第1章 1節 エピローグ
二月の下旬、札幌の外は曇っていて教室の窓の結露も凍っている。「さあ、帰るぞ」とだるそうに言いながら教室を入ってきたのは、3年6組の担任であり白髪が特徴の中田良晴だ。「あぁ、そうだ...」とまたもやだるそうな声で「外なまら寒いぞ~地面凍ってるから滑って骨折とかするなよ受験生」と少しにやにやしながら生徒たちに言う。担任の中田は普段はだるそうにしているが、案外生徒達を心配していて面倒見もいい。そのせいか、男女問わず生徒達からも人気である。「今日は時間が押しているから先生が号令するぞ~気をつけ、礼。」中田の声で今日も平凡な一日が終わる。高校生活もあと少しかと思いながら高校三年生の佐々木伸也は、帰り支度を進める。すると、教室の後ろの席から大きな声が聞こえる。「おい!伸也!帰るぞ!」そう言って帰り支度を急かすのは、親友の渡辺一紀だ。こいつは幼稚園からの幼馴染で母親同士も仲が良く、少しお調子者だが根は真面目で優しい奴だ。帰り支度が終わり伸也と一紀は教室を出ようとする。すると一紀は忘れたことを思い出したかのように、「おっと、いっけねー!先生じゃあね!」といつもの調子で担任の中田を茶化す。中田は「渡辺、敬語を使いなさい」と苦笑いをし注意をしたが、一紀は無視をするかのように笑いながら教室を出て、伸也も中田に軽く頭を下げてから後を追うように教室を出た。二人は階段を降り、少し寒気のする廊下を歩いてると、一紀が突然「もう少しで高校生活も終わりかぁ~」とため息をつきながらどこか寂しげな表情でこちらを見る。伸也も少し笑った顔をしながら「長いようで短かったな」とボソッと独り言のように一紀のほうを見た。二人は元気のない表情で靴を履き替えていると一紀が突然「伸也、やべぇスクールバスが来ちまった!」と言い、二人は大急ぎで玄関を出てスクールバスに向かって走っていった。「はぁ、はぁ、何とか乗れたな」と伸也は息を切らしながらつぶやく。「あぁ、ギリギリセーフだったわ。」と一紀は笑いながらポケットからハンカチを出し、額の汗を拭いた。二人は走ったせいなのか、バスの中は暖房が効いていて汗だくになっていた。
「なぁ伸也、いいよなーお前は勉強しなくて。俺はセンター控えているから今が一番つらいぜ。」とつり革をつかみながら窓をぼんやりと眺めている。「まぁな。とりあえず今を頑張れよ。勉強終わった後いっぱい遊べるんだから。」と曇った表情をして一紀の肩に手を置いた。実は伸也はこの時すでに進路が決まっていた。