#1
教室の中は国語科教師の落ち着いた静かな声が響いていた。体育終わりのこの時間、既にダウンしている生徒もちらほら見かける。春の風が教室の窓から吹いてくる。
平和だ。
この空気を思う存分堪能しつつ、うとうとしていると、隣から脇腹をつつかれた。
まあ、当然気付かないフリをした。いかなる理由でこの至福の時を邪魔するというのか。説明責任を果たしてもらわないと困る。
…どうせ、こいつには説明責任を果たすつもりも無ければ、大した理由もないんだろうなぁ。
てか、痛い痛い痛い。ふつーに痛い。ついに痺れを切らしたお隣さんはシャーペンの尖った方に武器を切り替えたらいし。ふつーに殺傷能力高いって。
何?そんなにストレス溜まってるの?短気な女子高生はモテな
あ、ヤバい。ついに芯を出しはじめた。何で女子高生ってデフォルトの0.5mmよりも細いシャー芯使うの?余計に殺傷能力高まってるって。
というか、そろそろ反応しないと本格的にヤバそうだ。
「…何?」
「あ、やっと反応した。ねぇ、無視って酷くない?」
「失礼な。真剣に授業を受けていただけだ。」
どちらかといえば酷いのは、無抵抗なクラスメイトの横腹を刺し続けることじゃないのか?
「さっきまで寝ようとしてたのに。」
「お前は睡眠学習という言葉を知らんのか?。」
「いや、言い訳になってないから。よく、そんなさも当然かのようにいえるね。」
「まあな。」
「いや褒めてないし。」
しばらくジト目でこちらを見つめていたが、やがて諦めたのかクスッと笑った。
「まあ、いいや。」
「んで、結局何の用だったんだ?」
「んー。何でも。」
そう言うと満足したのか、前を向いてノートを取りだした。一体何だったんだ。
しかし、昨年出会った時より随分雰囲気が変わったなと思う。もしかしたら、木枯らしの吹く屋上という寒々しい場が、そう思わせていただけなのかもしれないが。