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2話 エルフはスマート。いいね?

「こんな木の柵でゾンビ防げるの?」

という、当然の僕の問いに、シェルミは、

「なんか、見える範囲に生物がいないと寄ってこないですしね…柵にぶつかったら戻っていきますし?」と、悲しい現実を教えてくれた。


木の柵を超えて道をしばらく進むと、右に迫っていた山はそのまま前方まで立ちはだかっているが、左方向に広大な平原がひらけてくる。

「見える範囲、アレステの町ですよ!」

シェルミが胸を張って教えてくれる。

おお…

と言われても、もう見える範囲夕闇に沈みかけているし、数百メートルおきに農家?が散在しているのしか見えないのだけれど。

「おお…町長とかいたりする?なんか偉い人に許可とかもらったりしたいんだけども」

僕のだいたいの第一セオリー、偉い人に話を通す。

「いますけどねー、もう夜遅いので、なかなか会うのは難しいかもしれません。私的には、明日あらためてご挨拶に伺うのをオススメします。なにしろここから歩いて小一時間かかるので」

なるほど、町の中心地はまだ遠いのか。

まあ急ぐ旅でもないし、今夜は宿屋にでも泊まって明日挨拶に伺うのがいいのかな。

そう話してみたのだけれど、

「んんー…この北の行き止まりの町ではですね、一見さんは少し警戒されてしまうかもしれません。盗賊かもとか。私がご紹介すればいいんですけど、そうするとですね、今度は私が1人で夜道を小一時間歩いて帰って来なければならず。この辺たまにゴブリンが入ってくるので、夜の外出は危険なのですよね…」

と、形の良い眉をしかめて悩む風情を見せる。

そう、エルフの例に漏れず、シェルミもかなりの別嬪さんなのだ。

多少身体つきが細めではあるけど…と、僕は0.5秒だけ彼女の全身をスキャンして思う。

シェルミはそんな僕の0.5秒を0.1秒で素早く捉えて、

「人間は私の身体に興味なさそうなんですけど、ゴブリンは見境ないですからね…?」

と、今日一番の笑顔を見せた。

こわい。


「そうだな!ゴブリンは危険だもんな!」と100%賛成。

しかし、だとすると選択肢残ってなくないか?

「私のうちに一晩泊まります?」

と、シェルミが爆弾発言。

この世界では未婚(未婚なのか?)のうら若き(若くないかもしれないけど)女性が男を泊めるの普通なのか?

「お、おう…ありがたいけど…なんか、迷惑かけたりしないかな?」

「どうせ人間は私の貧相な身体なんかに興味ないですしねー、あははは。シンは信用できる感じですし。それに、シルフはゾンビには相性悪いですけど、生身の人間だとどうでしょうね?」

その時になって、初めてシェルミは足を止めて振り返り、僕の目を覗き込んだ。

彼女の瞳に深い知性と鋭い洞察を感じる。

スキャンされてるようなもんだ。

「行きましょう、その山道を50メルも登れば私の家です!」

シェルミはスキャンを終えて、恐らくは結果に満足したのだろう、再び歩を、前方に立ち塞がっていた山の中腹に見える木造の小屋…家?に向けた。

目算でメルはメートルで良さそうだ。まあ人類の考えることなんて大体同じだ、と思うことにしよう。


なんとなく階段的に踏み固められた土の道を登っていくと、木の柵に囲まれた一帯に辿り着く。

柵の周りに紐や竹の板などが吊るされていて、ゴブリンなどの外敵に警戒してるんだなーという印象。

「さ、どうぞ?」

シェルミは無造作に小屋のドアを開けて、僕を中に誘ってくれた。

特に凝った作りでもなく、僕の古い知識だと20畳程度の一部屋…南側に窓が一つ、家具はベッドと食卓?

北側に食物やキッチン的なもの、色んな貯蔵物が積まれている。

「お邪魔しまーす…」

女の子の部屋に入るのとか超久し振りだよなあ、と思いながらドアを後ろ手に閉めて、カンヌキをかける。


シェルミはベッドに腰掛け、僕はなんとなく気後れして、土間を上ったばかりの特に何もない床に座り込んだ。

まあ知らない世界に来て、歩き続けて、とりあえず座る場所を確保できたので一安心。

「シェルミに出会えて良かった…助かったよ」

「あはは、助けてもらったのはこっちの方ですけどね?お昼に町で買ったパンがあるので、分けてあげます…お口に合えば、だけど」

ぶっちゃけ何でも美味に感じただろうとは思うが、焼いて半日経ったパンはそれでも美味かった。

「水は…すぐそこを小川が流れてるんですが、そろそろ外を出歩くのは…」

リスクを徹底的に取らないらしいシェルミ(そしてそれは恐らく正しい生き方なのだ)

「ああ、桶でも貸してくれたら汲んでくるよ。これでも気配感知は50メート…メル余裕だし、魔法の矢はゴブリンにはよく効く」

そういうとシェルミは気乗りしない様子ながら桶を貸してくれた。


外に出て見上げれば満天の星だ。知らない星座ではあるけれど、それでも星空はいつでも美しい。

特に魔物の気配はしないけれど、とにかく水の流れる音のする方に歩くとすぐに小川を見つけ、桶に水を汲む。

ざあっと風が流れてきて、土と草の匂いを運んでくる。恐らく初夏なのだ、この地は今。

もう一度ドアを入ってカンヌキをかけて桶を置くとシェルミが使い古したコップを手渡してくれる。

「夜外を歩けるなんて羨ましい限りですよー」

「シェルミは夜は一切外出しないのか?」

「たまたまその日に限ってゴブリンに出会う不運、なんて信じてませんからね。不運なんてない、それは日頃の行いの積み重ねの結果が今日出ただけ、ですよ」

また諺なのかどうか微妙な…言ってることは120%賛成なんだけど。

「分かるけどね。じゃあ後は寝るだけ?」

「いえ、ずっと起きてます。夜寝るのは自殺行為ですよ…夜明けまで起きて、寝て、お昼に起きるんです」

当たり前のように何故か少し自慢げでさえあるシェルミ。

「え…みんなそういう生活なのか?辺境ってそんなもん⁈」

多少動揺した僕だけれど、シェルミの答はさらに僕を動揺させたかもしれない。

「いえ、私だけですかね?私はエルフだし、町に本当に解けこめていないので、こんな端っこに住んでます。当然ゴブリンはずっと目をつけてますし、数ヶ月に一度は襲撃してきます。寝てたら追い払えなかったかもしれません…シルフの助けがあっても。ただ、私が狙われてる間はゴブリンも町中までは女性を狙いに行かないから、その点町の人はみんな私に感謝…負目?を感じてくれてるんです。そんなわけで私はこのまま起きてますけど、シンは寝ていいですよ」

なかなかハードだ。

ゴブリンに対する防波堤という存在意義。

僕がこの町でできることがいくつかありそうだ。

「ありがとう、その、夜起きて治安を守るっていうの、なんだか気に入ったよ。明日町長に会えたら、そんな感じで町に居ていいか交渉してみるよ」

うん、ここを拠点にできなければ、どのみち世界を平和・共存サイドに傾けることなど無理な話だ。

ここからゆっくり始めよう。

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