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アオハル!  作者: tomo
2/3

#2

 昼休みの開始を告げるチャイムが鳴ったと同時に、いつも通り屋上へ向かうために席を立った。

 以前は友人もいた。が、しかし、とある事情で転校してからは疎遠になった。新しい友人を作る気にもなれなかった。とてもそんな気分になれなかったし、何より、新しくできた友人がかわいそうだ。

 この高校も世間一般の例に漏れず、屋上には原則立ち入り禁止だ。じゃあ、俺が何か特例なのかと問われれば決してそうでは無く、ただ勝手に入り浸っているだけだった。

 珍しく、屋上には先客がいた。

 フェンスの上に器用に立ち、靴は脱いでいた。いわゆる飛び降り自殺というやつだろうか。こちらの気配に気付いたのか、顔だけがこちらを向いた。

 なかなかの美少女たった。清楚系とギャル系の中間みたいな雰囲気に黒髪と茶髪を混ぜたような髪の色をしていた。

 別に何か行動するわけでもなく、手に持っていたWindowsPCを起動しつつ、コンビニで買ったおにぎりを取り出した。

 どうでもいい事を言うが、PCのOSはWindows派だ。Macは邪道でしかない。だって高い上にカスタマイズがほとんど出来ないし、アクセサリも全てApple製にしろと言わんばかりの態度が腹立つ。

 とか何とかどこかから怒られそうなことを思いつつ、首にかけていたヘッドセットを着けようとすると、意外にも声を掛けられた。

「止めないの?」

 酷く冷たく、尖った声だった。

 死ぬとか何とかほざきながら、結局は人にかまって欲しいだけの舐め腐った奴とはどことなく、違う空気を感じた。

 「なぜ止める必要がある。」

 少しの間が空いた。俺の返事が意外だったからかもしれない。

 「世の中には無責任に生きろと言ってく人ばかりだからさ。あんたもてっきりそういうタイプかと。」

 「人には生きる権利がある。」

 彼女の顔が少し険しくなる。何かを言おうとしていたが、それを遮って口を開く。

 「だが、人には死ぬ権利も同じく存在する。」

 今度は眉をひそめて怪訝そうな顔をする。もしかしたら、本来は表情が豊かな奴なのかもそれない。

 「何言ってんの?」

 「お前の自殺を止めない理由、だったか?さっきも言ったが、お前には自分の人生を終わらせる権利がある。そして、俺には止める理由がない。止めることによって生じる利益もない。」

 事実、彼女の自殺を止めたとしても結局は揉めてうやむやになって終わっていただろう。たとえ、その日の自殺は止められたとしても、後日彼女は自らの命を絶っていただろうし、俺はよく分からない面倒くさい奴との関連性を持つことになる。いい事なんて一つも無い。

 彼女はしばらく黙っていた。

 もういいかと思ってヘッドセットを着けようとしたが、それは彼女の声によって遮られた。お前はエスパーか?

 「…もし、止めてって言ったら?」

 「対価は?」

 「た、対価……」

 「当然だろう。俺にとっては何の得も無いことをするんだ。」

 「人助けって概念を知らないの?」

 「お前、さっき自分でそういう奴は無責任だって言ってなかったか?」

 「た、確かに…。」

 「じゃ、そういうことで。」

 と言ってヘッドセットを着けようとすると、彼女がフェンスの上から降りてきた。

 「死ぬんじゃなかったのか?」

 彼女は溜息をつきながら近づいてくる。

 「あんたのせいでやる気が失せた。」

 それは、平日のお昼時という大胆な時間にやろうとするからじゃないのか。というツッコミは胸の内に抑えつつPCの画面に目をやった。

 「それ、うちの学校で買わされるPCじゃないよね?」

 彼女はそんなことを問いかけながら、隣に座ってきた。

 そう、目の前にあるPCは自前のPCでこの学校で買わされるやつでは無い。じゃあ、この学校ではMacを買わされるのかというとそうでは無く、なんとChromebookを買わされるのだ。Macよりセンスがない。あんな何も出来ないPCと呼んでいいのかさえ怪しいものを買うのはゴメンだ。なので、転校生ということを利用してゴリ押した。時々いる転校前の制服でいる奴と同じ理論だ。

 ちなみに、制服に関しても新しいのを買うのをケチって前の制服のままだったりする。

 「そうだ。」

 「PCで何してるの?」

 よく喋る奴だなと思いつつも適当に返事をした。

 「YouTube。」

 「いや、今開いたじゃん。YouTube。」

 「気のせいだ。」

 「YouTube見るならスマホでも十分じゃん。」

 「画面がデカイ方が迫力があっていいだろう。」

 「……ちなみに今何見てんの?」

 「ゆっくり実況。」

 「迫力関係ないじゃん……。」

 生産性の欠片も無い会話をしていると、隣から元気なお腹の音が聞こえてきた。

 「お前、飯は?」

 彼女は少しジト目でこちらを見た。触れてはいけない話題だったかもしれない。

 「あんたモテないよ。」

 「そもそもモテようとは思わない。」

 「はえ〜。まあ、そういう事には頓着無さそうだもんね。」

 腹立つなぁ、この女。その不躾な目線を向けるのをやめんかい。

 「…んで、飯は?」

 「本来なら私、既に死んでる予定だったんだよ。」

 「なるほど。」

 ビニール袋の中にあったおにぎりを一つ差し出す。

 「…何か対価を要求されたりしないよね?」

 失礼な。流石にここで自分一人だけ飯を食うほど神経は図太くない。……はず。

 「お前は人の好意に素直に感謝できんのか。」

 「…ありがとう。」

 膝の上にあるPCを閉じ、空を見上げた。

 空気は相変わらずヒンヤリとしていたが、不思議と寒さはそこまで感じ無くなっていた。

 雲一つない青空は、綺麗だった。

 ふと気付くと彼女がこちらをじっと見つめていた。

 「何か、俺の顔に付いてるのか?」

 「…何も。」

 何なんだ。こいつの考えている事が一切分からん。さらに問いただそうとすると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 まあ、いいか。こいつとはこの場限りの関係だろうし。そんなことを思いつつ、腰を上げた。

 「あ、待ってよ。」

 「なぜ?」

 「何でって、一緒に戻ろうよ。」

 「…クラス違うだろ。一緒に戻る意味が分からない。」

 「う〜わ。」

 彼女が心底呆れたような目でこちらを見てくる。

 「悪いが、意味もなく群れるような」

 彼女の言葉によって遮られる。おい。人の話は最後まで聞け。

 「私たち、一緒のクラスだよ?」

 「…え?」

 「ついでに言えば、席隣だからね?」

 「………ええ!?」

 「他人に興味無さすぎでしょ…。」

 「……とにかく教室に戻るぞ。」

 「あ、話逸らした。」

 と、どうでもいいような話をしつつ教室まで戻った。

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