第8章「オータム傭兵中隊」【済】
「秋」
それは死にゆく「枯葉」の季節
しかしその様は「紅葉」と語り継がれた。
「漆」「丸葉」「楓」「橄欖」「団栗」
それは「針葉樹林」をも焼き尽くし
慈悲もなく「芋の木」を灰色に染める。
刻む「年輪」の数だけ、澄んだ「森林」は「燃え盛り」
世に「み」を墜とせば、「枯れ落ちて」ゆく。
あなたはこの「秋の葉」をなんて言いたい?
カレハ・A・セプテンバー「カレハの日記」より。
第8章「オータム傭兵中隊」
第三小隊伝令
「オータム中隊長!」
オータム
「報告!」
第三小隊伝令
「はっ!先ほど調査した南西方面は地雷の密度が高く円筒方A200、42式対人地雷を含む地雷原となっており、先ほど到着した帝国機甲師団が爆破処理を開始致しました!南西側の残党兵は残り少ないとの事であります!」
オータム
「ご苦労、引き続き調査を頼む。」
第三小隊伝令
「はっ!」
出て行く兵士と入れ替わりでメープルがテントに入ってくる。
メープル
「中隊長、捕虜を80名捕らえておりますが、憲兵隊へ引き渡しますか?」
オータム
「構わない。もし抵抗したり逃亡をする場合はその場で処分せよ。」
メープルと共に今後の方針を話し合っていると、突如としてある人物の怒号が響く。
?
「お前がやったんだろ!つーかお前じゃなくてもこの際構わねぇ!ぶっ殺してやる!」
その人物の声と内容からすぐに察しは付き、様子を見に行くと
先程エイコーンとマニーホットが亡くなった塹壕の近くで第三小隊の兵士達が一人の捕虜を囲んでいた。
「G」マニー兵士「ワ、ワタシハウッテナイデス」
ルーアイス
「あぁ?お前さっきそこの塹壕にいただろ!お前がエイコーンとマニーホットを殺したんだろ!このド腐れ野郎!」
ルーアイスは捕虜として捕らえた「G」マニーの兵士の顔を思いきり殴りつけたので、
メープルは走って捕虜との間に割り込む。
メープル
「やめろ、ルーアイス!オリヴィアも何故止めない!」
ルーアイス
「こいつら数分前までは殺してよかったんだろ?なら別に構わねえだろうが!」
メープル
「捕虜に暴行を加えるのは戦争条約違反だ」
ルーアイス
「仲間をぶっ殺したこのド腐れ野郎共にタダで飯と寝床を用意しろってか?ふざけんじゃねぇよ!何が戦争条約だ!」
メープル
「今すぐに手を離せルーアイス!」
捕虜の胸ぐらを掴むルーアイスの手をメープルが引き剥がす。
ルーアイス
「大体!戦争条約違反ならこいつだってメディックのマニーホットも殺してその上エイコーンまで!だったらこいつも殺されるべきだ!」
「G」マニー兵士「ワ、ワタシ、ヤッテナイ…ヨコノヤツガ…ヤリマシタ」
ルーアイスは目に見えるほどの血管をこめかみに浮かばせる。
ルーアイス
「この野郎、生き延びる為に仲間まで売るのか!ぶっ殺してやる!」
完全に沸点に達してしまったルーアイスは肩に掛けていたスナイパーライフルを手にすると
マガジンを刺しコッキングする。
ルーアイス
「こいつの脳天ぶち抜いてやる」
その発言にメープルはレッグホルスターからハンドガンを取り出しルーアイスの眉間に銃を向ける。
メープル
「これは上官命令だ。今すぐに銃を置け。」
ルーアイス
「おいおいメープルなんだよこれは。」
メープル
「これは拳銃だ」
ルーアイス
「私を撃つのか?あ?」
メープル
「行き過ぎた行いをしようとするお前を罰するのも上官である私の役目だ」
ルーアイス
「今更そんな脅しが私に通用すると思うなよ?」
メープルはハンドガンをコッキングしもう一度ルーアイスの眉間に向ける。
ルーアイス
「第3小隊の隊長を打つのか?」
メープル
「今すぐにその銃を降ろせ。その命令が聞けないのなら上官侮辱罪と見做す。」
二人は睨み合い、トリガーに手をかける。
オータム
「二人共熱くなりすぎだ。銃を降ろせ。」
私は銃口を向け合う二人の間に入る。
メープル
「オータム!」
ルーアイス
「隊長!私にこの捕虜の銃殺許可を下さい」
オータム
「駄目だ、許可出来ない。」
ルーアイス
「隊長まで、こいつと同じこと言うんですか!そこの「G」ルマン人が先にメディックのマニーホットとエイコーンを撃ち殺したんだ!だから許可を下さい!」
オータム
「違うこいつがエイコーンを撃ったんじゃ無い、こいつは怯えて塹壕の中に引きこもってただけだ、あいつを撃った本人は私が射殺した。」
ルーアイス
「でもエイコーンとマニーホットが!」
オータム
「ルーアイス私の言うことが信じられないか?これは命令だ銃を置けルーアイス。」
ルーアイス
「そんな偽善!私はとっくに捨てた!殺されたやつの仇をっ!」
オータム
「お前は戦争が好きなのか?」
ルーアイスは何かを思い出す様に黙りこみ奥歯を噛み締める。
ルーアイス
「ッ、わ、わかりました。隊長のおかげで命拾いしたな!この腰抜け野郎!」
私の言葉にルーアイスは諦めがついたのかスナイパーライフルから
マガジンを取り外すと捕虜に投げつける。
メープル
「おい!ルーアイス!」
オータム
「もういいメープル」
メープル
「でもこれは明らかな…」
ルーアイスが投げつけたマガジンを拾い上げ、メープルに渡す。
オータム
「元から弾なんか入ってないんだよ。」
「G」マニー兵士「アリガトウゴザイマス!セイジョサマ!」
ルーアイス
「お前が隊長をその名で呼ぶな!」
捕虜が私の足にしがみ付き泣きながらお礼を言うと、勘に触ったルーアイスが捕虜の頬を殴りつける。
メープルがもう一度止めに入ろうとするもルーアイスはそれ以上はせず自分のテントへ戻っていった、
第三小隊の隊長であるルーアイスが戻った事により他の兵士達も後を追う様にテントに戻って行くが、
第三小隊の副隊長であるオリヴィアだけがその場に残る。
オリヴィア
「中隊長」
オータム
「どうした?オリヴィア伍長」
オリヴィア
「これを…。」
オリヴィアから渡されたのはエイコーンとマニーホットの認識表だった。
オータム
「あぁ…、ありがとう…オリヴィア。」
オリヴィア
「………」
用を終えたはずのオリヴィアは自分のテントへ戻らず黙ってその場に残る。
オータム
「なんだ?」
オリヴィア
「ルーアイスを怒るなら私も怒って下さい」
オリヴィアは口に加えていたタバコを外し歯を食いしばる表情をする。
オータム
「何故だ?お前は手をあげてないだろう。」
オリヴィア
「はい。しかし私はルーアイスの行為を止めませんでした。」
オータム
「そうか…。でもそれを言うなら第3小隊全員が罰の対象になる。」
オリヴィア
「私が連帯責任を負います。」
オータム
「それは連帯責任とは言わないんだが。」
オリヴィア
「でも…。」
困ったな…、この様子だと罰を与えない方がオリヴィアは気にしてしまいそうだ。
オータム
「…では罰を与える。」
オリヴィア
「はっ!」
オリヴィアは目一杯目を瞑る。
オータム
「ルーアイスに付いてやってくれ。」
オリヴィア
「え?」
オリヴィアは手に持っていた吸いかけの煙草を地面に落とす。
オータム
「聞こえなかったか?オリヴィア伍長。」
私はオリヴィアが落とした煙草を拾い、吸い口に着いた土を払って渡す。
オリヴィア
「それは罰では無いと…」
オータム
「今のあいつには、胸を貸してくれる奴が必要なんだ。」
私が少しはに噛んで答えるとオリヴィアはようやく意図を理解したのか敬礼する。
オリヴィア
「はっ!了解しました!」
オリヴィアは渡された煙草を口に加えるとルーアイスのいるテントへと走って行った。
私はポシェットから重たくなった巾着袋を出し先ほどオリヴィア伍長に渡された
二人の認識表をしまいメープルに確認する。
オータム
「こちらの損害は?」
メープル
「戦死者は30名、負傷者は70名弱といったところです。」
オータム
「30か…多いな。」
メープル
「無理な上陸作戦にしては少ない方かと…。」
オータム
「一晩様子を見たい、今夜の野営の準備を頼む、各小隊長と「勲章持ち」を私のテントへ非常呼集しておいてくれ。」
メープル
「ですが…先の戦闘で勲章持ちは4名重症どれも時間の問題かと。残りの勲章持ちは2人いますが軽傷を負っているため衛生兵より治療を受けてます、中でも第二小隊の損害が最も酷く「エイコーン」と「マニーホット」が…」
オータム
「オリヴィアとルーアイスを呼んでこい。」
メープル
「はっ!」
駆け足で去って行くメープルを背に反対方向にある私のテントへと向かっていると、
何やら私のテントの前に人だかりが出来ており、近くまできた私は一抹の不安を抱える。
なぜならその人だかりがうちの隊の人間じゃ無かったからだ。
それに【百合と盃】のシンボルマーク…と言うことはアイツが。
?「愛しのオータム!会いたかったわ!」
声の主は人混みの中から現れ駆け寄ってくると躊躇なく私に抱きつく。
オータム
「聖女ディフォリエイト!」
ディフォリエイト「あらあら、ディフォリエイトなんて他人行儀ねオータム。私の事はアヴリールと呼んで欲しいといつも言ってるでしょう?」
オータム
「聖女デイフォリエイト。なぜ前線に?」
ディフォリエイト
「釣れないわね、愛する殿方に会いに行くのに理由なんか必要かしら?」
オータム
「くっつかないでくれ。それに私は女だ。」
ディフォリエイト
「確かにそうね、あんな腰を振る事しか能のない種馬とオータムを一緒にしてはあなたに失礼ですわね。」
オータム
「た…たねうま。」
ディフォリエイト
「はぁ…その顔…私の魅了が全く効いてない…はぁ…はぁ…その顔が歪む所が私は見たいわ…快楽に溺れさせてあげたいの。」と彼女は喘ぐ様に声を上げる。
オータム
「戦場に色恋を持ち込まないでいただきたい戦闘が終わったばかりで隊の皆気が立っているんだ。」
ディフォリエイトは私の内腿に手を這わせる。
オータム
「だから触るな!気持ち悪い!」
ディフォリエイト
「あら?私にそんな乱暴な口の聞き方をするのオータム?誰のおかげで十二聖女第9席の座に座っているのかお忘れ?」
オータム
「私は代理だ。」
ディフォリエイト
「代理とは言え十二聖女の立場にあるから、この隊を持つ事が許されてるのでは無くて?」
(こいつ…。)
女神の数だけ存在する聖女、その中でも突出した能力、
例えば一国の軍に匹敵する程の能力や強大な軍を個人で持っている者等が
「十二聖女」に選ばれている。
その為、本来十二聖女の階級は「大将」以上と決められているのだが、
私はある十二聖女の代理なので軍での階級は中隊長クラスなのだ。
しかし「十二聖女」の階級が高い事には軍事的な理由以外に別の理由が存在する。
それは戦勝国である帝国の和平への意思表示。
今からおよそ16年前まで、ここエウロパ大陸を舞台に300年以上続いた12カ国による
世界大戦は世界最強の聖女とレギオンを保有する国によって終止符が打たれた。
それが今の帝国、「 U」ナイテッド王国だ。
敗戦により誇りを奪われ不満を持った各国の国民の一部は自由を願って、
独立運動を行っていたが約2年前に原因不明の疫病が流行し世界を大飢饉が襲った。
その時「 U」ナイテッド王国は周辺12ヵ国に無償で食糧支援を行いある事を条件に
12カ国の独立も認める事を公表した。
その条件がこれだ。
《各国から一人ずつ代表の聖女を選出し、選出された12人の聖女を「大将」とした、和平同盟軍を結成する事。》
これを受け入れるだけで食糧難から解放され自由と領土が返還されるのならと、
ほとんどの国が同盟に加わりその結果エウロパ大陸で最大の勢力を誇る大帝国が出来上がったのだ。
その12人の聖女のうちの一人、第4席に座るのが彼女「ディフォリエイト・アヴリール」だ。
その能力は【魅了】
彼女はその力を使い自国「 K」ュプロス王国の民の心を支配し、
自身を偶像崇拝させる事で彼女は「 K」ュプロス王国で強い信仰、
崇拝の対象となり世界最大の「レギオン」を保有するまでに至り
「 K」ュプロス王国代表の十二聖女に選ばれた聖女なのだ。
私は元々「十二聖女」になんかなるつもりはなかったが、
傭兵だった私達は和平同盟が結ばれた所為で露頭に迷っていた時に
「十二聖女第9席に座れば仲間達を丸ごと帝国の傭兵中隊として引き入れる様に取り計る」と
ディフォリエイトから帝国軍に勧誘され、その誘いに応じた私は十二聖女第9席に代理として座り、
自分のレギオン「オータム傭兵中隊」の帝国軍内での自由権を手にしたのだ。
オータム
「非礼を詫びる、聖女ディフォリエイト。」
ディフォリエイト
「分かれば良いのオータム…。」
ディフォリエイトは私の鎖骨に手を這わせると人差し指でなぞる様に胸をさわる。
ディフォリエイト
「こんな出来損ないの寄せ集めみたいな中隊なんか捨てて私の所へ来ない?」
オータム
「お誘い大変恐縮ではございますが結構です、私にとって忠誠を誓ってくれたこの中隊員こそが私が守るべきレギオンなのです、それより用件は?」
ディフォリエイト
「あら残念…」
ディフォリエイトは自分の谷間をまさぐり一枚の羊皮紙を取り出す。
ディフォリエイト
「用件は明日の朝に決行される任務の指令書をあなたに渡す事よ。」
オータム
「明朝ですか?随分切迫した任務ですね」
ディフォリエイト
「皇帝直々の命令よ。」
オータム
「皇帝が?」
ディフォリエイト
「えぇ、あなたの国の本当の9番目が不在だから」
9番目…「 I 」ルランド王国から選出された十二聖女第9の席に座る聖女
「赤毛のマルバ」あの日教会でルーシーを殺した裏切り者は2年前から姿を晦ましている。
オータム
「ご足労おかけして申し訳ありません。」
私はディフォリエイトから書状を受け取り、内容に目を通す。
ディフォリエイト
「明日の大規模作戦には私達の部隊も後追いで参加するわ。」
オータム
「こんな作戦にこれだけの人数が参加するんですか?」
ディフォリエイト
「えぇ、念には念をとの事ですわ。」
オータム
「念には念を…。聖女ディフォリエイト一つ頼みを聞いて貰っても良いだろうか?」
ディフォリエイト
「いいわよ、他でもないあなたの頼みなら喜んで聞いてあげるわ」
この仮りは高く付きそうだが、私はディフォリエイトに保険をかける事にした。
メープル
「失礼します!オータム傭兵中隊自由特殊作戦群!第一小隊長メープル!第三小隊のルーアイスとオリヴィアを連れて参上しました」
オータム
「構わん、入れ」
言われた通りメープル達はテントに入ってくるのだが…。
ルーアイス
「隊長ー、テントの外に性悪聖女ん所の下っ端がアホみたいに屯ってるんすけどー」
ルーアイスの発言に私は思わず頭を抱える。(たまんねーなこいつ…。)
ルーアイス
「うわっ!なんだこの臭い!随分趣味の悪いコロンに変えるましたね隊長」
オリヴィア
「ルーアイス、上官侮辱罪よ。」
ルーアイス
「だってまるで娼館みてぇなにぉいっ!」
メープルはルーアイスの頭を掴むと思いっきり地面に叩きつける。
ルーアイス
「痛ってぇ!なにすんだよ!メープル」
顔面を地面に叩きつけられたルーアイスの隣でメープルは跪くとルーアイスと同じ様に顔を地面に付け
高らかに声を張る。
メープル
「民に選ばれし偉大なる十二聖女、キュプロスの王女ディフォリエイト・アヴリール様誠に申し訳ありません!この度の部下の無礼千万な発言は全て上官である私の指導不足に責任があります!どうか私に償わせて下さい!」
ディフォリエイトは淫らな人間ではあるがこれでも一国の王女だ、
場合によっては国家間の問題に発展しかねない。
オータム
「私からも部下の非礼を詫びよう、ディフォリエイト」
ディフォリエイトは微笑むと地面に顔を擦り付ける二人の前に立つ。
ディフォリエイト
「面を上げなさい。」
二人は恐る恐る顔をあげる。
ディフォリエイト
「私の匂いはそんなに臭かったかしら?」
ルーアイス
「とんでもございません!とっても良い匂いであります!」
ディフォリエイト
「お上手ね。では具体的にはどんな匂いだったか参考までにお聞きしても?」
ルーアイス
「石鹸!ぶへっ!」メープルはルーアイスをもう一度地面にめり込ませる。
メープル
「わ!私がお答えします!優雅で気高き聖女様の髪色に相応しい青薔薇とその清く美しい御身体を連想させる様な白百合の香りです」
ディフォリエイト
「嬉しいことを言ってくれるわねあなた。気に入ったわ。」
メープルの賛辞が気に入ったディフォリエイトは彼女の頬に手を当てる。
ディフォリエイト
「あなた私の子にならない?」
メープル
「ディ…ディフォリエイト様…?」
数秒見つめ合うとデォフォリエイトが口を開く。
ディフォリエイト
「ん?この子…。何故…?」
ディフォリエイトはぶつぶつと呟き始める。
オータム
「ディフォリエイト、申し訳無いがメープルはうちの副隊長なんだ。」
私の言葉を聞いたディフォリエイトはピクピクと肩を震わせると、
ディフォリエイト
「フフ…アハハハ!面白い…面白いわオータム!」と笑い出す。
オータム
「ど、どうしたんだディフォリエイト?」
ディフォリエイト
「いいえ、なんでも無いわ。あなたの中隊の子がどの子も可愛くて。」
オータム
「そうか、それはよかったけれどどうかルーアイスを許して欲しい。」
ディフォリエイト
「えぇ、今回はこの子に免じて許してあげるわ、えっとルーアイス?ちゃん?」
ルーアイス
「は!はい!」
ディフォリエイト
「もうこんなお痛はしちゃだめよ?でないとあなたが泣いて懇願するほどの快楽で骨抜きにしちゃうからね?」
ルーアイス
「はっ!はい!肝に銘じます!」
ディフォリエイトはルーアイスを脅かすとやっとテントを後にした。
つづく…。