遭遇、妖魔と伊賀
ちょっと展開がおかしくなっていたので修正します。ご迷惑おかけいたします<(_ _)>
忍者……そう聞けば日本人のほとんどが知らない事は無いだろう。
諜報に長け、顔を覆面で隠し、疾風の如き速さで闇から闇を走り、いざ戦闘となれば卓越した技能で、あるいは策謀を尽くした篭絡で敵を葬る覆面集団。
伊賀や甲賀など有名どころを筆頭に古来から日本各地に逸話も史実も残る、海外でも人気のある伝説の職業とも言える。
ただ元を辿れば『忍者』とは情報戦に長けた者の総称で、史実上一番活躍の目覚ましい戦国時代には各大名たちからお抱えの秘密諜報部隊として存在していたらしい。
ようするにアメリカで言うCIAとかそんな感じ。
でも古来より『忍』の名を受け継ぐ者たちの中には連綿と受け継がれる、ある特殊な『お役目』がある事は知られていない。
昔から伝承や物語で『忍者』と『妖怪』が関りが深い事が一つの証明でもあるのだが。
ガキの頃にそんなまるで英雄譚の主人公みたいな話と、自分の家が忍者の中でも有名な甲賀の末裔である何て中二ワードを聞かされれば、そりゃ~魅了されないワケも無く俺は根拠もなく『さいきょーのにんじゃになる!』何て言っていた。
忍びの血筋の者に5歳の頃行われる『適合試験』に不合格、不適合の結果を突きつけられるまでは……。
公的に才能無しの判断をされた俺は当時荒れに荒れた。
悪い事に二つ上の姉貴は近年まれにみる最高の『適合者』だった事が俺の嫉妬心を更に掻き立てて、散々姉貴に直接酷い事を言っていたものだ。
……今となっては当時の自分は恥ずかしく、姉貴には本当に悪い事を言ったと反省する日々ではあるが。
だからなのか、俺は普通に学生をする自分を振り返りつくづく思う。
「そう、俺は一般人! 普通に日常を精一杯に生きて、普通に恋をして普通の恋愛をする青春を目指すのだ!!」
断っておくが別にコレは妥協じゃない。
『お役目』を担う姉貴を知っているからこそ思うのだ。
普通の日常と言うのがどれほど壊れやすく、そして尊いモノであるかを。
元からそんな思考があったせいなのだろうか、俺は最近になって存在に気が付いた服部さんが気になってしょうがないのは……。
観察すると時折見つける美点は数あれど、彼女の所作は実に普通に美しい。
突出せず、卑屈でも無く存在感がないと思えるくらいに普通に教室に溶け込んでいて……そして急にいなくなる。
「あれ!? もういない……」
俺はここ最近何度目になるか分からない失敗に天を仰ぐ。
部活にも入っていない彼女の帰宅時間は早いけど、とある事情からそれは俺も同じ事。
気になってしょうがない女の子に声を掛ける……最初はヘタレていた俺だが、失敗を重ねるたびに徐々にメンタルが鍛えられたのか、今日は彼女が校門を出るより前を狙って追いかけたのに……。
「く~~~何で一緒に帰ろうの一言が上手く行かない?」
クラスメイトや友達にそんな所を見られたら恥ずかしいとか当初は思っていたけど、ここ最近は彼女との接触のチャンスがあれば教室だろうが廊下だろうが攻め込む努力をしていると言うのに……。
何故かいつも話しかける直前で“いつの間にか”見失っているのだ。
「まだ俺の中に女の子に声を掛ける事に躊躇するヘタレ精神が無意識にブレーキを踏ませているんだろうか!?」
ハッキリ言えば彼女とは図書委員の仕事以外の接点が持てていない。
その瞬間でさえ彼女とは事務的な関り、会話しかしていない……それだけでも俺は舞い上がっているんだけど。
もっと彼女の事が知りたい…………自覚はしている。
今の俺は結構危うい……。ストーカー一歩手前と言われても否定する材料が無いから。
だけどその辺犯罪にならない程度に彼女の事を調べようと思ってみても、彼女の素性をする人物はほとんどおらず、それどころか彼女には友人がいる様子も無い。
というか……教室の中ですら彼女の存在を認識している人は極わずかだった。
分からないから知りたくなる…………自覚はしている。
今の俺は好奇心と恋心を混同している、男子として一番ダメな状態である事を……。
「ちくしょう……明日こそは」
そう決意を新たに今日は帰ろうかな……そう思った時だった。
「!?」
ゾクリ…………全身の毛が逆立つような不気味な感覚。
一度姉貴の『お役目』について行った時に感じた事のある、出来れば二度とお目にかかりたくなかった気配を感じ取る。
それが何であるか、そして何が近くにいる可能性があるのかを分かっていて、自分ではどうしようもない事なのも重々承知しているのに……俺は次の瞬間にはその気配のした方角に向けて駆け出していた。
・
・
・
「い、いや……こ、来ないで……」
『…………』
感じた気配は校舎裏……そして辿り着いた時俺が目にしたのは、おびえた目で腰を抜かしている女子生徒と地面に倒れる男子生徒、そして二階には届きそうなくらいに巨大な人型の影……。
その影の右腕は巨大なカッターの形状をしていて、今まさに巨大な刃物を女子生徒に振り下ろそうと迫っていた。
「ひ、ひいいいい……」
一見するとか弱い婦女子が襲われるシーンではあるが……俺は辺りに散乱する複数人の荷物と、そして影の体の中心に薄っすらと浮かぶスマフォの存在に何となく察した。
黒い影は妖魔のなりかけ……今まさに新たに作成された存在という事、つまり。
「妖魔を生みだしやがったか……馬鹿が」
「ご、ごめんなさいごめんなさい……ゆ、ゆるして……」
『…………』
俺の見解を肯定するように影に許しを請う女生徒に、聞く耳持たず巨大な刃を振り下ろす影。
「ひやああああああああああ!!」
「叫んでる暇あるなら逃げろバカ!!」
俺は個人的な感情を後回しにしてダッシュ、そのまま腰を抜かして動けない女子生徒にタックルをかまして突き飛ばした。
間一髪巨大な刃物は空を切って、吹っ飛ばした女子生徒は頭から行ったのか向こうから「ふぎ!?」とか女子としてどうなのか? って声が聞えた。
……まあ生きているなら、死ぬよりゃマシだろう。
巨大な影が一緒に転げてから立ち上がった俺にシフトチェンジしたのは間違いなく、俺が走り出した瞬間に影も俺を追いかけて来た。
「は、速い!?」
一瞬にして距離を詰めて来た影に冷や汗が湧き上がる。
人外の妖魔、喩え生まれたてであっても敵わないのは分かっているのに……。
俺は次の瞬間には“左の拳”を喰らって校舎の壁へと激突していた。
「ゴ!? …………グワバ!?」
一瞬にして肺から酸素が全て強制的に吐き出されたように息苦しくなる。
痛みよりも苦しさが先になって立ち上がる事が出来ない!
巨大な影は俺がもう動けないのを確認すると、再び女子生徒の方に体を向けた。
……正直邪魔した俺に刃のない左の拳を使い、詳細は知らないが本命に右の刃物を向ける姿勢に共感できなくも無いが…………それでも……。
「や……やめろ…………それ以上は本当に……妖魔に……」
何があったのかは知らないが、妖魔は宿主に憑りつき負の感情を糧にして生み出される存在……つまり影が仕出かした罪業は宿主が背負う羽目になる。
それを危惧して声を絞り出そうとしても肺を強打したせいか声にならない!
再び女生徒へと向き直った影に、俺は仕方が無いと覚悟をして奥の手を使おうと……。
「はあ……ヤレヤレ。やはり期待外れですか……」
「…………え?」
「この程度の者があの方の実弟であるとは……何とも腹立たしい」
しかし俺が行動を起こそうとした矢先、不意に声が聞えて来た。
校舎裏で方角的に窓もドアも何もない場所なのに、上の方から女性の声が……。
そして次の瞬間、上空から飛来した何かが人型の影の胸元を打ち抜いた。
『!?』
まさに一瞬にして胸元に風穴を開けた人型の影はそのまま動きを止めて、やがて砂山が崩れるように虚空へと消えて行く。
助かった……いや助けられた……。
俺が安堵の溜息を吐いて声のした方角、校舎の壁に目をやると……そこにはコンクリートの壁に垂直に2本の足で立ち、こっちを見下ろしている覆面の女性がいた。
動きやすさを重点に置いた服装に顔を隠した姿、そして妖魔を撃退する力を持つ存在となれば俺の知る限りそれは一つしかない。
「別組織のお役目……ですか?」
「…………」
「あ、ありがとうございます。助かりました……」
「…………ふん」
一先ず礼をと思ったのだが、俺がそう言った次の瞬間には女性忍者、いわゆるくノ一は霞の如く見えなくなった。
助けて貰ったワケだが……何とも明らかに見下した、あまり気分の良くない視線で睨まれて……だが。
何となく地面に目をやると、そこにはど真ん中を討ち抜かれたスマフォと……そのスマフォを打ち抜いた刃、苦無があった。
「この苦無の家紋……八桁車の内堅矢…………伊賀者か?」
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書籍化作品
『疎遠な幼馴染と異世界で結婚した夢を見たが、それから幼馴染の様子がおかしいんだが?』
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