に吸い込まれる。

「えっ⁈そんな魔道具…アリです⁈」

「まあいろいろ旅してきてるからね…そこはどうでもいいんだ」

ここからが僕のチート能力その3の見せ所だけど、うまく発現するのかな?

まずイメージつきやすいように、温泉の手前の地面に縦横10メルくらいの線を引く。そして、

「召喚…しっかりした土台と30センチくらいの高床の床!」

いくばくかの魔力と引き換えに、どこからか木材が召喚され、イメージしたような木造の床が建築された。

「はあっ⁈シンって、魔道…大工さんです⁈」

まあそういう感じのチート能力をもらってきたとも言える。

うん、床はこれでよさそう。

「続いて…召喚・壁!こちら側に入口、向こう側に二つ引き戸が付いた壁、窓なし!高さ3メルくらいで、とりあえず天井!」

うむ、いい感じで小屋が出来上がりつつある。

「シェルミ、この辺て大雪降ったりするの?」

「え⁈…いえ、そうですね、積もっても数センチですかね…何故です?」

なら、

「最後に、召喚・屋根裏の上に屋根、少し角度を付けて!」

というわけで、なんということでしょう、立派な脱衣小屋が出来たではありませんか。

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