第5章「シスター・ルーシと赤毛のマルバ」【済】
「秋」
それは死にゆく「枯葉」の季節
しかしその様は「紅葉」と語り継がれた。
「漆」「丸葉」「楓」「橄欖」「団栗」
それは「針葉樹林」をも焼き尽くし
慈悲もなく「芋の木」を灰色に染める。
刻む「年輪」の数だけ、澄んだ「森林」は「燃え盛り」
世に「み」を墜とせば、「枯れ落ちて」ゆく。
あなたはこの「秋の葉」をなんて言いたい?
カレハ・A・セプテンバー「カレハの日記」より。
第5章「シスター・ルーシと赤毛のマルバ」
私はいつもの様に猟で狩った獣を肩にかけ港へと向かう。
ディングル島では一つの季節が終わりはじめ、じきに秋になる頃合いだ。
市場は以前よりも賑わっていない。
それもこれも全て原因不明の流行病の所為だ、島民の半数が感染しその度にシスターが治療している。
なんとか生活が出来ているのは、週に一度の帝国軍による配給があるからだ。
元々疫病の発生源であった北部から病は急速に南下し今や「 I 」ルランド全土に感染は広まり首都は
ほぼ陥落、それをきっかけに「 I 」ル国民は移民となる人も少なくは無いと言う。
しかし多国家も感染者を自国に入れたくは無いと、現在「 I 」ル国民のほとんどが露頭に迷っている
現状にあり疫病の被害が大きい南「 I 」ルランドに未だに住んでいるのは私達の様な田舎者くらいだと
帝国兵はボヤいていた。
私は配給品を受け取り教会に戻る。
シスター
「カレハ!あなたまた猟に出ていたの?今は島でも疫病が流行っているんだから大人しくしていなさいとあれ程…ごほっごほ」
カレハ
「配給品を受け取りに行ってただけだよ、それにお祈りの後なんだから叫ぶと身体に触るよシスター。」
最近祈祷の治療をするシスターの容体が日に日に悪くなっている。
この原因不明の流行病、国では死者も多数出ている中、この島の比較的死者数が少ないのは
シスターの「治癒の奇跡」のおかげだ。
しかし治療をしても、また同じ疫病にかかる人が絶えないのでシスターは疲弊していく一方なのだ。
そこでなんとかしてあげたいと思った私は配給品の芋なんかよりも栄養価が高く新鮮な食料を
手に入れる為にこうやって時折狩猟に出ている。
シスター
「話を、そ!ら!さ!な!い!もしあなたに何かあったら!ごほっごほっ……」
カレハ
「わかった気をつけるから!とにかく今は少しでも休んでよシスター。ね?」
シスター
「まぁ、今日はこの辺にしといてあげるわ。この後病にかかった八百屋のおじさんへの祈祷もあるし。」とベッドに横になる。
カレハ
「こんな状態でお祈りするの?シスターの身体が持たないよ、それにこの能力万能って言う訳じゃ無いんでしょう?」
シスター
「えぇ、決して万能では無いわ。けれど私は自分のこの命に値する人間になると誓って聖女ヴリキッド様からこの力を与えられたのだから自分の手の届く所で苦しんでいる人を助けたいの。私はこの命に値する人間でありたいのよ。」
シスターはベッドから起き上がり身支度を始める。
カレハ
「言いたいことはわかるけど、それでシスターが苦しむのはなんか辛いよ。」
シスター
「あなたの純粋な優しさが私は好きよ、とても心が癒される。帰ってきたら話があるから起きておいて頂戴、前の配給の残りを蒸し芋にしてあるから、おやつに食べてもいいわよ。」
カレハ
「えぇーあれまずいじゃん、なんか嫌いなんだよね、八百屋のおじさんの芋の方が断然美味しい。」
シスター
「だったら早くおじさんを治療しないと行けないわね。」
カレハ
「それに私、帝国兵?があんまり好きじゃないんだよね。(影で私達の事、田舎者とか言ってたし。)」
シスター
「贅沢言わないの!疫病での飢饉の中、帝国が和平へのきっかけとして貴重な食料を分け与えてくれているのよ?感謝こそすれど文句を言うなんて、贅沢どころか傲慢以外の何者でもありません!」
カレハ
「そりゃーわかってるけど、なんかあいつら上から目線で嫌いなんだよ。」
シスター
「はいはい、夕方には帰るから起きてるのよー。」と言いながらシスターは
八百屋のおじさんの元へと行ってしまった。
カレハ
「わかったよ。」
閉まる扉に向かって呟きながら私は蒸した芋を口にした。
カレハ
「やっぱり不味い。けほっ…。」
夕刻を迎え水浴びをしていた私は教会の方で大きな音がしたので様子を見にいくと。
「はぁ、はぁ、」と荒く息をつくシスターが倒れていた。
カレハ
「シスターどうしたの!」
シスター
「大丈夫よ、少し立ちくらみしただけ…ごほっ…ごほっ…」
・赤い嘔吐
カレハ「全然大丈夫じゃ無いよ!凄い熱、顔色も悪いし、もしかして疫病に!?すぐにベッドに運ぶから!」とあたしはシスターを抱えてベッドに運び、おでこに井戸水で冷やしたタオルをかける。
シスター
「ありがとうカレハ、もう大丈夫よ」
カレハ
「少しは落ち着いた?何があったの?」
シスター
「特に何かがあった訳じゃ無いわ、少し疲れが溜まってたみたい。」
カレハ
「シスター、私に能力の事で何か隠してない?患者が増えるにつれてシスターの身体がどんどん悪くなってる気がするよ。」
カレハ
「そうね…確かにここまで来ると私も言い逃れは出来なさそうね…話すからそんなに眉毛を八の字にしないで」と微笑むと話を続ける。
シスター
「私は女神ヴリキッドに選ばれ聖女となり、この大きすぎる能力を使って人々を救っているけれど女神の力を使うには代償が必要になるの。」
カレハ
「代償?そんなの死んだ後に召使いにされるので十分払ってるじゃん!」
シスター
「えぇ、その通り。それが私たち聖女が払うべき代償。そして私が女神に抱いた願いは苦しむ人を、救ったり、祈ったり、誰かを癒したいと言う願い。その願いを叶える為に女神が私に与えた能力とは全ての傷や病を直す能力では無く。【強奪】する能力」
カレハ
「ま。待って、どういう事?」
シスター
「私は人の身でありながら傲慢にも人を救いたいと神に願い、その傲慢さ故に「人の病を奪う」そして強奪したものは自分の物となる、それが自分にとって良いものだろうと、悪い物だろうと、カレハ、女神の目的は何?」
カレハ
「天使に…する事。」
シスター
「それはつまり。」
嘘だ…。
シスター
「私達を。」
やめて、シスター。
シスター
「どれだけ早く殺せるかと言う事なの。」
カレハ
「そんな…じゃあ疫病に苦しむ患者の病は治った訳じゃ無くて全てシスターが肩代わりしてるって事になるんじゃ……?」
シスター
「えぇ、それで人が救えるのなら私は安い代償だと私は思っているわ。聖女に選ばれた人間は普通の人間とは比べ物にならない程頑丈になるし、例えそれで命を落としたとしても目の前で苦しんでいる人を見捨てて死ぬよりかはよっぽどマシだと思ってしまったの。」
カレハ
「理屈はわかったけど私はシスターがこの世から居なくなるのは嫌だよ。」
シスター
「傲慢な私を許して頂戴カレハ。例えこの世から居なくなってカレハの目には映らなくなってしまったとしても、私は天からあなたを見守り、そしてあなたの側にいる事を約束するわ。」
カレハ
「やめてよシスター、本当に死んじゃうみたいじゃん、それに私シスターが居なくなったらどうしたら良いか分かんないよ…。」
シスター
「だから、いつも言ってるのよあなたにとって私だけが正解になってしまったら、私が居なくなった時あなたはどこにも進めなくなってしまう、あなたが出した答えがあなた自身を救うのだと、それに私はこんな所でくたばったりはしないわ。」
カレハ
「ぶっ倒れといて、かっこつけないでよ。」と私が言うと、二人して笑った。
シスター
「カレハ、キッチンにシェパーズパイがあるから食べても良いわよ?」
カレハ
「今はいいよ、シスターが心配だもん。」とは言ったものの
シスターの看病に必死で半日何も食べていなかった私の腹の虫が鳴る。
シスター
「やっぱり、お腹空いてるんじゃない。パイならここでも食べられるでしょう?私は構わないから」
カレハ
「わかった、ちょっと待ってて。」
私はキッチンへ戻りシェパーズパイを木のお盆に乗せると、
先ほど淹れてあったコーヒーも乗せてシスターの元へと戻る。
カレハ
「はい、シスター。」
シスターにはコーヒー渡し、自分はシェパーズパイをもぐもぐ頬張る。
シスター
「ありがとう。今日出がけに大切な話があると話していた思うのだけれど、今良いかしら?」
カレハ
「そういえば言ってたね。」
シスター
「あなた「 I 」ルランド国家の自由派と平和派の事は知っているかしら?」
カレハ
「平和派の事はあまり知らないけど、自由派の人達が北部で自由を願った義勇兵を集めてるって漁師に聞いた事があるよ、なんだっけ【北の荒くれ、南の腰抜け】って奴?」
シスター
「カレハも聞いたことくらいはあるのね、自由派はその名の通り自由を掲げてる、帝国との和平に賛同せず自由の為であれば戦争をする事も厭わない人達、そして平和派はその逆帝国と和平条約を結び戦争をしたく無い人達の事よ。自由派は北部、平和派は南部と言われているけれど、国内の実際の割合は1対9で平和派の人間の方が圧倒的に多いの。」
カレハ
「戦争は皆したくないもんね、となり村のお婆ちゃんも言ってた、アレは酷い悪夢だって今でも魘されることがあるって、けどなんでそれが大事な話なの?」
シスター
「あなたは次の安息日に北「 I 」ルランド行きの船に乗りなさい。」
カレハ
「え!?なんで急に!」
シスター
「さっき言ってた、北「 I 」ルランドの自由を願って結成された北アイルランド自由軍のリーダーがあたしのたった一人の親友なの。名前はマルバ。」
カレハ
「マルバさん…ごほっ…ごほっ…。」
シスター
「カレハ?どうしたの?」
カレハ
「大丈夫…気管に入っただけだよごほっごほっ」
シスター
「あなたもしかしてっ…。」
カレハ
「違うよシスター、大丈夫だよ、疫病なんかじゃ無いよ…ごほっ」
・赤い嘔吐
シスター
「カレハ!」
カレハ
「違うって、ぎっど喉にだんが、だんががらんだだげだよ。」
あたしは床に膝を付くと口から溢れる赤い濁流を堰き止める様に両手で塞ぐ。
・赤い嘔吐
シスター
「あなた疫病にかかっているのね?早く祈祷を捧げる準備をっごほっ…ごほっ」
こんな夜更けに教会の扉が開く音がする。
コツコツとその音は近づき、やがて私の元へとたどり着く。
???
「それでは遅いよルーシー。」
シスター
「マルバ!あなた何故ここに!?前線に出ているのでは無かったの!?」
マルバ
「落ち着け、状況が変わったんだルーシー。皇帝にカレハの居場所が漏れたんだ。」
シスター
「なんですって!?」
マルバ
「つまりこれは全て…ーー…………ー…。」
私の意識は朦朧としていく。
マルバ
「カレハに○○○○を○○○○せる…だから○を○○てくれ。」
シスター
「そんなの!私が絶対に許さないわ!」
マルバ
「仕方ないさルーシー、私は構わない。こうする他にカレハを救う事は出来ない。」
(あれ?なんで…?)
何故マルバさんは私の名前を知っているんだろう、
朦朧としていた意識も次第に途切れ始め、
私の視界は黒色に埋め尽くされたまま頭に怒鳴り声が頭に響く。
マルバ
「〇〇〇〇〇〇〇〇〇!ルーシー!」
〇〇の〇〇は怒る。
マルバ
「このままではカレハは死んでしまう!?〇〇の〇〇を〇す〇ないんだ。」
シスター
「えぇ、わかっているわ。」
マルバ
「じゃあ!」
シスター
「これは全て〇〇の〇〇だ。先日〇〇〇にも〇〇〇の〇〇〇が〇〇〇〇〇ただろ、それが〇〇の〇〇なんだ。ブリタニアの〇〇〇ーー…ーーー…。」
私は意識を失い目を閉じる。
それから何分経ったのだろう、
私は意識を取り戻し起き上がろうとするも、
体の感覚が無く目が開かない!
シスター
「カレハ…マルバ…、どうか傲慢で嘘つきな私を許して頂戴。」
誰かが私の元へ近づき私の横に座った。
シスター
「私はなによりも貴方達を愛している…、だから〇〇〇を〇う〇ならば〇〇〇って〇〇〇〇、〇〇〇…泣かないで…?だって〇はあなた〇〇〇の笑顔が大好きなんだもの、〇〇〇に〇〇〇心残りがあるとすれば〇〇に〇も出来ない事だったわ。でもきっと〇〇〇〇わかってくれると私は信じる、きっとあの〇〇が必ず貴〇〇を導いてくれるわ、〇〇〇。〇〇○。」
マルバ
「○○!○は○の○に○○○○○〇〇〇!」
シスター
「カレハ、あなたはその命に値する人間になりなさい、あなたに女神は微笑むけれど、それは優しさでは無く嘲笑であると肝に銘じなさい。」
マルバは〇転がる〇の〇を持ち、〇〇〇にレミントンM1879を持〇〇〇。
カレハ
「い…や…。いや…だよ…し…すたー」
やがて〇の〇は〇〇〇に〇〇〇引き金に〇〇〇〇た。
シスター
「泣かないの、あなたはもう14歳立派な大人なんでしょう?私が居なくてもあなたは一人で歩けるわ。でももし私の我儘を一つ聞いてくれるのなら、○○○が困っていたら助けてあげて頂戴。」
カレハ
「い…や…。いや…だよ…。」
カチャ。聴き慣れた装填音と共にマルバは引き金にかかった〇〇指の〇〇〇〇〇人差指〇〇〇〇。
カレハ
「マルバさん…何をしてるの…?」
シスター
「〇〇〇〇〇〇、マルバ。」
マルバの指は徐々に折れ曲がる。
マルバ
「君が〇〇を〇〇と〇〇〇〇〇〇、よろこんで〇〇を〇〇見せよう。」
シスター
「〇〇〇〇〇〇〇〇に〇を〇〇〇〇〇〇〇マルバ…。」
マルバは〇〇〇〇を〇〇ながら、略奪〇〇〇に〇う〇に〇〇の口角を上げた。
シスター
「愛しているわマルバ、心の底から。」
マルバ
「大嫌いだよ親友。」
マルバの指は曲がり、引き金に圧力をかけた。
空の教会に一発の弾丸が鳴り響く。
あの銃声から数分経つと目蓋は開き、既にマルバと呼ばれる人物はいない。
代わりに私がもっとも大切な人物の亡骸が床に転がっている。
なぜ?シスターを…。親友だったんじゃないの?私は貴方を絶対に許さない。
あなたを殺すまで、この命を使い切ると私は神に誓う。
カレハ
【キルデアのヴリキッド、聴いているか!】
十二聖女ヴリキッド
・はい…。
カレハ
「この言葉を持って私は私を解き放つ、今この瞬間生き絶えようとも!その命に値する人間になる事をここに宣言する。」
十二聖女ヴリキッド
・あなたの願いはなんでしょう?」
カレハ
「この「銃」であいつをぶっ殺すこと。」
十二聖女ヴリキッド
・その願いを聞き入れましょう、カレハ・A・セプテンバー貴方に与える能力は。
概略・的を射る能力
カレハ
「その代償は?」
十二聖女ヴリキッド
・○○の〇〇が出来ない。
カレハ
「いいだろう。」
シスターの掌の中には自分が渡したペンダントが握られていた、
私はそれを自分のポケットに突っ込むとシスターの横に転がっていた
愛銃「レミントンM1879」を手に取り口を開く。
カレハ
「マルバ…私はお前を絶対に許さない。」
つづく…。