第二話「町に馴染む死神」
翌朝、パンで朝食を取る二人。
「固いパンしか出せなくて悪いな」
「いや、おいしい。ありがとう」
「さて、仕事に行くか」
「仕事? 用心棒だけじゃないのか?」
「酒場は夜しか開かないからな。昼はパトロールをやってる」
「なら私も行こう」
「いいのか?」
「泊めてもらったんだ。せめてこれぐらいはしないとな」
「律儀なんだな。じゃあ付き合ってくれ」
町を歩くライザスとジーナ。
町民たちは大鎌を携えたジーナに当然驚く。
「ライザスさん……その人は?」
「旅の賞金稼ぎのジーナだ。昨日酒場で知り合ってな」
「よろしく」
パトロールは続く。
町の人々はライザスには挨拶するが、ジーナには……。
「ど、どうも」
「こんにちは……」
「……あ、どうも」
どうしても怖がられてしまう。さほど広くない町である。彼女が“死神”と恐れられていることが広まってしまったらしい。
「悪いな、みんな気のいい奴らなんだが」
「かまわない。こんなものを持ってるのだ。怖がられて当然だ」
ジーナは微笑むが、その笑みはどこか寂しげだ。
昼頃になり、
「そろそろ昼飯にしないか?」
「ああ」
レストランに入る。
「ここの豆のスープは絶品なんだ」
「いただこう」
やがて、いい匂いがするスープが出てくる。ジーナはスプーンでそれを口にした。音を立てない上品な仕草だった。
「おいしい!」
「そうか、よかった」
好評でライザスもほっとする。
午後も町を歩き回り、その日のパトロールは終わった。
ライザスは考える。
「何とかして町になじませてやりたいが……」
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「今日はどこに行くんだ?」
「町の子供らに剣を教えに行く」
「剣を?」
「といっても、チャンバラごっこみたいなもんだけどな」
ここでライザスはふと思いつく。
「よかったら、ジーナ。お前も来ないか?」
「私が……? いや、教えられることなんてないし……」
「いいからいいから。子供と交流するのもいい気分転換になるぞ」
「お、おい……」
半ば強引にジーナを町の広場に連れていく。
そこには10人近い少年少女が待っていた。子供たちに木剣を持たせ、さっそくライザスは指導を始める。
「よーし、さっそく素振りから始めるぞ! しっかり握って、気合を入れて振るんだぞ!」
「はーい!」
みんなで素振りをする。ライザスの指導は厳しさもあったが、剣を振るう楽しさを覚えてもらおうというニュアンスだった。
ジーナはそれを微笑みながら眺める。
すると――
「お姉さん!」
「ん?」
一人の少女が話しかけてきた。
「あたしメグっていうの! あなたは?」
「私は……ジーナという」
「おっきな鎌だねー!」
「コ、コラ……危ないぞ」
慌てて鎌をどかすジーナ。
「ねえねえ、見せて!」
「?」
「振り回すところ見せてー!」
この様子を見て、他の子供たちも集まってきた。
「俺も見たいー!」
「鎌かっけえ!」
「いや、これは見せるための武器では……」
「いいじゃないか。見せてやれよ」
「ライザス……」
頷くジーナ。大鎌をヒュルンと回し、構える
「みんな離れてろ。当たったら怪我では済まないからな」
子供たちが離れる。
ジーナはゆっくり息を吸うと――
「ふっ! せあっ! はあああああっ!!!」
大鎌を縦横無尽に振り回す。
振るごとにビュンビュンと鋭い音が周囲に響く。
剣舞ならぬ“鎌舞”が終わると――
「すっげー!」
「かっけえ!」
子供たちは大絶賛であった。
赤面するジーナ。それを見てライザスも笑う。
「ふふっ、死神も顔を赤くするんだな」
「う、うるさい」
「冗談はさておき、こうやって子供らと交流するのもいいもんだろ」
「まあ……な」
この一件は町中に知れ渡り、人々はジーナが子供にも優しく接するような女性だと認識した。
死神が徐々に町に受け入れられるようになった。